マガジンのカバー画像

君と僕の話

6
月間連載シリーズ
運営しているクリエイター

記事一覧

君と僕の話 6

君と僕の話 6

「久保史緒里?ああ、“負けた子”ね。」

この一言で空気は一変した。

「は?」

長すぎる一瞬を乗り越えて反応したのは僕だけだった。
さくらはまだ目を開いて固まっている。

「あ、久保ちゃんの知り合いだったの?
 そっか、美月ちゃんと仲良しなんだもんね。
 ごめんなさい。」

これほどまでに謝意のない謝罪は初めてだった。
これならまだ生徒の宿題忘れを叱った方が
謝意を感じる謝罪を聞けるはずだ。

もっとみる
君と僕の話 5

君と僕の話 5

「容態は安定しています。
 あとは目を覚ますのを待ってあげてください。」

決して若くはないが、背筋の伸びたお医者さんは
ゆっくりと私たち親子にそう言って去っていった。

「ありがとうございます、、、。」

お母さんは涙交じりにお医者さんの背中へ
お礼を言った。

「お姉ちゃんはなんで倒れたの?」

怖かったけど気になって聞いてみた。

「お仕事のストレスが原因らしいわ。」

「そうなんだ、、、。

もっとみる
君と僕の話 4

君と僕の話 4

8月

夏休みが始まった。
教師になって3回目の夏休み
僕は山下美月のことを調べていた。

史緒里が最後に会っていたのが山下なのだとすれば、
、、、最期を見ていたのなら。

いやいやまだ予測の段階だ。

「、、、はぁ。」

ため息が思わず出てしまった。

「失礼しまーす。」

参考書を片手に、やけにニヤついたさくらだった。

「さくらか。どうした?」

「参考書でわかんないとこあったから来た。」

もっとみる
君と僕の話 3

君と僕の話 3

○:これは、、、、?

林:事故の瞬間だよね。

○:手を伸ばしてる、、、、のか。

林:そうだね。

○:、、、、助けられなかったのか、、、?

林:さぁ?

○:、、、、

林:久保史緒里の死に興味持ってくれた?

○:、、、、いや、持ってない。

林:へぇ。
  じゃあ、あんたの知ってることを
  教えてくれる日を待ってるよ。

あまりに突然の出来事が短い間に何度も起きた。

そのせいで普段

もっとみる
僕と君の話 2

僕と君の話 2

「久保史緒里の話を映画にしない?」

は?何言てんの?
てか、なんで史緒里のことを知ってるん?

こいつはほんまに誰や?

林:まぁ、分かりますよ。
  なんで久保史緒里のことを知ってんだ?ですよね。
  でもその前に。私以外にいますよね?
  あなたの生活に入ってきた異分子。

○:、、、、山下さくら。

林:正解♬

○:、、、、んだ、、

林:へ?なんていいいました?

○:なんなんだ、お前

もっとみる
僕と君の話 1

僕と君の話 1

2017年 秋

史:じゃあ、行ってくるね。

美:うん。
  史緒里なら、きっとうまくいく。

さ:うん。きっと大丈夫。

○:名監督と名女優からのレッスンだから
  色んなもん吸収しろよ?

史:、、、うん。
  本当にありがとう。
  色んなことがあったけど、
  皆んながいてくれて良かった。

その二ヶ月後、史緒里は死んだ。
交通事故だった。

最後に会った日は喧嘩をした。

些細な事だっ

もっとみる