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君と僕の話 5

「容態は安定しています。
 あとは目を覚ますのを待ってあげてください。」


決して若くはないが、背筋の伸びたお医者さんは
ゆっくりと私たち親子にそう言って去っていった。



「ありがとうございます、、、。」


お母さんは涙交じりにお医者さんの背中へ
お礼を言った。


「お姉ちゃんはなんで倒れたの?」



怖かったけど気になって聞いてみた。


「お仕事のストレスが原因らしいわ。」


「そうなんだ、、、。」

「まぁでも、大事に至らなくて良かったわ。
 ごめんね?学校早く出ることになっちゃって。」

「いいよ全然。家族の方が大事だもん。」

「なら良かったわ。
 正直お母さん、1人じゃどうかなりそうだったから。
 、、、ほら、史緒里ちゃんのことだってあったし。」


「そう、、、だね。」





ちょうど3年前、史緒里ちゃんは亡くなった。
その時病院にいたのは、お姉ちゃんと○○君だった。










「史緒里、、、。なんでだよ。」



重い雰囲気の中切り出したのは○○君だった。
それでもお姉ちゃんは黙ったまま。


思えばこの時から、
お姉ちゃんは様子がおかしかったのかもしれない。
目の動きが一定じゃなく、下唇を噛み締めていた。



「美月?」

「、、、。」


「お姉ちゃん?」


「、、、うん?どうした?」


「○○君が呼んでたよ?」


「嘘?」


「大したことじゃないからいいよ。
 ごめんさくら。気ぃ使わせちゃって。」




これ以降、お姉ちゃんも○○君も特に会話を交わさないまま
史緒里ちゃんは、亡くなった。













ーーーーーーーーーーゴトッ




大きい音がして気づいた。
どうやら眠ってしまっていたらしい。
懐かしいな。あれも三年前のことか。





「あ、ごめん。起こしちゃった?」




花瓶に花を挿している美人がそこにはいた。



「あ、えっと。すいません!」

「なんで謝るのよ。」


美人のお姉さんは優しそうに笑ってそう言ってくれた。
仕事の関係者かな。オーラがすごい。



というか初対面が寝顔ってどういうことよ。
すごい恥ずかしいじゃない。


「あなたは美月の、、、妹さん?」

「あ、はい!美月の妹のさくらと申しましゅ!」


噛んだ。最悪。



「っふふ。可愛いね。お姉ちゃんそっくり。
 私の名前は生田絵梨花。役者やってます。」



役者さん、、、。美人だなぁ。
アイドルグループでセンターを何回かしてそうだ。




「突然ごめんね?」

「いえいえ!全然、あの、ゆっくりしていってください。」

「ありがとう。
 でも明日も仕事だから、今日はここで帰ろうかな。」

「そ、そうですか。」

「うん。お姉ちゃんによろしく言っておいてくれる?」

「わかりました!伝えておきます。」

「ありがとうね。」









入院から1日。お姉ちゃんは目を覚ました。









「本当に良かった。もう無理しないでね?」

「ありがとうお母さん。さくらもありがとうね。」



「そうだ。生田さんが来てたよ?」

「生田さん?、、、まさか生田絵梨花さん?」


「そうそう。よろしく言っておいて、って。」


「、、、そっか。そっか、ありがとう。」



お姉ちゃんはまた目を泳がせた。








「んで?美月は大丈夫やった?」


8時 職員室
コーヒーの匂いがキツくなるこの時間帯に私は呼ばれた。



「ストレスで倒れて検査入院だって。」


「ストレスか、、、。
 まぁ大事に至ってないなら大丈夫か。」


「いい機会だからさ、お姉ちゃんと会ってよ。」


「余計ストレスだろ。」


「そんなことないよ、、、とは言えないね。
 じゃあさ、生田さんに会ってよ?」


「いや誰だよ。」


「お姉ちゃんの同僚の人。
 史緒里ちゃんのこと、何か知ってるかもしれないし。」


「そんな都合良い出会いあるわけないだろ?」


「わかんないじゃん!」


「いーや。無い!」








「美月ちゃんについて調べてるんですか?」


夕方の和やかなカフェ

生田さんはゆっくりとコーヒー片手にそう言った。


「そうなんです。」



○○君は落ち着いた声で聞いた。


「私に協力できることがあれば
 なんでもお答えしますよ?」



生田さんはにこやかにそう答えた。

やっぱり聞いた方がよかったんだよ。
そう念を込めながら私は○○君を見た


「じゃあ私からいいですか?」


緊張するけれど、
これだけは私が聞いておきたい。



「はい。なんでも聞いて?」


「久保史緒里っていう人を知ってますか?」



「久保史緒里?
 ああ、“負けた子”ね。」


和やかな空気が一変した。



To be continued 














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