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【投書】「病を癒す物語を読もう」(2020-12-02 山形新聞)

 むかしむかし、「潤肺露」(ジュンパイロ)という秘薬があったそうな。これにかかれば結核も、スペイン風邪も治ってしまうという――。

 京都を舞台に、冴えない学生《先輩》が、サークルの後輩《乙女》と出会ったり出会わなかったりする幻想恋愛奇譚(ファンタジーラブストーリー)『夜は短し歩けよ乙女』。その中に、「魔風邪恋風邪」という物語がある。

 その冬、京都の街では風邪が大流行。それまでのエピソードで登場した人物たちが次々と病魔に倒れ、先輩も恋と風邪に病み、悪夢に苛まれる。「俺は…彼女を 本当に好きなのか?――」

 そんな中、ひとり元気な乙女はお見舞いに巡りつつ、これがただの風邪ではなく、これまでも各話を賑わせてきた謎の老人《李白さん》の病が原因と知る。幻の薬「潤肺露」があれば治せることも。

 乙女は李白さんと京都の民を救えるのか?そして、先輩の病は癒えるのか…?

 マンガ版第五集(新装版は下巻)に収録。各キャラクターが可愛らしく描かれ、京都の街や大学の描写も懇切丁寧なのはマンガ版ならでは。このエピソードだけでも十分楽しめる。
 お子さんにもおすすめだ。読めば京都の大学に行きたくなることだろう。

 ――物語の佳境で李白さんが言う。「今日は冬至か?…一年で一番長い夜じゃの」「しかし どんなに長い夜でも夜明けは来るであろう――夜は短し 歩けよ乙女」。


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