あの事件は誰の仕業だったのか?『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』検証と感想
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』読んだ。正直結末や藻屑父の虐待よりも友彦関連の方がグサっと来た。
感想記事漁ってて思ったのが、中盤のうさぎ惨殺事件。これ犯人がどっちか特定できないようになってるのね。こういう読者の判断に委ねられてるのを深掘りして推理するのって面白いよねということで犯人はどちらが妥当なのか考えてみる。
昨日から雨穴の動画にハマった影響で考察厨になってる。
花名島説
動機
映画デートの際になぎさと共謀して撒かれた(約束通りバス停に行かなかったのが悪い)、行きのバスで話しかけたのを無視された(片方の耳が聞こえない)とそれぞれ誤解しているので逆恨みしていた可能性はある。前日のうさぎ小屋でのなぎさと藻屑のやりとりを遠巻きから見ていた意味深なシーンもある。
ところで、花名島は本当に藻屑のことが好きだったのだろうか。
本当に好きだったのはなぎさということは考えられないか。
どうも、花名島がいきなり藻屑を好きになった理由が理解できない。
藻屑となぎさを映画に誘ったのは、本命がなぎさという真意を悟られないためのカモフラージュだと考えた方が自然ではないだろうか。
序盤、シャーペンの芯をくれとなぎさに頼むのも話しかけるフックかもしれないぜ。
事件当日の帰り道、花名島となぎさのやりとりを見てみる。
”「なんだ。……だよなあ」”
あくまで藻屑が本命なら、こんな煮え切らない反応するだろうか。
その前の切り出しも滅茶苦茶言い淀んでるし。
花名島はなぎさが藻屑にばかり構うのに嫉妬していたのではないだろうか。
なぎさが指摘しているように彼は鈍感なので、両想いに気付いてなかったのだ。
だから藻屑の挑発でからかわれたと思って殴りかかった。
もし花名島がなぎさのことを好きだった場合、なぎさが世話していたうさぎを殺したりはしないはずなので、花名島=犯人説とは背反する。
藻屑をボコボコにした暴力性が元から備わっていたものであるとするならまあやれなくもないけど。
多分花名島はなぎさが好きだったと思うんだけどなー。つまり私は藻屑犯人派なんだけど、一応花名島にも犯行ができたと証明するために推理を続けます。
アリバイ
感想記事をいくつか拝見して気付いたのだが、花名島が事件発生時の朝、部活の朝練に来ていたと勘違いしている人が多い。
彼はあくまで自主練のために朝早く登校しているのだ。
つまりうさぎを殺して、一匹だけ頭部を切り取り藻屑の鞄に入れることは一応可能である。しかし誰にもバレずに藻屑の鞄に入れることはかなり至難の業だ。例えば、藻屑に用事があるから朝早く登校するよう電話なりで頼む、何らかの手段で藻屑を鞄を置いたまま教室から移動させるというような前準備が要る。その上で藻屑の耳が聞こえない側に立って朝早くから来ている旨を糾弾すれば藻屑はその場で反論が出来ないので有利に立てるだろう。
しかし、鍵の番号をどうやって把握したのかには疑問がある。まあ一時間も早く登校すれば割と総当たりでも行けなくはない。四桁の鍵の番号が日付だと仮定するなら10000通りから366通りまで試行回数は減る。5月27日だから、1月1日から150回試していけばまあ早めに突破可能だ。
で、藻屑に誕生日を指摘されて花名島が赤面したのは小屋の鍵番号が自分の誕生日だと知ってもしやと思っていたことをズバリ言われたから。この赤面の意味は藻屑犯人説だと少し不明瞭だ。やっと好きな人に名前と誕生日を覚えられたから?純情が過ぎる。で、ここに藻屑がこの日だけ早く登校してきた理由の一端が垣間見える。生徒名簿を見るのが目的だったのだ。前日に鍵の番号を盗み見て何か意味があるのか知るために、朝誰もいない時間帯に教室に到着する。なんて健気なんだ。あるいは、「完全に泡化」すると豪語したトリックを早朝から仕込んでいたのかもしれない。
矛盾について
花名島を犯人に据えるとすると、うさぎの首を鞄に入れたタイミングに謎が残る。ここで一説を投じるなら、殺したのは花名島だが、首を切ったのは藻屑で、自分で鞄に入れたという可能性も考えられる。それなら足の不自由な藻屑でも容易に行える。花名島が狼狽えて必死に探していたのも頷ける。
また、うさぎの頭を鞄に入れたのが花名島なら教室で藻屑の鞄を開けるように仕向けるはずだ。ここからも、仮に花名島が犯人でも頭部を切断してはいないことが有力である。
「殺したけど首を斬るなんてサイコな真似はしてない」から、なぎさの前で首が無い首が無いって連呼してたのでは。
藻屑説
動機
なぎさの気を引くためとか色々考えられるけど、もしかしたら藻屑はなぎさの飼育係という役割=無職の兄を庇護すること が、彼女自身を束縛していることを見抜いていたのではないだろうか。
犬の件で悲しんでいた藻屑が簡単に動物を殺すとは思えない。藻屑は、なぎさが無意識に自分で自分を苦しめていることに気付かせるため、彼女を”飼育係”から解放するために、手始めとしてうさぎに手をかけたのではないか。だとしたらとんでもなく歪んだ献身だ。
アリバイ
足の不自由な藻屑に素早いうさぎを殺せたのかという問題はあるものの、犯行を不可能と断定できる証拠はない。
朝早く登校する。うさぎ小屋の鍵を開ける。うさぎを殺す。頭部を持ち帰る。ついでに生徒名簿を見る。
謎
凶器を何処に隠したのか。仮に鞄を開いたらうさぎの頭といっしょに鉈も出てきたのだろうか。
教室での花名島のやりとり。ダイヤルの番号を明かすのは自供とほぼ同じだ。
しかもなぜ花名島を挑発したのだろう。最初は殴打されるのを見越していたのではないかと思いもしたが、
「おとうさんにしか殴られたことないんだから!」
と激昂するなら最初から殴られるようなことを言わなければよかった。
藻屑の目的が今一つ判然としない。
ここで父親から受けていた虐待のことを考える。
父親は、藻屑が嘘つきで出来損ないだから殴るのだという。家での彼女は学校で人気者だと嘘をつく。嘘をつくから殴られる。もうしませんと懇願する。
藻屑にとって暴力のキーは嘘をつくことなのかもしれない。
では、あの場では藻屑は本当のことを言ったのではないだろうか。
真実を口にしたから、まさか殴られるとは思わなかったのだ。
であれば、なぎさの静止を無視してしつこく人魚の話をしたのは。
花名島がうさぎを殺したとなぎさに主張するのは。
なぎさが一目みて分かるように鞄からうさぎの耳をはみ出させたのは。
思った事
花名島を打ちのめして、暴力が実弾である=愛情表現ではないと知ったことは彼女にとって救いだったのだろうか。ともすればより深い絶望を招いたように思う。
藻屑が殺害された時、なぎさのいた家の外からは何の音も聞こえなかったのだ。虐待の様子を耳にした時ははっきりと藻屑の声や物音を聞いているのに。
しかもリビングや寝室で殺害されたのなら、解体されたバスルームまで血痕が残るはずなのに、なぎさは血痕をバスルームにしか認めなかった。
つまり……。
だとしても先生のこのセリフは部外者が言っていいことではない。