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富裕層の金融資産増税が一歩前進?

金融庁がNISAの増額要望。

 毎年、金融庁はこの手の要望を出しているものの、なぜか今年は個人投資家界隈で大きく取り上げられている。

 年明けに首相が金融資産所得課税強化を打ち出したかと思えば、資産所得倍増プランを打ち出すなど、資産持ちから税金を取りたいのか、年金財政不安から国民に老後資金を資産運用で効率よく増やして貰いたいのか、方針に一貫性がないことから、大衆に関心が高まったものと推察している。

 他にも、高校生の金融教育導入や、昨今の戦争などからスタグフレーションとなり、預金だけでは価値が目減していることも投資への後押しとなっている一因かも知れない。

 さて、NISA増額の内容としては本家イギリスのISAと同等の金額に引き上げ、恒久化しようと言うものだが、今年は実現に期待が持てそうな状況だと考えている。

 2024年から新NISA制度がスタートし、従来の一般NISAから、二階建て制度に変更を行うことは周知の事実で、要望されている増額の有無に関わらず、制度変更は行うこと。そして、今年中に増額が決定されれば、証券会社などのシステム改修に間に合うことから、どうせ制度変更するのであれば、今年が旬であることから、期待感が高まっている現状である。

要望の本音と建前。

 しかし、私は単に大衆の資産形成を促進するために大規模な制度改革を行うのは建前でしかなく、本音としては、富裕層に対してピンポイントで増税するための土台として、まずはNISA拡充に動いているのではないかと推察している。

 年明けからの首相の発言は、資産運用にブレーキを掛ける内容と、資産運用を促す内容で相反している。しかし、前者には富裕層、後者には大衆という主語を付け足すのであれば、何をしたいのか想像が付く。

 日本の若者は貧乏で、高齢者がお金を持っている。現に日本国民全体の保有資産の総額を100%として、世代別で割合を見ると、30歳未満の保有資産を全て合計しても全体の1%未満。反対に60代以上を束ねると全体の50%を悠に超える。

 それなのに、社会保障費や医療費が多分に使われているのは、お金を持っている60歳以上が殆どである。そして貧乏な若者は、お金を持っている高齢者の社会保障費や医療費を、給与天引きで徴収されているのだから、富の再分配の観点で考えると全くもって理にかなっていない。

 金融所得課税を強化することにより、資産を持っていて生活に困らない高齢者や富裕層からより多くの税金を徴収し、貧乏な若者に今以上の負担を強いらない財政にシフトしたい意図が見え隠れしている。

 というより、既に中流層以下から広く薄く徴収するのは限界に達しており、最近は高年収サラリーマンを狙い撃ちしていたのだが、それもそろそろ限界で、出来るだけ触れずにいた資産持ちに狙いを定める他なくなったのが本音だろう。とはいえ、露骨な増税では角が立つため、今は抜け穴をひとつずつ埋めている段階なのだろう。

非課税枠拡大+課税強化路線。

 そのうちのひとつが、今話題のNISA拡充である。現行制度では一般NISAで最大600万円、つみたてNISAで最大800万円の非課税枠が用意されているが、これを両者とも1,200万円にしようと要望している。

 大衆、特に20代単身者は保有資産額の中央値が8万円と、半数以上が10万円の預金すらできていない、貧乏な若者目線では、現行NISAの年間120万円や、つみたてNISAの年間40万円の非課税枠ですら、大半は持て余している現状で、増額されても使い切れないのが本音だろう。非課税枠最大の1,200万円を使い切るなど、夢のまた夢である。

 こんな現状では、非課税枠を全て埋められるブルジョワが有利で、金持ち優遇制度だと揶揄されかねない。しかし、NISA拡充を行い、老後資産形成に必要とされる金額分が非課税枠で完結するとなれば、現行の分離課税の税率20%が例え倍の40%になったところで、大衆が資産形成をする範囲には影響がないため、金融資産所得課税強化への抵抗感が薄れるだろう。

 これによって割を食うのは、もちろん非課税枠から溢れるほどの金融資産を保有する富裕層である。

 これまで1億円を配当利回り4%の株式で保有していた場合、一般NISAの600万円は非課税で、差額となる9,400万円の年間配当376万円は、20%(簡略化のため復興特別所得税除く)の税金が徴収され、およそ75万円が納められる。

 これを、NISAの非課税枠を1,200万円に、税率を40%にすると、差額の8,800万円の年間配当352万円に対して税金が課されるため、140万円超が納められる計算となり、大衆の資産形成を阻害することなく、富裕層だけに金融資産所得課税強化を行えるのである。

個人番号と紐付け、分離→総合課税化。

 NISA拡充は富裕層狙いの課税強化への布石と捉えているが、令和4年度の税制改正大綱から、もうひとつの計画が見え隠れしている。

 私は税法上、課税所得330万円以下の低所得者に分類されているため、配当控除を行うことで、日本株配当で源泉徴収される所得税を、確定申告によって全額キャッシュバックされる仕組みを最大限活用している。

 なぜ、こんなことが起こるのかというと、有価証券の売買益は分離課税となっており、本人の給与所得に関係なく、一律20%となっている。

 しかし、確定申告を行うことで、総合課税の扱いとなり、個人の所得税率が適用され、税率が10%以下の場合、10%の配当控除が適用されることで税率0%が実現され、証券会社で源泉徴収された15%の所得税は過払いとなり、還付されるのである。

 厄介なのが住民税で、証券会社で源泉徴収されるのは5%に対して、個人の税率は一律10%と高い。配当控除が2.8%あるものの、差し引きで7.2%と、証券会社で源泉徴収された5%では間に合わず、増税されてしまう。

 その抜け穴として、所得税は総合課税、住民税は分離課税を選択することが出来ていたのだが、令和4年度の税制改正大綱によって、確定申告において総合課税と分離課税を、税目別で選ぶ余地がなくなる運びとなった。

 短期目線では、大衆が金持ち優遇税制の是正を要望した結果、低所得者の抜け穴だけが塞がれるギャグみたいな改悪となったが、長期的に考えられるのは、分離課税を廃止して総合課税に一本化することで、金融資産課税にも累進課税を適用し、個人の所得に見合った税率とする仕組みにするための布石だと推察している。

 これを行うためには、マイナンバー制度によって、銀行口座や証券口座の所得情報を紐付ける必要がある。そのために、表向きは任意としつつも、ポイントのばら撒きや、保険証の廃止方針、預金口座と紐付け義務化案など、あの手この手で全国民に普及させようとしているものと思われる。

 どちらが実現するにしても、資産家には厳しい未来が待っているだろう。また、昨今のFIREムーブメントに乗っかり、FIREを目指す人も、実現した頃に課税強化で狙い撃ちされては、苦労に見合わないだろう。

 税制が変わることで、遊興費を含めたFat FIREは難しくなるかも知れない。理想を高く持つことは、目標達成のために大事なスパイスとなるが、耐乏生活に慣れる形でLean FIREを目指す方が、税制に振り回されない意味で、Fat FIREより安定しているかも知れない。


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