見出し画像

「なぜ?」から始まる学術入門(東大 広報誌「淡青」)

数日前にTwitter界隈で話題になっていた東大の広報誌「淡青(たんせい)」、淡青とはライトブルー、東大のスクールカラーである。そういえば箱根駅伝の予選会で見る東大のユニフォームもライトブルーだったなと思い出す。

今回のテーマが【素朴な疑問vs東大「なぜ?」から始まる学術入門――言われてみれば気になる21の質問にUTokyo教授陣が答えます】というから、おっ?と思うだろう。身近な疑問に対しての答えと教授陣の研究紹介を兼ねるかたちで紹介している。有料で紙媒体を取り寄せることができるそうだが、データをダウンロードしてPCやタブレットで読めるので、そちらも手軽である。

たとえば、「楽しい時間があっという間に過ぎるのはなぜ?」という疑問に対しては、以下のように回答されている。

私たちはどうやって時間を近くしているのでしょうか。その代表的な考え方に「ペースメーカーモデル」と呼ばれるものがあります。それは私たちの心の中にチクタクと時を刻むペースメーカーと蓄積機があって、そこに一定数、時が溜まると「これだけの時間が過ぎたな」と感じるというものです。楽しい時間はあっという間に過ぎる、ということはこのペースメーカーが普段より早い感覚でチクタクと動き、実際よりも短い時間で時が溜まるということ。これはあくまで概念的なモデルで、文字通りのペースメーカーが私たちの頭の中にあるわけではありませんが、そのようなものを仮定して人間の時間近くを理解しよう、という研究の流れがあります。

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400196219.pdf

認知神経科学という分野の研究のようだが、きっとこの分野での先行研究の説明を、非常にわかりやすい言葉で説明しているのだと思う(論文では専門的な用語を使って説明されているだろう)。記事の後半では、聞き覚えのある神経伝達物質、ドーパミンを使って時間の知覚について説明している。人間の時間認識については、まだ研究途中のようではっきりしたことはわかっていないという。

この分野は基礎研究なので、直接的に何かの役に立つという分野ではないかもしれない。それゆえに誰にでもわかりやすく説明できることが重要そうであり、そうでないと研究そのものの意義が問われてしまう――、そんなところだろうか。先日も書いたが、すぐに役に立たないを次々に無くしてしまえば、科学技術の衰退に繋がる。目先では成果が出るかもしれないが、遠い未来になって基礎研究の大事さにようやく気が付くのかもしれない。今、私たちが普通に使っているGPSの機能だって、相対性理論が無ければ成立していなかった。

それだけに東大がこのような広報誌を出したことにとても興味を持った。ネット環境に繋げる人なら誰でも、その知を味わうことができる。多くの人に知れるところになるといいよな、そんなことを考えた一冊である。

この記事が参加している募集

よろしければサポートをお願い致します。頂いたサポートは新しいことを生み出すための活動に使用させていただきます。