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無知の知。


話題の生活保護・年金廃止案。

 2〜3年ほど前に話題となった気がするベーシックインカム案に関する、竹中平蔵氏の意見が最近になって掘り返されている。

 まとめサイトの画像を見るに、ニュース番組の特集的な内容と思われるが、私はNHK受信料対策でテレビを所持していないため、ソースが分からない。

 とはいえ、ガースーのブレーンとして紹介されていることや、既に辞任しているパソナの会長職で紹介されていることから、恐らく冒頭に記したように、2〜3年前の内容だろう。個人的には何を今更感が強い。

 驚くのは反対意見の多さである。もちろんSNSの投稿内容など、便所の落書きに準ずる程度の温度感で眺めているため、マジレスなど少数派で、大多数はネタで投稿している程度に捉えているため、驚くと言っても真に受けている訳ではない。

 とはいえ、これまで納めた保険料を返せ的な内容は思いのほか多い。中には掛け捨て保険じゃないんだから、全額返ってきて当然論まで展開されており、ネタだと信じたい。

現行制度だと、現役世代ほぼ全員払い損。

 そもそも国民(厚生)年金保険料の名称にあるように、年金は保険であり、世間一般でイメージが強い老齢年金以外に、障害年金、遺族年金がある。

 万が一、障害を持って就労できなかったり、著しく制限される場合に、65歳を待たずして支給されるのが障害年金。養育中に一家の大黒柱が不幸にも他界してしまった際に、最低限、子どもが高校を卒業するまで支給されるのが遺族年金。

 この2つは受給対象にならなければ受け取れない意味で、掛け捨て保険的な位置付けであり、我々が納めている年金保険料には、これらの掛け金も含まれているのだから、民間保険のロジックで考えれば、全額返ってきて当然は暴論である。

 この論調が出てくる背景には、積立保険的位置付けの老齢年金が、納めた以上の金額が老後に受け取れる前提条件が潜んでいる。

 しかし、昔の議員が私腹を肥やすために、箱物を作りまくったことで年金財政が悪化し、とうの昔に積立方式から賦課方式に変更されている。現役世代の保険料が、老齢世代が受給する原資となる構造上、人口ピラミッドが逆三角形の少子高齢社会では立ち行かなくなるのは明白である。

 現に厚生年金は現役世代のほぼ全員が払い損になることが、内閣府の試算で明るみになっているが、厚生労働省は労使折半で会社が払わされている保険料を計算から除外して、支払い保険料の分母を小さくすることで、微かにプラスとなる状態に取り繕い、払った分は受け取れて、損はしない幻想を国民に植え付け続けている。

 この件は、橘玲さんの著書である「黄金の羽根の拾い方」で細かく記されている。厚生年金で払い損であれば、最も得をしているのは滞納者のデパートである、国民年金保険料を納めている人だけだが、国全体から見たら超少数派だろうから、現役世代ほど年金廃止案に反対する理由がない。

ベーシックインカムが最善策では?

 だからこそ、負の所得税としての機能を持つ、ベーシックインカムで、日本国民全員に毎月6〜7万円を支給し、機能が重複する生活保護と年金を廃止することで行政コストを削減し、追加の税負担を最小限に抑える意味で、至極真っ当な案だと私は思う。

 しかし何故かは分からないが、竹中平蔵氏が発言するとサンドバッグ状態になるのか不思議で仕方がない。

 そもそも、経験談として高卒の駅員(正社員・都内勤務)がフルタイムで勤めて手取り13万と、都内の生活保護と大差ない状態がまかり通っている社会が異常なのである。

 私は高卒で社会に出て、奨学金という名の借金もなく、しばらく実家暮らしだったため、いくらか実家に入れても、貯蓄や遊びに使えるお金が残ったが、平均288万円の借金を背負い社会に出る大卒で、上京して一人暮らしすることを想像すると絶句する。

 この状態ではコストの掛かる養育はおろか、結婚に至る前段の恋愛にすら至れない経済レベルなのは想像に難くなく、転職しようにも目先の生活で精一杯。日本社会にはこの手の若年層がゴロゴロ居る。

 だからこそ、貧乏な現役世代が、金を持っている高齢者を支えるのではなく、ベーシックインカムで全世代に公平に分配し、年齢問わず、所得のある者から税金を徴収した方が、健全な社会のあるべき姿に近いような気がする。

 最低限度の生活が保障されれば、ブラック企業に無理してしがみ付く必要もなくなり、生活保護と大差ない賃金しか支払えない企業は淘汰されるだろう。働き手が減るのだから、企業は賃金は上げざるを得ない。

 賃金が上がれば、購買力も上がり、需要が喚起され、物の値段が上がる。企業の売上も上がり、それがまた賃金に還元される。好ましいインフレの形で連鎖する社会も夢ではない。

 少子化対策の観点からも、子どもが1人増える毎に、貰える額が月6〜7万円増えるなら、1人よりも2人。2人よりも3人…と考えるだろう。

 どのみち現行制度だと機能不全を起こしているのだから、ベーシックインカム案を感情論で否定する前に、そもそも複雑怪奇な年金制度について、分からないなりに仕組みを把握するよう努めるなど、中抜きおじさんをサンドバッグにする前に、やれることがあるのではないかと思う。

 哲学者のソクラテスはその一歩として、無知を自覚することだと考えた。


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