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無利息でもお金を借りない理由。


心理会計を侮ってはいけない。

 大学こそ違えど、政府がリスキリングやら何やら言い出す前に、高卒で一度社会に出てから、自発的に学び直しで大学に在籍している同級生と旅をした際に、利息が取られないからと最大限借り入れる友人と、無借金経営を貫く私との構図があまりにも対照的で興味深かった。

 確かに学生ローンで無利息の部分だけ上限まで借り入れた方が、手元のキャッシュは増えるため、間接的に資産運用に回せる資金が増える。それによって得られる利子や配当所得を考えれば、無利子の枠内で借り入れるのは経済学の観点から合理的である。

 ましてやコストプッシュ型とはいえインフレしている=通貨価値が下落している状況下では、借金は先送りした方が通貨価値が下落する分だけ、数字は同じでも実質的な返済額は目減りしているに等しい。

 そんなことは経営を学んでいる私でも理解している。キャッシュフロー経営のキモだからだ。しかし歴史上、金を儲けた経済学者はケインズとリカードだけと言われており、経済を学んでお金持ちになれるなら国策として、義務教育に組み込んだ方が良いが、そうはなっていない。

 これは経済学と心理学のハイブリッドである、行動経済学のプロスペクト理論で、人間は感情が邪魔をして非合理的な判断を行う嫌いがあるとが証明されていることからも、人間はどれだけ頭で分かっていても、経済学のロジック通り、経済的合理性を最優先に判断を下せる訳ではない。

 そんな行動経済学を軸に、会計分野の要素を加えたものに、心理会計、心の会計、メンタルアカウンティングと呼ばれるものがあり、個人的には侮れない。

タスクを常駐させない無借金経営。

 例えば、日頃のランチならワンコインで収めようとするのに対して、旅行先だと同じ食事でも予算が何倍にも跳ね上がる。これは心の中で、食費と旅費のようなラベル分けがされていることで生じる、認知の歪みのようなものである。

 日頃は電気代を節約するために、細かくスイッチを切ったり、エアコンの温度設定を28℃に近づけて、数十円、数百円単位で切り詰める反面、自家用車や住宅購入時のオプションは数十万円、数百万円単位であるのにも関わらず、躊躇しなかったりする。

 冷静に考えれば、人生でそう何度もないような、大きな買い物を切り詰めた方が、圧倒的に家計は楽だが、多くの人がそれをやらない。いや、相対的に判断するからできないと記すべきだろう。これこそ認知の歪みに他ならない。

 さて、話を学生ローンに戻すと、友人のように無利息の範囲で最大限借り入れて、余剰資金は運用に回した方が、確かに経済学の観点では合理的だが、無利子とはいえ将来確実に返済しなければならない負債を抱えたまま、将来の成果が不確実な資産運用をする行為が、心理的にできるだろうか?

 仮に私と友人のバランスシートで、純資産が同じ100万円だとする。私は無借金経営のため資産=純資産で、資産総額は100万円だが、友人の場合、仮に負債が100万円と仮定すると、資産200万円、負債100万円、純資産100万円となる。

 前者であれば、資産総額100万円全額を運用に回せるが、後者の場合、資産総額200万円全額を運用に回そうとは思えないだろう。100万円の負債を抱えているからである。

 そうなると、せっかく資産は200万円あっても、将来の返済に備えて、無リスク資産で100万円を返済引当金として、取り置きたくなるのが心情であり、結局のところ心置きなく運用できるのは純資産である100万円と変わらない。

 だったら最初から借り入れなど余計なことをせずに、等身大で運用すれば良いと考えるのが私の無借金経営的考えである。

 銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げるため、借りれる時に借りておくことで、いざという時に手元のキャッシュが温存できる。と言った考え方も否定しないが、その安心感を得るために、いちいち心の中で返済引当金を計上して、総資産から差し引いた正味財産で判断するのは、あまりにも複雑で脳のリソースを浪費しないだろうか。

 現にハーバード大学の研究で、貧乏になるとIQが13ポイント低下することが明らかになっており、借金を返すことを常に考えることは、パソコンで例えると、バックグラウンドで常駐するタスクを増やす行為に等しい。

 これがいくつか積み重なると処理落ちして、判断ミスにつながるのだろう。私はそれを嫌い、経済的には非合理なのを承知の上で、単純明快な無借金経営を人生で貫いている。

非合理的な自分を知る。

 某投資インフルエンサーが、投資初心者はお金を掛けずに相場を学ぶ前提で、取引に慣れてきたらレバレッジを掛けない範囲で、売りからも入れる信用取引で、デイトレードによる回転売買を行った方が、短期間で億り人を目指せる(=資金効率が良い)とYouTube配信で語っていた。

 これを後ろの部分だけ切り抜かれて、信用取引を推奨していると誤解されたのが切り抜きの恐ろしいところだと感じた。

 この手法に言えることは、確かに取引の引き出しを増やすために空売りできる信用取引を、レバレッジを掛けずにリスクを抑え、現物取引に近い形で、回転売買のメリットを活かせる点で合理的な手法ではある。

 しかし、その合理的なやり方を貫ける人の割合はいかほどか?と思う節はある。人は実利が得られるとフルレバレッジで利益を最大化したくなる生き物だし、買いは家まで売りは命まで。の格言がある信用取引で、機械的に損切りできる人は決して多くない。

 大切なのは、自分のお金が掛かっていると思うと、欲が出て非合理的な判断をする自分を知ることである。

 私は冒頭の心理会計然り、経済的合理性に則った判断が出来ないことが、往々にしてある非合理さを、少額資金で投資していた頃に経験しているため、判断を誤ると破滅を導きかねない仕組みを排除するよう努め、故に株式で信用取引の口座を開設していない。


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