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【映画レビュー】見知らぬ乗客

こんにちは。マヒロです。
大好きな監督、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を見ました。

1951年 アメリカ 101分
監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ファーリー・グレンジャー
   ロバート・ウォーカー


汽車の中でたまたま知り合った男に「交換殺人」の話を持ち掛けられたガイ。最初は冗談だと思い取り合わなかったのだが……

あらすじ


主人公のガイは浮気を繰り返す妻のミリアムに愛想も付いたので離婚をし、上議員の娘であるアンと再婚をしようと考えています。
その為、離婚を希望をしていた妻の所へ汽車で向かうことにします。

ガイ役を演じるファーリー・グレンジャー

ガイは汽車の中でブルーノという男に声を掛けられます。
ブルーノはガイがアマチュアのテニス選手であることを知っており、何故かガイが妻と別れてアンと一緒になりたいと思っていることも知っていました。
そしてブルーノはこんな提案をしてくるのです。
「動機があるから捕まるんだ。見ず知らずの人間が殺しをしたら動機がなくなる。僕は君の奥さんを殺すから、君は僕の父を殺してくれないか? 完全犯罪の成立さ」
ガイは妻に殺意がない旨を伝えるのですがブルーノは話を止めてくれません。
駅にも到着したということもあり、冗談だと軽くあしらって汽車を降りることにします。
ガイはその時に自分とアンのイニシャルの入ったライターを忘れていってしまいます。
そのライターをブルーノは拾うのです。

汽車を降りたガイは妻のミリアムと彼女の勤め先のガラス張りの個室で会うことにします。
最初に離婚を切り出してきたミリアムは、仕事で結果を残すようになったガイと離婚するのはもったいないので離婚の話はなかったことにすると言い出します。

「私、絶対離婚しないからね!」

話が違うミリアムにガイは困惑するのですが、そんなガイにミリアムは悪びれた様子も見せずにこう言うのです。
「妊婦の私を捨てればアンの立場も悪くなる。あなたの子どもではなくても、世間はあなたの子どもだと思うでしょ」
ミリアムは浮気相手の子どもを妊娠しているのです。
ガイとミリアムは言い争い、その姿を周りにいる人も心配そうに眺めます。

ミリアムと話し終わった後、ガイは恋人であるアンに電話を掛け、離婚したがっていたミリアムが撤回したことを伝えます。
そして気持ちが高ぶっていたガイは思わずこんなことを口走ってしまうのです。
「あの首をへし折って殺してやりたい」

アン役を演じたルース・ロマン
美しい……

ある晩、ミリアムは男2人と遊園地に出掛けます。
その近くにはブルーノがいました。
ブルーノは男2人が一瞬、ミリアムから離れた隙に首を絞めて殺してしまいます。

自宅に戻ったガイは自宅の前である男に声を掛けられます。
それはブルーノでした。
ブルーノは約束通りミリアムを殺害したと伝えます。
「さぁ、僕は約束を守ったんだから次は君が僕の父親を殺す番だよ」
ガイは驚いてしまいます。
交換条件に乗ったつもりはない旨をブルーノに伝えますが、ブルーノはすでにミリアムを殺害してしまっています。
ガイは警察に届け出る旨をブルーノに伝えますが、ブルーノは警察はガイの話は信じないと言うのです。
ガイにはミリアムを殺害する動機があるから……
ミリアムと離婚をしてアンと一緒になりたい自分。
ミリアムの職場で言い争いをしたこと。
自分が思わず口走ってしまった「首をへし折って殺してやりたい」という言葉。
その通りにミリアムは殺されてしまったのですから。

眼鏡のキャラクター


今作では眼鏡を掛けているキャラクターが出てきます。
「珍しいな」と思いながら見ました。
今でこそ「眼鏡=悪」という概念がなくなってきましたが、以前は眼鏡はガリ勉キャラか地味なキャラが付けるような感じでした。後、お年寄り。
昔はあまり眼鏡を掛けているキャラがいなかった。
特に女優で眼鏡のキャラは本当に珍しい。
なのにこの映画には眼鏡キャラが2人も出てきます。

ガイの妻、ミリアムは眼鏡を掛けています。

眼鏡を取るとこんなに美人なんですよ!

ミリアムを演じたのはケイシー・ロージャス
眼鏡を掛けていないと華やぎます

そしてもう1人眼鏡を掛けているキャラクターが出てきます。
アンの妹のバーバラです。

バーバラ役を演じたのは、今作の監督でもあるヒッチコックの娘、パトリシア・ヒッチコックです。
今作以外にもパトリシアが出ているヒッチコック作が複数あります。

ヒッチコックの見せ方


殺し終わり、ブルーノが現場を立ち去ろうとしている時、殺されたミリアムの近くにガイのライターが置いてあります。

このライターが映し出された一瞬の間に不穏な気持ちにさせられます。

持ち主がガイだと一目瞭然な独特なライター

「ブルーノが敢えて死体の近くにライターを置いたのかな?」
「でも交換殺人を持ち出しだのはブルーノの方なのに、ガイが疑われてしまうであろうライターを犯行現場に置いていく?」
「たまたま落ちちゃっただけなのかな? いやいや、たまたま落としたシーンとかいらないしな」
ライターが映し出されたほんの数秒の間にそんなことが頭を過ります。

そして結局ブルーノが拾って現場から立ち去ってしまう。
ただブルーノが落としてしまっただけだったんですね。
「今の場面、何だったんだよ」
そんなことを思ってしまったら、ヒッチコックの術中にはまってしまった証拠です。
ここでブルーノが拾うまでの短い時間で観客を不穏にさせるんですね。
ジャブのような要素のある演出がヒッチコックらしいなと思います。
この手法、一歩間違えてしまうと観客がただただイライラするだけになってしまいます。
そこの緩急の付け方が上手い監督だなとヒッチコックの作品を見る度に思わせてくれます。

じっくりじわじわと怖がらせる為に手法を繰り出す、このヒッチコックの手法は「ヒッチコック・タッチ」と言われます。
ヒッチコックのサイコスリラーは「驚かせる」のではなく、きちんと見る者を「怖がらせて」くれます。

そしてミリアムを殺害するシーン。
ブルーノが襲った時に地面へ落ちたミリアムの眼鏡越しに犯行を写します。

眼鏡越しに犯行を写す演出、お洒落だと思いませんか?
白黒映画にとてもマッチしています。
このような凝った演出方法をするのがヒッチコックの醍醐味でもあると思います。

ブルーノ役を演じたロバート・ウォーカーの怪演


「怪演」という言葉を聞いて思い浮かべる役者としてゲーリー・オールドマンが有名なのではないでしょうか?

「レオン」のゲーリー・オールドマン
レオンだけに問わず、いつもぶっ飛んでます


今作でブルーノ役を演じたロバート・ウォーカーも負けていませんよ!

ブルーノ役を演じたロバート・ウォーカー

とにかく気味が悪い!
何を考えているのか、どうしてそんなことを考えてしまうのか……
そんな人間が「普通」を取り繕って自分に近付いてきたとしたら防ぎようがあるだろうか。
一方的で尚且つ猟奇的なブルーノはそら恐ろしさ抜群です。

感想

汽車の中で椅子に座ろうとした時に、向かいに座っている男とコツンと足がぶつかってしまった。
「すみません」
ガイとブルートの出会いはそんな所から始まります。
日常的にもそんなことがありそうですよね。
もし、たまたま足がぶつかってしまった相手が凶器的な人間だったら皆さんはどうされますか?
凶器的な人間に執着されたら……

観客を「じわじわと恐怖に陥れる」ことが上手なヒッチコック。
今作は現代に見たら派手さが物足りなく感じる部分もあるかもしれません。
ですが、ヒッチコック・タッチはジワジワとサイコスリラーの世界に無意識のうちに浸らせてくれます。


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