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#33「昭和映画」

 前にも書いたことがあるかもしれないが、僕は昭和60年代の映画が大好きである。

 海外では『サウンド・オブ・ミュージック』『ティファニーで朝食を』などが封切られていた時代だが、僕がここで話したいのは邦画である。

 有名どころで言うと『男はつらいよ』『天国と地獄』『若大将』シリーズなんかが生まれたのも60年代。お馴染み特撮ネタで言えば『ゴジラ』なんかは50年代からとっくに活動開始しており、67年になってようやく『ウルトラマン』の劇場版が発表されている。
 あらゆるジャンルにおける日本映画のルーツが60年代にあると言っても過言ではない。あ、断っておきますが映画オタクでもなんでもないですよ。説得力もほとんどない、受け売り半分と思って読んでくださいね。

 もちろん70年以降の映画にも『釣りバカ日誌』『仁義なき戦い』『ダイナマイトどんどん』『ブルース・ブラザーズ』などなど好きな映画は色々あるんだが(目についたり耳に入ったりしたタイトルから順に見ていくのでセレクトがてんでバラバラではあるが)、それでもやっぱり60年代の映画に割合心の琴線を撫でられやすいきらいがあるらしい。

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 先日Twitterでも触れたが、『社長漫遊記』という映画を見た。

 元々僕が昭和映画に興味をそそられたきっかけは植木等の存在にあって、彼をはじめとしたクレージーキャッツの面々が贈るいわゆるクレージー映画シリーズに没頭して見まくっていた時期があった。

 クレージー映画は「サラリーマン主人公の出世道を描いた喜劇」がベースとなっていることがほとんどで、あとはそれぞれの主人公の特性(困っちゃうほどモテる、ゴマスリが得意、うっかり超天才になってしまった等)と舞台設定(会社や家庭、女性関係など)がタイトルによって違うくらいで大筋は割と似ていたりするんだが、それでも何をどんな順番で見てもなかなか飽きさせてくれない痛快な面白さがあった。
 そもそもの植木等が『スーダラ節』『無責任一代男』などの持ち歌に代表されるようなダイナミックでお気楽、明朗快活のテキトーキャラなので(ご本人の素性は実はとても真面目で堅物という逸話もあるのだが)、クレージー映画も「そんなアホな」「なんでもありか」という具合にご都合主義的な馬鹿馬鹿しさとちゃっかり感、呆気のなさでカラッと笑えるものばかりなんである。

 そうしていつしか「戦後復興期のサラリーマン喜劇は間違いない」という浅はかな価値観が植わってしまい、ならばと『社長漫遊記』に手をつけたわけだ。
 ちなみにこちらも『社長』シリーズとしていろんなタイトルがあるんだが、僕が今回『漫遊記』を選んだのは単純に何かの媒体でこのタイトルに触れたことがあったからで、特別な理由はない。シリーズ全33作あるうちの16作目とのことで、たまたま割合ちょうどいいところをかいつまめたと言えばまあそうなのかもしれない。

 森繁久彌を主役に、小林桂樹、加東大介、三木のり平がほぼレギュラー的に出演し、タイトルのコンセプトごとに少しずつキャラが異なっていくみたい。ただこれはクレージー映画でも同じで、「この役者さん前見たアレにも似たような役どころで出てたな」というのもしばしばあったので、当時のシリーズ映画あるあるなのだろう。

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 実際に見終えた感想は意外や意外、「クレージーほどカラッとは笑えない」だった。

 会社を舞台にし、仕事の業績や上下関係、女性関係を絡めたドタバタ劇という点ではクレージーとの類似点も多かった。
 ただ、大まかにいうと「男のさもしさ」「時代錯誤感」が少しスパイシーすぎる、というのが、令和を生きる20代男性の抱いた感想であった。

 他のシリーズタイトルはいざ知らずで、あくまで「クレージー映画慣れしていた身」としての「『漫遊記』単体の感想」にとどまるので、あらかじめ明記しておきたい。

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