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赤い折り紙

これは、狐の嫁入りこと私が体験したお話。
私は訳あって高校生の頃から一人暮らしをしています。
そんな私が住んでいるマンションで先々週、こんな事がありました。

時刻は深夜三時頃。
突然玄関の方から微かに足音が聴こえたんです。
睡眠が浅い私はその音で目が覚めてしまいました。
近所の騒音などで悩まされた事もないので、珍しいなと思いながら、寝台に置いたペットボトルを手に取った時でした。

ーータタタタタッ

駆け足のような音がまたもや聴こえました。
誰かが通路を往復しているのかな?
その時はそれぐらいにしか思っていませんでした。
気にせずベッドに潜り込んだのですが、その瞬間。

──タタタタタッ

またです、あの駆け足の音。
こうなると気になって眠れません。
私はベッドから起き上がり玄関に近づきました。
別に注意してやろうとか、そういった考えはなく、ただこんな夜更けに何をしているんだろうという、単純な興味本位からです。
遠くから再び足音が近付いてきます。
ドアにそっと顔を近づけドアスコープに目を近づけました。
その時です。
ピタリと足音が止みました。
玄関の目の前で。
まるで私が覗いた瞬間に合わせるかの様に。

私は思わずその場で仰け反ってしまいました。
ドアを開けて確かめたい気持ちもありましたが怖くて出来ません。
もし人だったら……そう思うととても無理です。
もう一度確かめようとスコープに目を近付けましたが、やはりそこには何もありません。
もしかして隠れているのかも……。
想像しただけで鳥肌が立ちそうでした。

私はそっと玄関を離れ部屋に戻りました。
落ち着こうとペットボトルを手に取り口に運びます。
ですがその一瞬。

──カチャ。

玄関から音が聴こえました。
同時に私の視界の隅に、ドアのポスト口が一瞬開いたように見えました。

私は思わず叫び声を挙げそうになり、両手で口を思いっきり塞ぎました。
そして急いで部屋中の明かりやテレビを点けました。
続けてドアの方にじっと目を凝らします。
しかし何も反応はありませんでした。
ですが足音は聞こえません。
だとしたらそこから動いていない?
いや、忍び足でどこかに行ったのかもしれない。
色々考えましたけど今はとにかく動かない方がいい、そう決めた私はじっと息を殺して待つ事にしました。
途中余りに怖くて今あった事を呟怖としてTwitterに投稿したりなど……。
仲良くしてくれているフォロワーさんからリプライもあって、私の気分はだいぶ落ち着きつつありました。

それから暫くし、カーテンの隙間から朝日が差している事に気が付いた私は時計に目をやりました。
午前六時。
本来ならジョギングに出かける時間でしたけど、その日は諦める事にし、外に出ないでおこうと決めました。
ただ、あのポストの音、あれが何だったのか気になったんです。
確かめようと立ち上がり、そっとドアに近付くと、ポストに視線を落としました。

あれ……?

よく見ると何か紙切れのようなものが挟んであります。
何だろうと気になりそれを手に取ってみました。

それは……真っ赤な折り紙でした。
裏側は真っ白になっている折り紙。

何でこんな物が……?

もう意味が全く分かりませんでした。
大体何がしたいのか、あの足音といい、この折り紙といい。
考えれば考えるほど分からな過ぎて、私は段々と腹が立ってきました。
ジョギングも行けなかったし折角の休みも台無し。
なんでこんな目に……。

ふと、持っていた折り紙に目をやりました。
これのせいだ。
そう、この折り紙がいけないんだ。
無性に苛立っていた私は、最早八つ当たり気味に考えていました。
ドスドスと足音を立て部屋に戻ると、ノートパソコンを立ち上げYouTubeを開き、検索を開始し動画を再生します。
それを見ながら私は折り紙を折り始めました。
何度か失敗しましたがめげずに折っていくと、遂に完成です。

ポニョ。

そうです、崖の上のポニョ、あのポニョを折り紙で折ったんです。

私は記念に写メを一枚取ると、それを持って玄関に向かい、そっとドアを開けました。
日も昇り住民の人もエントランスに居たのでそう怖くはありません。
私は外からポストを開き、折ったばかりのポニョを挟むようにして閉じました。

「ふふふ……ざまあみろ」

もうここまで来るとヤケになっていたと思います。
いや、寝不足でハイになっていたかもです。

ことが済んだ私は満足してしまい、ベッドに倒れるとそのまま死んだように眠ってしまいました。

翌日、早朝午前五時半。
私は着替えをし準備を整えると玄関を出ました。
ポストを確認すると、ポニョはいなくなっていました。
でもそれが何だか清々しい気分に思えたんです。

一矢報いたと……。

それからジョギングに出かけ、約二時間近くしてマンションの前まで戻ってきた私は、ふと、ある物に目が止まりました。
マンションの前に三角形の小さな公園があるんです。
滑り台とシーソーしかない、至ってシンプルな公園。
その入口に小さな御堂があるのですが、そこに見慣れたあの赤色が目に飛び込んだんです。

近付き御堂の中を覗きこみました。

「あっ……」

御堂の中には可愛らしい錫杖を持ったお地蔵さんが一体、そしてその傍らには……。

「ポニョ……」

ご丁寧に風で飛ばされないよう石碑で固定されていました。
私は何だかその様子がとても可笑しく、そして可愛らしく思えて、自然と笑顔のまま手を合わせていました。
そして独り言のように呟いたんです。

「今度はトトロ……折ってあげるね……」

後にあの地蔵の事をネットで調べてみたんですが、どうも、水子地蔵のようでした。





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