【超短編】物質
「あ、ああ、聞こえるかな?
あー、どうも、皆さん。本日はお集まりいただいて光栄です。
私、人体に関する研究をしているものです。
えー、まあ、ここに来ているのですから、ご存じでしょうけども、
この度私は、これまでの研究を大きく覆すような発見をしてしまいましてですね。
はい、さっそく話していきましょうかね。
まずですね、馬鹿にしてるわけじゃないですよ?
人体がおおよそ何でできているかご存じですよね?
ほんっとうにざっくり言えば、そう、水とタンパク質。
他にも、ここに集まっている皆さんなら、細かーくご存じでしょうけど。
知ってるわ!なんて言わないでくださいね?
ちょっと言いたいから言わせてください。
えー、実は私、
新しい原子を発見したんです!
そしてそれが、人体の多くを構成しているということも!
ということでね、もっと詳しく話しますね。
一つ目に、メトロノームってわかりますよね、あの、ぴっぴっぴってやつ。
そう、一定のリズムでね、うん。
あれを、天井につるした板の上にたくさん並べて置くんですよ。
で、BPM?っていうの?を揃えて、全部ちょっとずつずらして動かすっていう。
全部一定のリズムでなるなら、揃うわけがない。
なのにこれ、待っているといつの間にか音が揃うんですよ!
不思議ですねぇ。
お互いに歩み寄って、ズレをなくす。と言えば聞こえがいいですね。
悪く言えば、ズレているものを定型に正す、なんて
で!もちろん、これが機械のモノであれば揃いません!
が!私が行った実験では揃いました!
……ありえない、って顔してますね。
安心してください。板の上に並べたわけじゃないですよ。
人体の細胞に、機械で波を送りました。ひとつひとつに、同じリズムで、
ちょっとずつずらして。
人の脳ってすごいですねぇ、細胞から機械まで侵攻してしまうなんて。
二時間ほどですかね、波を送り続けていたら、
……揃っていたんです。全部、一ミリの狂いもなく。
えー、ここまでが、実験の内容です。
次に、ちょっとズレてるって思うかもしれないけど、とりあえず話しますね。
みんな、みんながみんなではないけど、『違う人』を排斥しようとしますよね?ほら、心当たりある人、いるでしょ?
ホコリが鼻に入ったなら、くしゃみをするし、気管に水が入ればむせる。
これ、なんで?
後者の方は、脳が~細胞が~で説明できちゃうけど、
前者は?
そこで私は仮説を立てた。
人体には『何か』がある!ってね。
これが研究者かーって、思ってください。
好奇心は、進歩です。
えー、ここから転じたものが、先ほどの実験です。
この実験の中盤から終盤まで、まだズレている細胞で新しい原子が見られました。
再度行ったところ、序盤には全身に、極々微量、発見できました。
この原子、普段は不可視、見えないんです。
何かが違うときにしか、姿を見せないんです。
先ほどの実験、かかる時間が、人によって異なるんです。
人それぞれに、決まってるんです。
恐らく、会話をしていても、これが現れているんでしょうけど、
確かめる方法は確立できていません。
私が生きている間に、見つかるといいな。
はい、短いけれど、私の話はこれだけです。
こんな場所で、これだけなんです。
あ、そうだ、この原子の名前、
『メトロニウム』って付けました、センスいいでしょ?
今日はここまでだけど、いつかまた、皆さんの前でこんなお話ができたらなー、って、考えてます。
本日はこんな短い時間のために、本当にありがとうございました。」
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