夫の失踪

昨日、夫が失踪した。

共働き夫婦だが、仕事中も時間を見つけては、毎日のようにラインを楽しんでいる。

出勤時間が違うので後から家を出る方だったら「行ってきます」
お昼時間は「いただきます」
仕事が終わったら「仕事あがったよー」
「今日も仕事を頑張ろうね」
「今日もいい日にしようね」
仕事終わりに合流して一緒に帰る日は「今日、帰り楽しみだなー」
などなど。

既読になると返信がなくてもホッとする。
でも昨日は、途中から既読にならなくなった。
それまでのラインのメッセージも、絵文字がついてない。

どうしたんだろう

少し心配になりながら、これから私は歓送迎会。
「大丈夫だろう。」そう言い聞かせ、頻繁にはない職場の飲み会を楽しむことにした。

途中、お手洗いのタイミングで夫に電話をかけてみる。
ライン通話に出てくれない。
電話番号のほうにかけてみる。
「お客様がお掛けになった電話番号は、電波が届かないところにおられるか、電源が入っておりません。」
「・・・。」
不安がよぎる。
でも、きっと何か集中したくて敢えて電源を切るか、何らかの都合で充電が切れていることに気づいてないのだろう。
そう言い聞かせ、歓送迎会に戻った。

会は22時頃、終了。
夫に電話を掛けてみるも、繋がらない。
何かおかしい・・・
電車に乗り、何度もメッセージやメールを送るも反応なし。

乗り換えのタイミングで、夫の両親に電話を掛けてみる。
でも実家には行っていなかった。
家にいるのかな。
でもいたら、これだけ時間が経過していたら絶対に電話をかけ直してくれる。
今日は予定はないし、私に伝言なしに出掛ける人ではない。
先に寝る人でもない。絶対に私を待っていてくれる。
とすると・・・
何かトラブルに巻き込まれたのかな。
嫌な予感ばかり倍増する・・・
もしかすると、家に入ったら私も巻き込まれるのかもしれない。
私も主人と同じ被害に遭うかもしれない。

こわい。
家に帰るの、どうしよう。

警察に相談して一緒に家に入ってもらおうかな。
でも違った時に地域で騒ぎになるのは気が引ける・・・
その時、思った。
夫と一緒の目に遭うならいいや。
夫の痛みを私も感じよう。
夫が死んでるなら私も一緒に死のう。
夫がいない人生なんて考えられない。

そう思った時、私は、この先何があってもこの人とずっと一緒に生きていけると思った。
失いたくないと思った。

夜11時半に帰宅し、夫の車が停まっているのを確認。
でも家に明かりが灯っていない。
不安を抱きながら、車の中を確認、人影なし。
じゃあ、家の中にいるかな。
どこかの窓に明かりが灯いてないか確認するも、どの窓からも明かりはもれていない・・・

覚悟を決め、家の中に入る。
真っ暗。
ドキドキしながら声を出し、夫を呼びながら家中を捜す。

いない。
こんな時間にどこへ行ったの?
書き置きもないし、絶対におかしい。

不安で焦る気持ちをなんとか抑え、玄関に防犯カメラを設置していることを思い出し、確認。
そして、夫が19時過ぎに帰宅し30分後くらいに歩いて一人で外出したことがわかった。
歩いていけそうな近辺の、二人の思い出の場所や夫が好きだと言っていた場所へ向かう。

いない。
だんだん頭にきた。
ここでいなかったらもう家に帰って寝よう!
何してるの!こんな夜中に、私にこんなに心配かけて。

でも最後にもう一度だけ電話しよう。

繋がった!

ホッとしたのに。

何やってんの?!
今どこにいるの?!
何がしたいの?!
迷惑なんだけど!

つい、怒ってしまった。
夫は言い返さない。
「うん…うん…」
夫はいつも受け止めてくれる。
受け止めている。

居場所がわかったのでそこにいるようお願いし、車で急ぐ。

いた。
よかった。 
夫だ。
生きてる。
無事だった。

真夜中に溢れる万感の想い。

でも、意地っ張りな私。
さっき怒ったことが思い出されて素直になれない。
ごめんね。
家に帰ってきてくれてありがとう。
今日は疲れたね。寝よう。
明日はやりたいこと以外何もしないようにしよう。

夫が見つかってよかった。
家に帰ってくてくれてよかった。
原因はいろいろあったけど、私にもある。
失踪の前日、私は夫にイライラをストレートにぶつけ過ぎてしまったのだ。
夫いわく、昨日は朝から気持ちが限界だったらしい。
でもそんな限界な気持ちの中、イライラで夜眠りが浅く朝起きれなかった妻のお弁当に、おにぎりを3個にぎって出勤してくれたのだ。
何も言わずに。

なんて優しい人。
優し過ぎて何も言えない。

(ありがとう)

私は、この先何があっても、この人とずっと一緒に生きていきたい。
ううん、生きていける。
それだけでとっても、幸せなんだ。


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