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【寄稿】「民主導で『もう一つの成人式』を」(2021-08-19 日本経済新聞)

【原文】

官民共同チーム「匠」 山本泰弘

 私の住む山形市は、今年1月に予定されていた成人式を、新型コロナの影響により延期して5月の連休に実施した。県外在住者はPCR検査で陰性であれば参加できるはずだったが、市は直前に、県外在住者の参加を禁じた。市HPで公開されている市への意見には、「とても悲しい」、「ひどすぎる」、「なぜ再延期しないのか」といった悲痛な声が数多くある。

 各地の自治体の中には、満足な形での開催を目指して成人式をあくまで延期するケースもあるが、オンライン開催として式典を動画配信した例、ドライブスルー方式で記念品を配った例などが報じられている。自治体側はそれで実施したという体(てい)でも、当事者の新成人にしてみれば、それで済まされてはたまったものではない。

 成人式は、若者の通過儀礼にとどまらず、それぞれの道に進んだ新成人たちが再会して地元の絆を確かめ合う貴重な機会だ。地元のコミュニティがあることは、将来のUターンにもつながりうる。地域にとっては軽視できない公共政策なのだ。

 「成人式ロス」とも言うべき、新成人とその家族の心に重く残った負の感情を癒し、地域経済をも潤す策がある。彼らのための成人式を、もう一度開催するのである。一年遅れだろうが二年遅れだろうが構わない。地元で生まれ育った若者に祝祭と再会の場を設けずして、何のための地域社会か。

 さらに私が提唱するのは、役所ではなく民間が主導する形態だ。役所の専売特許のように思われる成人式だが、官民連携ないし民間主導で開いてもよいではないか。一例として、ここ山形市では、地元の東北芸術工科大学の学生たちが企画し、ホテルメトロポリタン山形と産学連携で独自の新成人向けパーティーが行われたことがある。

 そしてこの際、成人式の中身もゼロから考え直すべきだ。せっかく地元出身の若者が一堂に会するのだから、地元暮らしのメリットをアピールしてUターンを訴求しなくてはならない。

 そこで地元企業の出番である。若手社員を送り込み、地元ライフスタイルを実感を込めてプレゼンしたり、条件が許せば新成人たちと歓談してUターンを勧誘したりすればよい。首長の演説などよりもよほど“刺さる”はずだ。同時に「わが社」の仕事もアピール。貴重な人材獲得のチャンスとなる。

 若者たちのため、そして地域経済の未来のため、各地の経済界にはぜひ、民間主導の「もう一つの成人式」を企画していただきたい。そうすれば若者たちは、地元の大人と社会を見直してくれるはずだ。

〔2021年8月19日〕


【参考文献】

・山形市HP 意見提言 成人式について 他14件(ご回答日:2021/5/17)

https://www.city.yamagata-yamagata.lg.jp/cgi-bin/iken/guest.cgi?project=iken_teigen&action=view_report&id=4265

・山形市の成人式、県外出席者にPCR検査実施へ 2021/04/20 10:46 山形(山形新聞)

・県内在住限定で成人式開催 山形市、緊急事態受け 2021/04/24 12:18 山形(共同通信)

・Celebration The age 20 Party (セレパ) - 東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科


【紙面】


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