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【簡単あらすじ】六法推理(微ネタバレ)【五十嵐律人/角川文庫】




『 君が、真相を闇に葬ったんだ 』

霞山大学法学部には、「自主ゼミ」と呼ばれる課外活動団体が乱立している。

そのうちの一つ、無料法律相談所・通称「無法律」には、法学部四年の古城行成のみが在籍し活動している。

同大学には年に一度の学園祭「終焉祭」があり、学園祭の開催中、無法律に経済学部三年戸賀夏倫が「天かす詐欺にあった!」と相談を持ち掛けてくる。

その相談についての解決方法から戸賀に気に入られ、その後、居ないはずの赤ん坊の泣き声の秘密・リベンジポルノ・学園祭での放火・学校内のハラスメントといった問題に、古城は意図せず・そしてある時は積極的に関わることになる。

『はじめに』
梅雨入りが例年より遅いですが、気温はだんだんと夏に近づいています。
私の地域でも、最高気温が30度を超えることもあり、不要の外出は減らしている時期ですが、エアコンを起動し、自室で飲み物を飲みながら読書をするという、絶好のシチュエーションを得られる時期が到来しました。ですので、最近読んで印象に残ったり、買ったまま積んでいたりした本の感想を書こうと思います。
この感想で、その作品や著者に少しでも興味を持って頂ける内容にしたと思いながら書いていますが、登場人物やぼんやりしたあらすじなど、『微ネタバレ要素』を含む記載がありますので、その点にご注意ください。

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以前レビューしました、「幻告」の作者五十嵐律人さんの作品です。



今作は、リーガルミステリの分類ではありますが、大抵の作品のように弁護士ではなく、法学部の学生が主人公です。

ですので、士業であれば当然出来ることについても、学生であるため制限がかかってしまいます。

また、学生であるということは、実際の判例など法律における経験も少なかったり、偏ったものであるため、間違った方向へ結論が向かっていくこともあります。

しかし、そういったときには、弁護士の母・裁判官の父・検察官の兄という古城の家族や、戸賀など知人学生の助けもあり、物語が進んでいきます。

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本作は、以下の短編集になります。

1.六法推理

「終焉祭」と呼ばれる、霞山大学の年に一度の学園祭。
法学部生が運用している「自主ゼミ」の一つに、法学部無料法律相談所・通称無法律があり、そこには唯一の部員・法学部四年古城行成が活動している。
そんな無法律に、経済学部三年戸賀夏倫が「天かす詐欺にあった!」と相談を持ち掛けてくる。

2.情報刺青

世間では、フェイスサーチと呼ばれる「顔写真をアップロードすると、似ている芸能人をランキング形式で表示する」というアプリが流行している。
しかし、そのアプリが原因で、霞山大学の学生にリベンジポルノの被害を受けたという相談を受ける。

3.安楽椅子弁護

無法律が古城一人になった大きな原因である、「古城の友人・三船が顔に消えないやけどを負った件」について、二人は「学園祭の実行委員会」に対して民事訴訟を起こした。
そして、古城は弁護士資格が無いこともあり、三船本人が本人訴訟で進める裁判の裏側で力を貸すことにする。

4.親子不知

「おはようございます。今日は、家族の日ですよ」

日曜日の朝、読書をしていた古城に戸賀から電話が入る。
戸賀が、古城に相談なしに企画した出張法律相談に、自身の名前を改名したいという学生からの問い合わせがある。
その学生がバイトをする職場で相談を受け、アドバイスもするが、その相談の数日後、その学生は自宅アパートの外階段で転落し死亡してしまった…

5.卒業事変

筆記用具を忘れるというミスを犯した古城が期末試験から戻ると、無法律のゼミ室には、顧問の崎島と、以前は無法律に在籍していた後輩の矢野綾芽がいた。
矢野から、四月には無法律は消滅し、新団体がこのゼミ室を使うので早めに準備をしろと言われる。
矢野は、明らかに古城への憎しみを隠そうとしていないが、その原因は、矢野の姉・真弓からの相談を受け、古城がアドバイスをした結果によるものだった。

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個人的には、親子不知が刺さりました。

結婚まで考えていた彼女と、短い余生の母親。
板挟みの状況にあった男子学生が、どうしてああいう結論に達し行動を起こしたのか。

その真相は、もちろん、本人にしか分からないですが、死体をそのままにして立ち去るという気持ちはどこで発生したのか…
実際に自分が同じ状況になったらどうするか。

難しい問題でした。

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弁護士資格を取得していないため、当然ですが、他の弁護士主人公の物語のような、「法律で悪党をやっつける」「法律を使って、快刀乱麻を断つ」のようなスッキリ感はありません。

主人公の古城は、

1.情報を整理しながら、論理的に問題の可能性を絞り込むことには能力を発揮するものの、最終的な結論には辿り着かないことが多い。

2.また、法律知識、自身の負い目などに縛られたり、都合の悪いことから目を背けたりもする。

という性質を持っています。

主人公が法律を武器にするものの、ある程度の規制があって、その人だけの力では解決することが出来ず、周りの人(当事者含む)の尽力があって、良い方向に進むという本作。

本人が意図的か・望むかどうかは別にし、多重解決ミステリーとも言える本作品。

個人的には是非続いて欲しいシリーズです。

※本作「解説部分」にある、作者の
「日本で裁判がひっくり返るような出来事が起こっては、司法の信頼性が揺らいでしまう」「法廷ミステリにおけるどんでん返しって、日本の法制度に照らし合わせると実はあってはならないこと』

という作者の言葉から、現代日本のリアリティを持たせながら、読者の意表をつかなければいけない作品を作るという大変さが良く分かり、頭が上がりません。

また、表紙からイメージされるような軽めのテンポの作品ではないので、私のようなおじさんでも没頭する可能性の高い作品です!



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