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【読書感想4】『ナポレオンを咬んだパグ、死を嘆く猫』を読んで

概要

18~19世紀欧米の、新聞・書簡・絵画から拾った人とペット(犬をメインに猫・家畜・鳥など)のエピソードが27話分詰まった一冊。
作者:ミミ・マシューズ
訳者:川副智子
出版:原書房
発行:2022年12月
価格:2,300円+税

感想

 タイトルにもなってるナポレオン、不憫すぎた・・・。
 過去読んできた書籍でも未亡人ジョセフィーヌに片想いしてる印象が強かったけど、もう不憫確定。
 咬まれたのって、初夜のベットでだそうですー・・・ウワーwww妻のベットは、妻とその愛犬フォルチュネのものだったらしい。
 イタリア遠征に同行しない妻に宛てた督促の手紙にも愛犬のことが書かれてたと紹介があり。
 うーん。別にナポレオンが好き!味方したい!というわけでは一切ないけど、さらにリアル愛人を連れ遅れて現れるような女は、私は心の底から大嫌いだなと思いましたwww

 同じく好き!味方したい!と別に思っているわけじゃないけど、アロー戦争におけるイギリスの清に対するやり口も心の底から許しがたい。
 中国原産種のペキニーズ。
 皇室独占のわんちゃんで、宮廷外に持ち出そうものならその泥棒は凌遅刑だったものを。イギリス軍は円明園の宝物と一緒に強奪、五匹のうち一匹はヴィクトリア女王に献上されルーティと名付けられたそうです。
 アルバート公の愛犬イオスについても別立ての章で紹介されていましたが、王家は特に犬たちを可愛がり亡くなったら記念碑まで建てたとか。
 ただ、このルーティはウィンザー城で11年生きたらしいけど欧米種たちとはなじめず、イオスたちのようには記念碑があるでもなし。墓の特定さえできないとか。
 せ、切ない。
 戦利品として勝手に持ち出されて献上されたけど出身国ほどの扱いは受けなかったってことですよねぇ。まぁ10年以上しっかり長生きしてるからお世話はしてもらってるわけだけど。
 なんだか列強の傲慢エピソードだな、なんて被害妄想的な感想を抱いてしまいました。

(なんかネガティブ感想が続いちゃうけどwwwこの本はほんとに読みやすくて面白いです!)

 愛しのペットへの遺産ネタもびっくりなもの連発。
 ロンドンの裕福な寡婦は、オウムに200ポンド遺したとか!リッチ!
 それより更にインパクトあるのは、逆にペットが先立った場合。

 1885年の新聞記事。飼い猫の盛大な埋葬式が行われたけれど「猫をキリスト教徒のように埋葬するとは許しがたい冒瀆だ」と騒動が起きて、その棺を 壊して亡骸を取り出したとか!
 猫飼い現代日本人の私の目には、当時のリアルな差別(人と獣の扱い差)と一神教の懐の狭さを実感するような内容。まぁ「ペットは家族」を受け入れられない人や(どっちの意味でも)アレルギーのある人にとっては、わざわざ死んだ獣を人と同等に扱うのは信じられない!というのもよくわかります。
 ただ、悲しんでる飼い主たちに罵詈雑言の騒動起こして墓荒らしまでする徹底ぶりはどこからくるんだ・・・。
 生き物の生死観を含め、これは非常にいろんなことを考えさせられる。

 なにより、こうした積み重ねが動物愛護思考へと進んでいったのかな?とか感じずにはいられない。
 エミリー・ブロンテの躾が『嵐が丘』以上に激しかったのも、相当なインパクト・・・。
 いつの時代も”猫屋敷”はどこかにあって、はなはだ近所迷惑してるのも変わらんしwww多頭飼いしてるせいで動物たちかわいそうだったり、水晶宮でのキャットショーは劣悪環境だったんじゃないのと思うようなエピソードもちらほら。

 かの切り裂きジャック事件に導入されようとした「警察犬」もいい教訓話。
 まだ警察犬なんて制度がない時代。
 市民は犬の捜査能力に対して不信を抱くし、犯人や反対派に犬が狙われることを危惧するブリーダー、うまく連携とって活用できない警察側。
 結局、警察犬が置かれていた間の犯行発生の抑止力にはなったようですが、タイミングよく活用されることはなく。
 何事も、新制度導入には困難がつきもの。そんなエピソードだなぁと面白く読んだ次第。 

 ロンドンに猫のブロンズ像がある、ともっと早くにこの本が読めて知っていたならば・・・!実物を見に行ったのに!とちょっと悔しくなったのはサミュエル・ジョンソンの話。
 餌には牡蠣、だと?!
 ここんちの子いいなぁ(笑)
 でもこれは知る人ぞ知る有名なエピソードなんでしょうね。ブロンズ猫像は、著者『英語辞典』の上に乗ってて足元に牡蠣殻があるデザインだとか。
 いつかまたロンドンを訪れることが出来たら、是非、この猫のホッジに会いに行きたいです。

 ディケンズが飼っていたワタリガラス・グリップ、先妻に操を立てている(?)コクチョウ、テムズ川で捕獲された人喰い(?)鮫のエピソードも考察含めてすごく面白くて!おススメです。
 
 美術絵画の挿入も豊富!
 猫好きなもんで、猫の絵はどれものきなみ可愛いくて。本の裏表紙にもなってるヘンリエッタ・ロナー=クニップ『子猫の遊び』(葉巻のある机の上でドミノの牌で遊んでる)や同じく『音楽家』(ギターの中に入ったり切れた弦にじゃれてる子猫と見守る親猫の姿)にはメロメロになってしまいました♡
 躾厳しいエミリー・ブロンテの愛犬スケッチの激ウマさには驚き。
 ジェームズ・アーチャー『幼き主人を悼む犬』の、小さな揺りかごに散った花々とうなだれる黒い犬のたまらない哀愁ときたら。
 ジョージ・スタッブスのつやつやで生き生きとした馬たちは流石。

 歴史、動物、美術、人の価値観。
 いろんなものを感じ取れる良き一冊でした! 

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