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リスキリング(学び直し)としての通信制大学。


産業能率大学 通信教育課程の経験談。

 2020年コロナ禍。自粛ムードで社会全体が引きこもり状態と化したことで、半ば強制的に自分自身と向き合い、今後の人生について一旦、立ち止まって考える時間が捻出された。

 それを機に当時高卒だった私は、産業能率大学の通信教育課程(以下、産能通信)で最終学歴をアップデートすることを決意した。そして今、4年間に渡った長い旅が、終わりを迎えようとしている。

 一般的に卒業するのが難しいと言われている、通信制大学の卒業要件を充足した私が記す経験談が今後、同じ道を進むか迷っている方の道標となれば幸いである。

卒業要件を充足

入学試験は無く、書類審査のみ。

 大学入試と言えばセンター試験(現:共通テスト)の印象が先行するが、放送大学をはじめとする通信制大学の多くが、学びたい人がいつでも学べる、開かれた大学としての側面が強いため、難関私大を除いて入学試験を設けていない。

 高校などの卒業証明書や願書を提出し、学費を支払えば、何歳でも大学に入り学ぶことができる。

 Google先生で「通信制大学」と検索すると、サジェストで「学歴にならない」と候補に出てくるが、歴とした文部科学省認可通信教育であり、大卒の証である学位記も授与されるため、卒業できれば紛れもなく大卒となる。

短大か大学か→まずは短大

 そんな産能通信だが、短大と大学の選択肢が用意されている。私のように高卒で社会に出て、最終学歴を更新したいが、自分にそれができるのか分からず不安な方は短大が無難と思われる。

 なぜなら2年で挫折した場合、4年制大学だと学歴にならないが、短大なら短期大学士の学位が授与されて学歴になるからだ。

 また、産能短大→産能大の場合、短大で修得した単位が全て持ち越せる点と、短大でしか履修できない科目が存在するため、通信教育を4年でやり切る自信があり、できることなら編入手続きを避けて通りたい訳でもなければ短大がベストだろう。

 因みに産能短大のコースのうち、経営管理、心理学基礎、社会保険労務士は2年次の配本科目が指定されているが、それ以外のコースは自由に選択できるため、幅広く学んでみたい方は上記3コース以外を視野に入れると良い。

単位の取り方・難易度

 単位の取り方は通信授業と面接授業に大別され、文部科学省の大学設置基準の省令により、短大は15単位、大学は30単位以上は面接授業で取得する必要がある。

 通信授業は、自学自習でリポートを提出→60点以上で試験の受験資格が得られる→試験申込み→偶数月に行われる試験に合格すると単位が得られる。

 面接授業(スクーリング(以下、SC))は、土日などの2日間講義を受ける→1日目に課題(通学SCには無い)、2日目に最終試験を提出→合格すると単位が得られる。課金が必要な通学SCや、iNetSCを一切受けずとも、配本科目のオンラインSC(zoom使用)だけで卒業要件は満たせる。

 上記が1〜2単位科目の流れで、4単位科目の場合には、通信授業だと応用リポートの提出、面接授業だと基本リポートの提出がプラスで必要になるが、基本的に短大の時点では4単位科目は考えなくて良い

 まずは1単位科目の「産業能率大学とマネジメント」から始めてみて、産能の学習システムに慣れるのと同時に、単位取得の感触を得るのがベストと思われる。それ故に配本科目の中で唯一の1単位科目となっている。

 難易度の参考として、私は工業高校出身。学力偏差値は50程度。金融リテラシーを身に付けることを目的に入学したため、これまでとは畑違いの領域だったものの、初回で不合格になった科目は、大学4年次の自由履修で冒険した1科目のみで、残りの60を超える科目は一発合格。

 産能大(通学部)は、全国初のスマホ・タブレット持ち込み可能な入試方式を導入する大学だけあって、知識の詰め込みよりも、得られた知識や経験を、いかに活用・応用するかを重視しており、通信教育課程の科目習得試験では、テキスト持ち込み可となっている。

 むしろ不可の科目に出会したことがないため、存在するのか定かではないが、細かい暗記よりも、必要な情報を素早く引き出せるよう、テキストは大まかな構造と内容の把握に努め、シラバスの方向性を見失わず、必要に応じて自分なりの意見を踏まえながら、真面目に取り組めば基本的には報われやすい仕組みだと感じた。

 仮に不合格でも、在籍期間が許す限り、合格するまで何度でも追加の費用負担なく受けられる点で、良心的な通信教育となっている。

学費は年間20万円。

 通信制大学の代名詞でもある放送大学と、産能通信の大きな違いは、学費のシステムだろう。

 産能通信は20万円/年の学費が必要となる一方で、放送大学は履修科目の単位数に応じて、1単位につき6,000円を支払うシンプル設計となっている。卒業要件はいずれも124単位以上と同じため、産能は80万円〜+諸経費、放送大学は74.4万円〜+諸経費となる。

 学費を比べると放送大学が安いものの、面接授業がテキスト費別な点は留意すべきだろう。その点、産能の学費は全科目テキスト代込みとなっている。好みが分かれる部分ではあるが、産能通信は4年間に145単位(短大→編入は139単位)配本されるため、1単位あたりの費用は産能が割安とも捉えられる。

 総額に大きな差はない両校だが、課金システムの違いから、産能は在籍延長(留年)で毎年20万円かかるのに対して、放送大学は4年で卒業しようが、10年かけて卒業しようが、学費は同じ履修単位数×6,000円となる。

 是が非でも4年で卒業しないと、在籍延長に余計なお金が掛かるプレッシャー。裏を返せば、産能には4年キッチリで卒業するインセンティブがあるが、放送大学にはそれがなく、自分との闘いになる。

 学費のプレッシャーがあることで、自分の中に潜む妖怪先送りを退治できるとプラスに捉えるか、自分のペースが乱されると考えて放送大学を選ぶかは、意見が割れる部分だと思われる。

 ただ、放送大学に短大はないため、まずは産能短大で卒業までこぎ着けてみて、産能のシステムがしっくりこなければ、放送大学に編入する道も考えられる。

独力の辛さと、乗り越えた先で得るもの。

 高校を出た直後に行く通学部と異なり、自学自習が基本姿勢の通信教育は、何もしなくても誰からも怒られない性質上、基本的に自分との闘いになる。

 同じ境遇の仲間が身近に居ないどころか、むしろ社会に出てから勉強らしい勉強もしておらず、自分で稼いだお金で堂々と遊んでいる奴らを横目に、わざわざ自分のお金で陰ながら勉強して、コツコツと単位を積み重ねる行為を、最低でも4年間継続した暁に、ようやく学士が取得(卒業)できる

 無論、学ぶモチベーションを保つのは、並大抵のことではない。高卒で一度社会に出ていると尚のこと、学ぶための時間、お金、労力を捻出することも、周囲の理解が得られずに気苦労を伴うことは珍しくない。まるで未開の地を独力で切り開く感覚に近く、それが通信制で卒業するのは難しいと言われる所以だろう。

 苦労する割に、世間では学歴としてあまり認知されておらず、コスパ・タイパ至上主義な現代において、何の役に立つかも分からない学士取得に、4年もの歳月と、学ぶ労力、80万円超の学費を投じる決断は勇気がいる。

 しかし、N/S高が通信制高校のイメージを良い意味で変えたように、ZEN大学が設立されることで、通信制大学の風向きが良い方向に変わる可能性がある。

 通信制大学は、多くの人が通らない道だからこそ、独力で卒業まで漕ぎ着けられた経験と、そこで育まれた時間管理能力や知的好奇心、向上心は決して無駄にならない。

 いつか努力家の証として、その価値が見直される日が来ることを期待しながら今、黙々と学び直す。そんな不言実行こそ、私の座右の銘だったりする。


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