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【連載小説】#02 売上げが高まる効果的な広告「レスポンス広告」は、どのように誕生したか。

「明日ですか? 急ですね」

「善は急げだよ、阪尾君」

「まあ、そうっすかね」

次の日、私は水本さんの会社へ向かった。

蒸し暑い日は続いていた。いつ来ても歴史を感じざるを得ないビルの受付で、しばらく間、水本さんを待っていた。

「阪尾さん!」

後ろから不意に声を掛けられた。
竹川さんだった。

「阪尾さん、今回のお仕事はありがとうございました! かなりのレスポンス数で、クライアントも大喜びですよ。これも阪尾さんのおかげです」

竹川さんも水本さん同様興奮していた。

「いえいえ、商品力もあったし、何より朝日の15段ですから。その力が大きかったですよ」

私は謙遜した。
そうこうしている間に水本さんも現れ、我々は会議室へと向かった。

この日も水本さんは元気がよかった。

「今回の広告のレスポンス数は、いつもの4倍以上になりました。正直、快挙と言っていいと思う! そこで、今回作った広告を中心に、他の媒体にも展開して行こうと思います。このチームで頑張って行こう!」

詳しくは分からなかったが、恐らく、朝日新聞以外の新聞にも広げながら、雑誌や新聞折込み広告などに展開して行くつもりなのだろう。

「竹川さん、何かおすすめの媒体はあるかな?」

「まずは、朝日、読売、日経の空き枠を見つけます。空いているところから、掲載して行きましょう。あとは、雑誌広告のカラー2ページとブックインブックあたりがよいと思います」

ブックインブックとは、雑誌の中に含まれている付録的なものである。この付録を人気の通信講座特集にして、広告しようという企画だ。

確かによい企画だった。読者は広告ではなく、雑誌社の企画として読んでくれるはずだ。広告にはどうしてもアレルギーを感じる人も少なくないので、これならよりレスポンスが取れるだろう。

「阪尾君には、これらのクリエイティブを全部やってもらいたい」

「はい。ありがとうございます。頑張りましょう!」

私もその場の空気感に包まれて声を張った。

一度当たった広告をさらに発展させるために、ユーザー写真を拡張することになった。ユーザーとはお客様のことである。この日は、雑誌広告用のユーザーモデルの撮影を都内のスタジオで行った。

「はい、その笑顔いいねー。もう少し、テキストを前に出してみようか?」

若くて綺麗なユーザーモデルの撮影のせいか、カメラマンの岡崎さんも妙にテンションが高かった。

「岡崎さん、笑顔もいいけど、真剣な表情で話している写真もたくさん撮っておいてよ」

私は暴走しそうな岡崎さんに、釘を刺した。

「わかってますよ。この後バッチリ撮りますから」

撮影をスタジオの後ろの方で眺めていると、竹川さんが1時間遅れでやって来た。

「阪尾さん、昨日の日経新聞掲載分もすごいレスポンスですよ! ここまでいいんだから、新聞はどんどん増やして行こうと思います。あとは、ユーザー写真とインタビューをお願いしますね」

「そうですか、よかった。今日もこれからモデルさんにインタビューするので、6名分は新しく揃います。あと、何名くらい撮りますか?」

「そうですね、主婦の方の写真ももっとほしいので、さらに主婦の方10名、学生さんを10名ほしいですね」

「分かりました。今月末にでも撮りましょう」

竹川さんは終始笑顔だった。それはそうだ。レスポンスのよい広告原稿があると、クライアントはさまざまな媒体に出稿したくなる。広告代理店にとっては広告媒体をどんどん売れるので、売上げがすぐに上がって行く。まさにお金を生み出す金の卵と言っていいだろう。そしてそれは私にとっても同じだった。

約2カ月前、私の銀行残高は4万円しかなかった。しかし、今は数百万円のお金がある。この通信講座広告の成功によって、次々に仕事が舞い込んで来たのだ。

通信講座のディレクターの仕事を受けて1年が過ぎた。相変わらず高いレスポンスを維持している。

他方、私はもっと違う会社の仕事も増やそうと営業に精を出していた。具体的には電話での新規開拓営業である。
やり方は単純で、書店でマスコミ電話帳という分厚い本を買って来て、広告代理店を中心にかけまくった。そして、アポを取れた会社に出向き、私の実績などをアピールした。1カ月くらいで10社以上はアポを取れただろうか。
しかし、結果は惨敗だった。ほぼ仕事を得ることはできなかったのである。

「なぜだろう」

私は考えていた。
説明をしている時は先方の受けもいいのだ。しかし、仕事は出ない。
悩んでいた私は知り合いの社長に相談した。 

「阪尾君、恐らくだけど、信頼度がまだ低いんだよ。俺は阪尾君のことをよく知っているから仕事をお願いできるけど、知らない人はすぐにジャッジできないよね。広告制作料は少なくても何十万円もするんだから、小さな会社はどうしてもよく知っている人にお願いしちゃうんじゃないかな」

なるほど、と思った。
信頼度、これが仕事にとってもっとも重要なものであり、これが高くならないと人は物事を依頼できないのだ。
当たり前のことだが、痛感する出来事だった。

では、信頼度とは、どうすれば高まるのだろうか?

私の新規営業の戦いが始まった。


つづく

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