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君と僕の話 6

「久保史緒里?ああ、“負けた子”ね。」



この一言で空気は一変した。






「は?」







長すぎる一瞬を乗り越えて反応したのは僕だけだった。
さくらはまだ目を開いて固まっている。


「あ、久保ちゃんの知り合いだったの?
 そっか、美月ちゃんと仲良しなんだもんね。
 ごめんなさい。」




これほどまでに謝意のない謝罪は初めてだった。
これならまだ生徒の宿題忘れを叱った方が
謝意を感じる謝罪を聞けるはずだ。




「“負けた”ってどういうことですか、、、?」

今度はさくらが尋ねた。声を震わせながら。

「あの子は選ばれなかったのよ。
 あの頃オーディションに追加合格された
 美月ちゃんにね。」

「オーディション?
 美月はそんなのやってないと思いますけど?」



「ううん。やってるよ。」

さくらは後ろめたそうに僕に言った。



「史緒里ちゃんが“1人は怖い”って言うから
 お姉ちゃんと受けに行ったんだよ。」

「そう。ちなみに私はその時審査員だったわ。」


生田さんはどこか遠くへ視線を飛ばした。








「んー。難しいですね、、、。」


四年前、審査員達は頭を悩ませたわ。
あまりの不作にね。


そんな時、久保ちゃんと美月ちゃんが現れた。



2人とも大きな可能性を秘めた素材だったわ。

でも、久保ちゃんの方が一枚上手だった。


もちろん審査員は全員久保ちゃんを推した。
だけど監督は渋ったの。

〈山下に可能性を感じる。〉


そう言ってね。

それでも受かったのはは久保ちゃんだったわ。
きっと、私達全員が久保ちゃんを推したからだと思う。


でもしばらくして、


〈やっぱり山下でいく。〉


監督は美月ちゃんを最終的にヒロインに決めたのよ。






「それって、、、あんまりじゃ無いですか?」


さくらはスカートの裾を握りながらそう言った。

「、、、そうね。
 でもこれが事実よ。
 久保ちゃんは“負けた”。美月ちゃんは“勝った”。
 ただ、それだけよ。」


生田さんは手にあったコーヒーをそっと置いた。






数日後 準備室


「、、、なんで俺より先に準備室にいるんだ?」

「、、、。
 お姉ちゃんのこと恨んでるよね?」

「誰が?」

「史緒里ちゃん、、、と○○君。」

「俺は恨んじゃいないよ!
 でも、、、史緒里はどうだろうな?」


長い沈黙が準備室を覆った。






ーーーーーーガチャ






そんな沈黙を打ち消すかのように準備室のドアが開いた。

「“興味ない”っていうのはやっぱり嘘だったんだね。」



そう言って準備室のドアを開けたのは
したり顔をしたあいつだった。



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