WWDJAPAN アフターインタビュー【現代美術作家 齋藤帆奈さん】#菌類に覆われた世界
①対談ありがとうございました。お話しされてみていかがでしたか。
異業種とはいえ、微生物や生態系への関心をはじめとしてさまざまな共通点をきっかけに話が盛り上がって楽しかった。
②対談のお相手であるボルトスレッズのダン・ウィドマイヤーさんから受けた刺激などはありますか。
問題意識は共通しているが、アートとテクノロジーで、問題への向き合い方に違いがありそこが興味深いと感じた。アートは問題発見、テクノロジーやデザインは問題解決と言われることがあるが、どちらも別の角度で問題を解決しようとしているのかもしれない。
具体的なポイントでとくに共感したのは、レザーの代用品として捉えられてしまうため「マッシュルームレザー」と呼びたくないというところ。
人間の脳はテクノロジーの発展のスピードに対応できず、古いもののメタファーで新しいものを理解しようとする。このメタファーをうまくずらすのもアートの役割なのではないかと思った。
③「菌類に覆われた世界」がきたときに期待する世界はどんな世界ですか。
古民家に住んでいると、内と外が通じる穴がさまざまな形であるので、動物や虫が出ては入っていく。カビも色々な種類が生えやすいことから菌類の多様性が大きいことがわかる。よくもわるくも、人間の役に立たないモノたちが通過してく余地がある。
一方で現代の都市はテクノロジーによって人間の害になると予測できる要素は排除し、そのおかげで私たちは四六時中カビと戦ったりせずに済み、快適な空間で仕事や制作活動に集中することができる。しかし化学革命が夢をもたらすと同時に環境への負の影響ももたらしたように、予測可能な、直接役に立つことばかり選んでいると未来の可能性がせばまってしまう。
今後はテクノロジーの用い方の考え方を変えることによって人間だけでないモノたちとの可能性を広げていけるような未来を志向できたら良いと思う。そのような未来のイメージのひとつが菌類に覆われた世界。
④齋藤さんが「FUTURE FASHION AWARD」に応募するならどんなファッションを企画しますか。
今自身で取り組んでいる、粘菌に染料や顔料を食べてもらい、軌跡を布に定着する技法を使ってドレスなどを作ってみたい。また、菌糸を食べる粘菌もいるので、菌糸で作られたファブリックに粘菌の軌跡で染めを行い、人工と自然の間の新しい生態系を表現したい。
⑤菌類や粘菌との共生をもっと意識し、実社会に組み込むメリットや新たな可能性について教えてください。
もともと菌類は発酵食品やキノコとして古くから利用されてきているし、カビや病原菌として人間とせめぎ合うこともある。また、皮膚や体内に存在する常在菌として、人間が生きていくのになくてはならない存在でもある。人間はすでにさまざまなレベルで菌類と共生している。
でも菌類という分類上のカテゴリがはっきり認識されたのは人間が菌類と共生してきた歴史からするとずっとあとのことなので、人間が菌類を認識したのは最近とも言える。全貌が見えないけれど常に一緒にいる存在について意識するのは新しい関係の可能性を開くと思う。
一方で粘菌は人間と直接の関係がない。しかしその生態や見かけはなぜか人々の興味を惹きつける。粘菌が教えてくれるのは、一見役に立たない、自分と全く異なる存在にどう向き合ったら良いのかということなのかもしれない。