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5日目 妻の隣で
昨晩、顔の筋肉がこわばって耐えられなくなりそうだった。本当のことを誰にも話せずに、ただただ苦しくて、迷惑をかけ続けている自分に耐えられなくなってきた。
眠ろうとする母を呼び止め全てを話した。
仕事のこと、妻とのこと、子どもたちとのこと、そして彼女のこと。
母は、1年半、彼女が支えてくれていたんでしょ。と俺を叱ることはなかった。
誰が何と言おうと息子の味方だと。
話しているうちに顔のこわばりがなくなっていった。誰かに話せたことで、少し安心して眠りにつくことができた。
朝を迎えるまで5回、目が覚めた。浅い眠りで夢を見ることが多くなるのはうつ病の特徴らしい。
やっぱりうつ病なのかな。少し自覚してきた。
昨日の母との話から、少し心の整理がついた気がして、あらためて彼女との関係は終わらせて子どもや妻と向き合わなければと思えていた。
それはすごく辛いことになるけれど、YouTubeで見た和尚さんは、不倫の相談をする相談者に対して、自分自身に戒を持ちなさいと話していた。
感情のままではなく、理性と道徳を持って生きなければ必ず自ら破滅すると。
まさに、俺の状況じゃないか。
彼女も終わらせようとしているこの関係を、俺は追いかけてはいけないんだ。
彼女は強いな。自分でそう決められるんだから。
そして、朝、自宅に帰ってみた。
妻がリビングで寝転がっている。
俺は、一緒にお風呂に入りたいと言った。
2人で向き合えたら妻のことをもっとちゃんと大切に思えるかなと思ったんだ。
妻は、間を開けて、いいよと言った。
でも、その間がまた俺の気持ちに苛立ちを感じさせた。そして俺はまた心を閉ざした。
読んでいる人もわからないよね。
いきなり風呂に入ろうって言って、答えに間ができたから苛立つってさ。
俺はわかりやすい言葉やスキンシップで愛情を感じるタイプ。彼女はそうではなく、会話とか雰囲気で感じるタイプ。
妻と付き合って20年。その愛情の感じ方の違いで幾度となく喧嘩になっている。
その蓄積が、今につながっていていると、俺は思ってしまっていた。
妻にも気持ちがある。こんな俺を見捨てないで毎日いてくれる。それなのにまた俺は自分が否定されたような気になって、妻に苛立ちをぶつけてしまった。
この繰り返し。
夫婦で話している間、2歳の末っ子が近くにやってきておままごとを始めた。
ご機嫌に歌を歌いながら、何の歌かはわからないけれど、末っ子は
なかないで
なかないで
かぞくがいるからなかないで
と繰り返し歌っていた。
涙が流れてきた。
しばらくして、また俺の気持ちが冷静になった時、妻に謝った。ごめん。俺は求めてばかりで、自分に甘く、逃げてばかりいた。
このうつ病は、そんな自分と向き合うことが最大のテーマなんだと悟った気がした。
彼女にもそう。俺は逃げで彼女に会っていた。根本の自分の人生に目を瞑って、彼女と会えば心が癒されて。でも、彼女はちゃんと子どもや自分の人生と向き合っていて、そんな俺と彼女が長くいられるはずなんてなかった。
彼女とのこれまでに感謝をしないといけない。1年半一緒にいてくれたから、俺は自分の人生とちゃんと向き合わないといけないと気づくことができた。
まだ決して乗り越えているわけではないけど、彼女との思い出はいい思い出のまま、受け入れて、家族と妻と向き合っていこう。
そう思った。
次男次女と妻と、長男のサッカーの試合を観に行った。この時間が幸せなんだ。そう考えては、幸せってなんだろう。とまた考える。
今までは、俺は自分のためにだけ生きていたのかもしれない。人のため、家族のためといいつつ、自分が救われるため、愛されるため、嫌われないために、正しい道を選んで生きてきたのかもしれない。
本当に願う幸せってなんなんだろう。
家族とのこの時間が心や頭に満足や幸福感を与えてくれるはずなのに、まだどこか自分の逃げの道を期待してしまう自分に気づく。
その度に、また顔の筋肉や首あたりが強張ってしまい、動悸がしてきて、苦しくなる。
そんな時に妻が手を繋いで、背中をさすってくれた。
すると、少し救われて、心が満たされる感覚がした。
その後の公園でも苦しくなった時に、ベンチで膝枕をしてくれた。
また、少し楽になれた。
頭や心では、妻との関係に悩んでいたけれど、身体は妻と触れることで安心するんだということに気づいた。
もっと、妻に触れていたい。そう思った。
家に帰ってからも、不安になると妻に手を繋いでもらった。
少しずつ、彼女のことを思い出しても身体が強張らなくなってきた気がする。
夜、久しぶりに妻といたいと思って家で眠ることにした。
妻の隣は子どもたちに取られてしまったけれど、今日は何も考えずに眠りにつくことができた。
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