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ハムストリングス肉離れ後の段階的リハビリテーション

こちらのnoteでは、スポーツ現場でも多く遭遇する、ハムストリングス肉離れについて、再受傷を防ぐためのリハビリテーションを解説しています。ハムストリングスの筋損傷後は、損傷筋の回復に合わせて負荷を上げていくだけでなく、損傷に至った原因(機能的問題点)を評価して修正するリハビリテーションを行うことで、再損傷のリスクを減らすことが可能になります。大切なことは、ハムストリングスの伸張性や筋力の再獲得だけでなく、全身に存在する「ハムストリングスに負担をかける原因」を探し出して解決することです。今回はそのような要点をまとめて、動画とともにお伝えしたいと思います。

これまで足関節捻挫と膝関節外傷後のリハビリテーションについても他記事にまとめていますので、ご興味のある方は合わせてご覧ください。


<Introduction>

ハムストリングスの肉離れは再損傷が多く、私自身も現場で苦労してきた疾患の1つです。

その過程で様々な角度から問題点を探る作業をしてきたところ、やはり機能評価が大切だという結論にたどり着きました。

丁寧に機能評価を行い、問題点を探し出して解決することで、ようやく再損傷を減らしていくことが可能になってきています。

今回のnoteでは、ハムストリングスに応力が集中する要因を考察しながら、教科書的な評価と現場で用いている実際の評価、問題の修正方法と強化を含むトレーニングまでお伝えしていこうと思います。

膝関節・足関節のリハビリテーションは、外傷である前提で回復に合わせた各時期の進行基準に沿って段階的にレベルアップしていきました。

ハムストリングスの筋損傷は、外傷要素もありながら、慢性障害のように応力集中が要因となる側面を考慮して「Assessment」と「Corrective exercise」を中心に、説明していきたいと思います。

ハムストリングス肉離れ急性期のリハビリ(患部評価、アライメント修正)

<Lv1 criteria for next step>

ハムストリングス損傷後のリハビリテーションLv1について説明していきます。Lv1は損傷直後の急性期ですので、この時期は「血腫の拡大防止」と「鎮痛」が主な目的となります。

基本はPRICEに従って、患部安静、アイシング、圧迫、挙上で対応します。電気刺激など、物理療法も有効です。最近では、筋損傷に対するアイシングの効果を疑問視する報告も散見されますので、科学的なコンセンサスについては今後の情報も継続して追いかけるべきかと思います。


ハムストリングの肉離れⅡ度損傷では、「挙上するのもつらい」ということがあります。痛みが強い場合は極力患部にストレスをかけないように過ごすことが優先です。この時期のゴールは、「普通に歩けること」です。

※「普通に歩けること」は、跛行がない状態で良いと思います。

普通に歩けない状態でLv2に進むことはありません。ただし組織修復の時間を考慮して、最初から普通に歩ける状態でも48時間は経過してからLv2に移行します。そのため、軽症でもLv1は48時間を要します。Lv2以降は重症度によって前倒しできる可能性があります。

今回はⅡ型2度損傷の肉離れを想定したリハビリテーションを解説していきます。重症度の低いものに関してはLv2以降、前倒しして進めることができるでしょう。


<Assessment (重症度)>

ハムストリング肉離れの評価では、まず筋損傷の重症度を臨床所見から推測します。私は普段、主に3つのテストを用いています。

①Passive SLRの角度

一般的なSLRテストになります。左右差で比較しておおよその重症度を判断します。チームを管理する場合には、疲労のない状態のSLR角度を測定しておくと、受傷時にどれくらい低下したかの指標になります。


②Active Knee Flexion

うつ伏せでの膝関節の自動屈曲です。ここでは、「痛みなく自動屈曲が可能か」を確認します。

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肉離れ疑いの選手全員をMRI撮影することは経済的にも難しいので、

・SLR左右差で30度以上
・自動屈曲に痛みを伴う
・歩行時痛あり(跛行あり)

上記3項目をMRI撮影をするかどうかの判断基準としています。


③Active Knee Extension Test

重症度の評価としてActive Knee Extension Testを紹介します。股関節90度屈曲位から膝を伸展させるテストです。

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このテストは患健差を10°ごとにGrade分けをして評価します。左右差が30度以上あると重症度が高いといわれ、復帰にかかる時間もGradeに応じて長くなると報告されています。

Grade Ⅰ:6.9±2.0日
Grade Ⅱ:11.7±2.4日
Grade Ⅲ:25.4±6.2日
Grade Ⅳ:55.0±13.5日
(Malliaropoulos et al, 2010)

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Active Knee Extension Testは、テスト&エクササイズとして用いています。Lv1からLv2にかけてストレッチ痛が少なくなった段階で、ストレッチとして用いることができます。特にこの時期には、組織の修復過程でもあるため、自動運動で行う方が望ましいと思います。

(MRIによる重症度についての補足)

奥脇による分類
・Ⅰ型:筋線維部、筋周膜周辺の損傷
・Ⅱ型:腱膜、筋腱移行部の損傷
(Ⅱ型はさらに横断像で損傷度に応じて1度、2度、3度に分類)
・Ⅲ型:筋腱付着部から腱性部
(奥脇ら、2019)

競技復帰までの期間
Ⅰ型:1.6±0.7週
Ⅱ型:4.9±3.7週
Ⅲ型:22.1±11.9週


Modified Peetrons分類
・Grade 0:異常なし
・Grade 1:浮腫あり、構造的破綻なし
・Grade 2:浮腫あり、構造的破綻あり
・Grade 3:完全断裂
(Ekstrand J et al, 2012)

競技復帰までの期間
Grade 0:8±3日
Grade 1:17±10日
Grade 2:22±11日
Grade 3:73±60日

MRIによるタイプ(損傷型)分類は、奥脇先生が2008年に発表されて以来、初期段階で再発せずに復帰できるおおよその期間が予測可能になった非常に有用な情報です。できる限りMRIの情報に基づいて復帰計画を構成して行くことは、選手を再受傷から守る重要な手続きであることを忘れないようにしましょう。また、Ⅱ型2度損傷においても、Jogを開始するまでは臨床所見に基づいてリハビリを進行するかたちで問題ないと思いますが、スプリントや強いキック動作などを行う前段階(おおよそ6〜8週程度)でMRIを再度撮像し、腱膜が十分修復していることを確認してもらいましょう。そうすることで、再受傷を防ぐ確率が高まりますので、重症度の高いものは臨床所見に頼らずにMRIによる修復を確認していただいた上で進めていきましょう。

<Assessment(問診)>

Lv1では、丁寧に評価をしていきたいと思います。この時期に行うハムストリングスに対する評価は、上述した重症度の評価がメインです。ここでは、なぜハムストリングスを肉離れしてしまったのかについて考察を立てていくことに注力します。

現段階で痛みなくできる評価を中心に紹介していきます。まずは、受傷機転をしっかり把握しましょう。本人からの聞き取りでも構いませんし、プレー動画があればその受傷シーンを確認します。

ハムストリングスの肉離れには、ストレッチタイプとスプリントタイプの2種類があります。

スプリントタイプは、走行中の遊脚後期に大腿二頭筋が損傷することが多いと言われています。比較的初期の疼痛は強めで、回復にはあまり時間がかからないことが多いです。

ストレッチタイプは、半膜様筋の損傷が多く、初期の疼痛は弱めですが、回復には時間がかかると言われています。受傷した場面の情報を参考にしながら、圧痛や後述する評価を用いて損傷を受けている筋のおおよその部位を推測していきます。

また、受傷部位が近位か遠位かによっても初期に導入するエクササイズが変わります。ハムストリングスは、大腿二頭筋を2筋(長頭・短頭)とすると、半腱様筋、半膜様筋の4筋の総称であり、そのうちの3筋は2関節筋です。そのため、近位部の損傷では膝関節屈曲のような遠位部の収縮練習は比較的早期に始めることができます。逆に遠位部の損傷では、股関節の伸展動作エクササイズを早期に始めることができます。つまり受傷部位と損傷タイプを把握することで、どのエクササイズから開始すべきかを決めることができるということです。


<Assessment(受傷部位)>

続いて、受傷部位の評価です。まずは圧痛を評価して、おおよその損傷部位を推測します。受傷後、時間が経過すると出血が広がり、圧痛の部位が的確に損傷部位を表していないことが多いので注意してください。

損傷部位が近位部か遠位部かをおおまかに評価する方法を紹介します。股関節屈曲位から膝を伸展すると、損傷部位が近位部であるほど痛みが強くでます。

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膝伸展位から股関節を屈曲させてストレッチを行った時に疼痛の訴えが生じる場合には、中央部から遠位部の損傷を疑います。

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<Assessment(筋出力)>

次は筋の出力状態をチェックしていきます。急性期でもハムストリングスの筋収縮を行い、筋の出力状態を評価します。自動運動時に痛みが出現する状態であれば、それ以上の負荷はかけません。自動運動で痛みが出現しなければ、どの程度の抵抗まで痛みなく出力が可能かという評価を行います。

また、膝の屈曲角度によって参画してくる筋が変わります。伸展位では大腿二頭筋が収縮しやすく、屈曲90°では半腱様筋の方が働きやすいと言われています。

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また、膝関節屈曲のMMTを行う肢位から下腿内旋位で抵抗をかけると内側ハムストリングス、外旋位で抵抗をかけると外側ハムストリングスが優位に働きます。

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屈曲位にて痛みが出る場合には、下腿の肢位を変えて抵抗をかけることで内側と外側のどちらに損傷があるのかを評価をします。ハムストリングスは二関節筋なので、股関節伸展運動にも関与しています。膝屈曲で痛みがなくても、股関節伸展に抵抗をかけると痛みが出ることがあります。この場合は股関節伸展筋として働いている近位部が損傷している可能性を疑います。

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近位部にストレスをかけるテストとして、股関節屈曲位から踵落としのように収縮を入れる方法もあります。

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これらの評価を通して痛みの有無、出力の程度を確認しましょう。実際にリハビリメニューを構成するときの重要な情報となります。

<Assessment(原因の評価)>

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