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怪談配信

  俺は自宅でイラスト関係の仕事をしている。
活動時間は主に夜だ。
絵を描く事自体は好きだが、部屋で一人作業を繰り返すのは中々に集中力がもたない。
そこでいつもはネットの動画で生配信等を聴きながら作業をしている。
これは、いつもの様にネット配信を聴きながらイラストを手掛けていた時に体験した話だ。

ある日、俺はいつもの様に依頼されていたイラストを部屋で描き始めていた。

「そう言えば今日は朗読配信の日だったな……」

ヘッドホンを耳に掛けパソコンで動画サイトを開くと、俺はLIVE配信中の動画をクリックした。
元々オカルト好きなのもあり最近知った怪談朗読者の配信だ。
今日の午前0時からの配信だと昨日知って楽しみにしていた。
ヘッドホンから配信者の朗読が流れ始めた。
丁度今始まった様だ。
俺は再びペンを持ち作業に取り掛かった。

黙々と作業を続ける中、流暢な朗読が耳元で流れて来る。

やがて一段落したため俺は一度ペンを置いた。
それと同時に朗読も終わったようだ。
作業しながらなので断片的にしか頭には入らないが、ある程度の内容は把握できる。

「やっぱり聴きやすいなこの人の朗読は」

両手をあげ大きく背伸びをする。
ふうと軽く息をつき珈琲を手に取り、それを口に運んだ時だった。

『憎い……』

ん?
ヘッドホンから声が聴こえた。

何だ?まだ朗読終わってないのか?
再びヘッドホンに耳を澄ます。

『何なんだよお前、死ねよ、何で生きてるんだよ、早く死ねよ、俺はこんなに苦しんだのに……お前だけずるいだろ……』

俺は朗読を聴きながらペンを手に取った。

『何で俺だけがこんな目にあうんだ……理不尽だろ?そう思わないか?なぜ俺じゃなきゃダメなんだ、なぜ呪い何て言葉で酷い目に合わなきゃならない?こんなの不公平だろ、だったらお前らも呪われるべきだ。お前らも苦しむべきだ』

ふと、手を止めた。
何だか今日の朗読はいつにも増して迫力がある。
というよりあり過ぎて生々しいというか気持ちが悪い。

俺は他にもLIVE配信やっている朗読者がいる事に気が付き、マウスを操作しチャンネルを替える事にした。
その配信は女性配信者だったが、良い声出し好感が持てるお気に入りの一人だ。
こちらも既に朗読が始まっていたので、俺は早速聴きながら作業に入った。
すると暫くして。

『何で……なんでこんな目に合わなければいけないの?何で私が殺されなければいけないの?どうして?ねえどうして?貴方でもいいじゃない……ねえ代わってよ、私死にたくない、まだ消えたくない……だから代わってよ……』

「何だ……」

俺は顔を上げポツリと呟いた。

デジャブか?
さっきも似たような話を聞いたが……同じ話が朗読でもされているのだろうか……。

「流行ってんのかな……」

『酷いよ……皆知らないフリして……私こんなに苦しんでるのに……ねえそんなに面白い?拍手なんかしちゃって……そんなに私が死んだことが嬉しいの?楽しいの?ねえ酷くない?酷い……酷くないかって聞いてんだろ!』

「うわっ」

突然の配信者の豹変ぶりに、俺は思わず椅子の上で仰け反ってしまった。

何なんだ今日の配信者達は……。

皆これを平然と聞いているのか?
画面に目をやりコメントを読んでいく。
しかし皆在り来りのコメントしか書いていない。
面白かった、良い声だ、怖かった、今度これ読んで欲しい、遅れました、等など……。

皆変に思わないのか?

何だかしっくり来ない。
俺は再びチャンネルを替え先程の男性配信者に移った。
その瞬間。

『聴けよ!お前が死ねばいいって言ってんだよ!』

「わっ!?」

驚いて思わず椅子から落ちそうになった。

何だよ今日の配信は……。

『たまたま通り掛かって見たくもないもん見せられちまっただけだろ!それで何で死ぬのが俺なんだ!何で俺が呪われなきゃいけないんだ!憎い……憎い憎い憎い!ただ聴いてるだけのお前らが!!お前らこそ死にやがれ!!』

俺は慌ててヘッドホンを外した。
その時だ。

「お前だよ!」 「お前だよ!」

「うわああっ!!」

部屋の中に男と女の声が響いた。

以上が俺が体験した話だ。
あれ以来、俺は深夜に怪談朗読を聴くのを辞めた。
お前らも気を付けた方がいい。

怪談で哀れに死にゆく奴らは、決してそれを望んではいない事、そしてそれを面白がって聴いているのを、奴らは決して許してはいないという事を……。
聴くならそれなりの覚悟を……。



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