見出し画像

社長とヘラヘラ話してたら「迎合するな!毅然としてろ!」と怒られる

 法人課税部門は三部門あって、第一部門は通称「内部」と呼ばれ、税務署に提出された申告書を受理したり源泉所得税を専門に担当する職員がいます。第二、第三部門は調査部門で、僕の第二部門は一般調査と言って、普通の税務調査。隣の第三部門は普通でない税務調査をする怖いところ。特別調査班、通称「トクチョウ班」がいる部門です。特別調査とは通常より時間をかける必要がある、悪質な脱税的なものが想定される事案を扱う部門で、怖い人の会社をガツガツ調査する「ザ税務署」的な部門です。

 僕の法人課税第二部門は、管理職は統括官という役職の52歳のM統括官です。昔はキレキレだったけど、管理職になってストレスで体調を崩し、その後は薬を飲みながら仕事をしています。薬のせいか普段は半分眠ったような目で仕事をしているのですが、たまに現場に出ると昔のキレキレモードが復活します。僕の2回目の調査ではM統括と一緒に行った時のことです。調査2回目の僕は、社長と話す事で精一杯でした。何を話したら良いかわからないし、どう話したら良いかわからない。だから社長の話を聞き出そうとして、僕は社長におもねるような態度をとって「そうですよね〜社長のおっしゃる通りです〜」とヘラヘラしながら、手をすりすりしながら話をしてしまいました。そしたら統括が急に「事実だけを考えろ!相手の都合の良い憶測に賛同するな!」と軽くキレました。社長の話を聞くのは良いけど、「迎合するな、毅然としてろ、税務署員ということを忘れるな」という事です。その時の統括の顔は目がまん丸で仁王様のようでした。普段は眠そうなのに、こんな目になるんだ〜と感心したものです。
 もう一回キレられたのは、2年目になって僕が初めて自分で調査に行く会社を選んだ時です。「自分が行きたいと思う会社を選んできな」といわれました。僕的にはウンウン考えながら脱税してそうな会社を選びましたが、見せたら「こんな会社を選んでどうすんだ!」と選んだ申告書を投げられました。僕は税務署の流儀が分かっていなかったのです。僕が選んだのは、僕なりに申告書を見て間違いがありそうな怪しい会社を選んだのですが、税務署で調査選定で選ぶべき会社は、間違いがありそうであり、かつ所得が出ている、つまり黒字の会社を選ばなければいけなかったのです。赤字の会社では、税務調査で間違いが発生しても赤字が減るだけで、新たに収める税金が発生しないからです。黒字の会社から間違いを見つけて新たに税金を取る、これが税務署の流儀なんですが、知らなかった。
 キレた件をあげましたが、M統括は税務署内では基本的におとなしく、それ以外で怒られた記憶はありません。調査官は1日の調査が終わると、「復命」といって、その日何を見たとかどんな脱税を見つけたとかを統括官に報告するのですが、大して成果が上がらなくて渋い顔をされることはありましたが、基本的に僕のやり方に文句を言ったり否定したりすることはありませんでした。調査を何十年もやってきた人からすると新人の調査なんてツッコミどころ満載の「お前、そんなところも見ていないのかよ!」と言いたくなることもたくさんあったと思います。それでも新人の僕に「自由にやっておいで」というスタンスでした。僕が「この辺が怪しいから、もうちょっと調査したい」と言えば、賛同してくれました。薬を飲んでいるからか反応がゆっくりしているので、他人に舐められやすい傾向がありました。他の職員に陰口を叩かれたり、納税者によっては馬鹿にした態度をする人もいました。でも僕からすると、僕を長い目でじっくり育ててくれた、度量の広い人だったと思っていて、今でもとても感謝しています。

 次回は、先輩方の紹介です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?