「普通アニメつくったことない人には頼まないですよ!」 西尾雄太
チェインアニメーションプロジェクト クリエイターインタビュー Vol.01 西尾雄太
没入を生み出すエナジードリンク「ZONe」が展開する「チェインアニメーションプロジェクト」
出自も個性も異なるクリエイターたちが集い、数々のアニメーションが生み出されている。この連載では同プロジェクトに参加したクリエイターたちに連続インタビューを敢行。彼らのルーツや制作環境、制作に対する意外なこだわりといった裏話満載でお送りする。
今回お答えいただいたのは、漫画家・イラストレーターの西尾雄太さん。
代表作である漫画『アフターアワーズ』のように、クラブカルチャーとも親和性の高いスタイリッシュなイラストで人気を博している。西尾さんにとって初となるアニメ制作の裏側を、5000字超えの特大ボリュームでお届けしていく。
Q01:イラストレーター/漫画家を志したきっかけを教えてください。
信じられないことに成り行きなんですよね……。これといった目標もなく「pixiv」にイラストをアップしていたら同人誌や展示の企画にフックアップしてくれた作家さんがおり、同人誌を読んで商業に誘ってくれた編集さんがおり。自分で決断した瞬間はなくて、岐路に差し掛かるたびに導いてくれる存在があったんですよね。ありがたいことです。
Q02:特に影響を受けた作品やクリエイターについて教えてください。
ボンボンに『王ドロボウJING』、コロコロに『LAMPO』。幼年誌に異様に画が巧く独創的な作家さんが連載を持っていた時期にぶち当たっていたので熊倉裕一氏、上山徹郎氏両名の影響は無かろうはずがありません。
ドラマに関しては岡崎京子氏の影響が強く、また、話し言葉/役割語のバランスについては黒田硫黄氏の啓蒙を受けていると感じます。
コミック・キューやいくつかのアンソロジー。田中久仁彦氏や佐藤明機氏が彩っていたホビージャパン社刊の各誌誌面。ビームコミックスやニュータイプ100%コミックスなどの大判コミック。
『新世紀エヴァンゲリオン』
それから、00年代初頭、PCゲーム原画にフックアップされはじめた個人サイト/お絵かき掲示板のスターたちです。
Q03:イラストやアニメーションに関わる知識はどのように学んで いったのでしょうか?
勘を頼りにしています。面倒くさがりというのも大きいですが(躓いた時だけ説明書を読むタイプ!)リファレンスやTIPSを参照しすぎて、そのものに近づきすぎることに危機感をもっているからです。尊敬する誰かから受けた影響をそのまま剥き出しでアウトプットしたとして、僕はその誰かから作家として見てもらえるだろうか? という問いが頭の中にずっとあって。それきっと否なんですよ。僕は好きな作家さんに、同じ作家として見られたい。
あと最近気づいたことなんですけど僕の漫画はイラスト的だし僕のイラストは漫画的だなぁ、と。これはときに長所にもなりますが使い方を考えなければただただ短所になります。読者さんやクライアントの要望の200ヤードむこうに着地するやつ。
以上、気を付けたいと思った件でした。
Q04:【Reverse Creative 〜探れ、深く〜】の企画を初めて聞いた時の感想・印象をお聞かせください。
むちゃくちゃだな、と思いました。むちゃくちゃな人たちだな、と。
普通はアニメつくったことない人には頼まないですよ。結果、形になったから良かったものの最悪事故ですよ。何考えてるんだと言いたい。何考えてるんだチミたちは!
Q05:今回の制作にあたって使用されているソフト、デバイスを教えてください。
iPad Pro / Procreate
Surface Studio / CLIP STUDIO PAINT
macbook pro / iMovie
Q06:今回の作品に登場するメインキャラクターの設定はありますか?
第一に、先行して公開されていたイラストレーターさんたちのカードがあったので方向性があまり重ならないようにしよう、良く言えばデッキの幅が広がるような絵にしよう、と思いました。そうして出来上がったのが、顔色が悪く、謎に手がいっぱい生えている男子です。
顔も腕の数も足りないですが、雰囲気だけは阿修羅っぽい感じになったので、アニメーションは完全に後付けで瞑想、胡坐(座禅になってない!)、チャクラ開花……といったスピりちらかした筋立てにしています。
Q07:アニメーションの制作工程を詳しく教えてください。
まず意識したのは、どのタイミングで終了の笛を吹かれても提出できるように並列で作業を進めることでした。というのも、今回の企画、参加決定時には締切りがまだ未定だったんですよね……。久々に受験デッサンの緊張感を思い出しました。(受験用のデッサンも画面全体を並行して仕上げていくことが求められます。)←豆知識
これは素人ゆえそのあたりの知識が欠落していた事故によるものなのですが、コンテは作成せず頭からラフを切っていきました。折角ならアニメっぽいことは一通りやってみたい、とカメラの回り込みからスタートしてエフェクト、ループ。
作業は線画とアニメーションのチェックを「Procreate」で行い、着彩は「CLIP STUDIO」。再び「Procreate」に戻して動画を書き出し、「iMovie」で楽曲と合わせています。
また、通常アニメーションは1秒間に表示される連続したコマが多いほど滑らかな動きが表現できるといわれていますが、12枚だの24枚だのを描いていたら早々に心折れることが予想されたので「3コマ打ち」と呼ばれる秒間8フレームにて作成しています。
ただ、8フレームだとどうしても運動にヌルいところが発生するので、そこはずらした絵を重ねてスピード感を出すなど小手先でカバーしました。最後にいただいた楽曲(avec avecさんは最高。)の尺に合わせるためにロゴを付け足して完成です。
Q08:制作された作品を振り返ってみての感想をお聞かせください。
ちゃんと動いてるように見えてくれてよかった!
それに尽きます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
(♡回答は150字前後で、とあったのでエクスクラメーションマークで埋めてみました♡)
Q09:イラストとアニメ、作品づくりにおける違いで意識されたことがあれば教えてください。
アニメーションにキャラクター原案とキャラクターデザインがあることからわかるように、アニメにはアニメとして動かしやすい、絵の交通整理が求められます。(求められるはずです。僕は門外漢なのでこの項はすべて勘で話しています。)
加えて今回、最初に作成したイラストには画面に映っていない箇所があります。ここが制作者である自分の頭の中でどうなっているかというと、実はブランクです。ややこしい話ですが彼はこの絵のなかに存在する限りはキャラクターとして成立していますが、枠の中から取り出した瞬間に破綻してしまうのです。なので再度彼に形を与えることとしました。一枚絵としてのハッタリを利かせた部分は三次元的に破綻のない造形に置き換え、①線を減らし ②少ないカラーパレットで表現します。
どうでしょう。革ジャンの鋲の数を数えるだけで頭痛がしてきたのが、これなら動かせそうに見えてきましたね。
こちらがアニメーションのために作製した設定画。イラスト版と見比べるとアクセサリーなどの装飾がなくなりスッキリした線になっている。
Q10:短編アニメの魅力を聞かせてください。
アニメーションの語源は言わずもがなアニマ(=魂)なわけですが、描かれた創作物に実存感が芽吹く(ように錯覚する)のが何よりものよろこびじゃないでしょうか。また、短編アニメーションは個人ですべてコントロールできるのが魅力だと思います。そのぶん生みの苦しみもダンチなわけですが……。
Q11:作品を制作する際に、どういったものからインスピレーション を受けますか?
世の中の空気、同時代性
価値観や倫理観の異なるもの同士の摩擦
夢のおぼろげな記憶
映画や小説のなかの会話
アパレル
ハードウェア
インターネット
Q12:制作で使用しているソフトウェアでのおすすめのウィンドウ配置設定、環境設定を教えてください。
初期設定からほとんどさわったことが無いんですよね…。(「Photoshop CC」は以前使ってた「Photoshop Elements」とちょっと配置が違ったので「Elements」の初期設定レイアウトに近づけました。)
CLIP STUDIOのブラシはダウンロードした「oil paint dry brush」を愛用してます。アンチエイリアス(弱)をかけたGペンとこれ。それからエアブラシでだいたいのものは描いてます。
Q13:よく使用するショートカットキーや便利機能があれば教えてください。
RGBずらしのオートアクション。あとこれは便利でも機能でもないんですが、描いてて色味が単調に感じたときはレイヤーをコピーして、がっつり色相を変えてからいい塩梅に削って合成するのはよくやりますね。
西尾氏に制作デスクの写真をお願いしたら「上手く撮れない!」と、わざわざ描き下ろしていただいた。PCを中心にアナログ画材や漫画などを置いた資料棚も手の届く範囲にまとまっている。
Q14:クリエイターとして今後挑戦してみたいことがあれば教えてください。
だんだんと、挑戦することより細かなアップデートを繰り返し、自分と他人を飽きさせずに長く続けていくにはどう動くべきだろうか、ということに関心の重心が傾きつつあります。
たとえばの話ですけど。大きな案件のキャラクターデザインをしてみたい、とか言うと一瞬高い目標ですね、ってなるかもしれないですけど、実際はそのキャラクターが勝手に回転してくれることを見込んだ保守ですよね。もちろんそれもやりたいです。やらせてもらいたいですけど、それはきっと何らかの結果が認められたご褒美に近くて。そこまで含めて頑張ることを目標とするならいいんですが──、
なのでそうですね、今回アニメーションをつくったのでその技術を次の仕事につなげられるように育てる、とか。次に描く漫画を前作よりも絶対面白くする、とか。そういうつまんない答えはいらないかもしんないけどモードとしてはそういう感じです。
Q15:「ZONe」の好きなフレーバーを教えてください。
赤(FIREWALL)が一番好きです。
Q16:制作サイクルをお聞かせください。
集中力が途切れやすく正確な作業時間は計ったことが無いのですが、起きてる時間の大半はPCの前で過ごしています。午前起きて昼前にエンジンかかり始めて休憩を挟みつつ、夜の2時3時くらいにエンジンが切れる、そんな感じです。
ただ、締切りが目前に迫っていたり気分が乗ってくると疲れ果てたらそのときに寝る、というゾーンに突入し、そこからは昼も夜もありません。やめたほうがいいです。
Q17:今注目しているクリエイターはいらっしゃいますか?
この質問、苦手なんですよ。なんか上から目線に見えたりしません? 大丈夫? ああ、そう?じゃあ、今回はアニメーションのお仕事なんで敬愛するアニメーター/アニメ作家さんを。
Alberto Mielgo氏
Emmanuel Lantam氏
Eno Swinnen氏
五十嵐海氏
Joel Dos Reis Viegas氏
Jocelyn Charles氏
Jonathan Djob Nkondo氏
Julien Bisaro氏
Kevin Dart氏
久野揺子氏
kwgt氏
Que氏
豊井氏
Tuna Bora氏
湯久田風氏
(A〜Z順)
などなど。ほかにもたくさん!
Q18:これからクリエイターを目指す方へアドバイスをお願いします。
僕の席を奪わないでください。うそうそ。
それぞれの場所を見つけてそれぞれやっていきましょう。粛々と自分の仕事にプライドを持ってやっていれば、たぶんいいことがあります。
たとえばそう。突然、ショートアニメの仕事が舞い込んできたり。とかね。
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