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忘れられない患者さんの話。

今でもその患者さんのことは憶えています。
私にとても大事なことを教えてくれた、忘れられない、かけがえのない思い出の話をします。

初めての実習で消化器外科に行きました。

膵臓がんの手術をされた、術後の患者さんを担当させていただくことになりました。

膵臓がんは、早期の発見が難しいと言われている病気です。初めての実習だったその頃の私にとってはあまり想像ができない病気だったので、担当したいと思いました。

その方はとても優しく、「私でよければしっかり勉強していってください」と初めての挨拶で笑顔で言ってくださりました。

学生は、1人の患者さんのみを担当し、記録を書くか患者さんと過ごすことしかできません。その患者さんのナースコールに出ることすらできない状態でした。

その方は、術後の合併症の痛みなのかがん自体の痛みなのか、常に痛みに苦しんでおられました。…麻薬すら効いていない様子でした。

それでも、若い人の勉強のためになるならと、私が来た時に色々な話をしてくださりました。

痛みで苦しんでいる患者さんに対して、私には何も出来ない、その無力さがとても辛かったことを今でも憶えています。

でも、今しかないからこそ、教えてくださることを全て受け止めようと思っていました。実習がなければ出会うことは無かったと思うので…。

ある日、その患者さんがナースコールをされました。その時私は横にいました。突然その患者さんが、駆けつけた看護師さんに怒り始めたのです。

「あなたは、業務として淡々と仕事をこなしているだけで、思いやりや気遣いを何も感じない!看護師さんは、気持ちに寄り添い、患者がしてほしいと、今思っていることをするのが仕事じゃないのか!ほら、私の目を見て話すこともないだろう…?」

いつも優しい患者さんが怒っている姿を初めて見ました。その時はびっくりして固まりました…。

その看護師さんは、前から、「あの人痛い痛いって言って体重測定とか全然してくれないのよ。学生さんにいい所を見せたくて頑張ったみたい」と、おっしゃってました。

私はこの看護師さんのセリフに違和感を覚えていましたが…患者さんの言葉ではっとしました。

患者さんの痛くて苦しい気持ちに寄り添えていないと、患者さんに思われたから、きっと患者さんは看護師さんに怒ったんだろうな…

そして、学生である私に教えてくださったんだと思います。

患者さんにとっての理想の看護師について。
淡々と仕事をこなすだけが看護師ではない。患者さんの顔を見て、話をして、何を求めているのかを考えて看護にあたるのが仕事だと…。

私は本当にこの出来事が色々な意味で衝撃的でした。患者さんのこんな生の声を聞くことができるのは、看護実習生だからこそ。


私はこの患者さんに何を返せたのだろうか…?
にこにこ色々な話をしていただけで…。
何も、返せなかった。
勉強の知識も、全然足りなかった。
もっともっと。

とても、大切なことを教えていただきました。
この出来事が私の看護観にものすごく影響を与えていると思います。


患者さんにとって必要なこと、
看護師として譲れないところ、
このふたつをうまく考えて、
患者さんと看護師でつくっていくのが、
看護なのだと思う経験となりました。

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