見出し画像

日本企業のPBR1倍割れ、改善なるか?

PBR(株価純資産倍率)とは。

 東京証券取引所が、プライム市場とスタンダード市場に上場する銘柄のうち、PBRが1倍を割っている企業に対しての改善策を具体的に公表するよう要請したことが、モーサテや日経新聞で取り上げられたが、私はNHK受信料を支払いたくないがためにテレビを保有していないため、世間のマスメディアがそもそも取り上げているのかすら定かではない。

 そもそも街中のパンピーが「PBR」と聞いて、「ああ、株価純資産倍率のことね」と答えられる人など、10人に1人も居ないだろう。株クラ村の常識は、世間の非常識である。

 そもそも「純資産」を、簿記を学んだことがない人に噛み砕いて説明するのが難しい。

 例えば、Aさんは持ち家と自家用車をローンを組んで購入したとする。預金残高が200万円、住宅が3,000万円、自家用車が300万円と仮定すると、Aさんは合計で3,500万円の「資産」を有していることになる。

 しかし家と車はローンを組んで、「負債」が3,400万円あるとしよう。そうなると正味の資産は差し引きで100万円とも捉えられ、これが簿記の概念で言うところの「純資産」である。

 なぜ「純資産=資産-負債」となるかは、先述の延長線上で考えると理解しやすいが、もし仮に借金の支払いが滞れば、お金を借りている金融機関から、担保している家や車が召し上げられる性質上、Aさんの資産とは言い難い。

 だから、全ての「資産」から、借金の残債分である「負債」を差し引いた額が「純資産」となっている。「資産」と「純資産」は名前こそ似ているものの、性質が異なる。

 そして、この純資産を株式会社の場合は株式を発行しているため、発行株数で割ってあげると、1株あたりの正味資産がいくらになるか算出できる。これがBPS(1株あたり純資産)で、これと現在の株価(時価)の状態を倍率で表した指標がPBR(株価純資産倍率)である。

 仮に1株あたりの正味資産であるBPS(1株あたり純資産)が1,000円の銘柄に対して、株価が1,200円を付けていれば、PBR(株価純資産倍率)は1.2倍となる。

解散価値が高い会社の存在意義。

 勘の良い方はお気づきになったかも分からないが、「PBR1倍割れ」とは、「会社の株式が実質的な価値以下で取引されている状態」を示している。

 先ほどのそんな銘柄が、東京証券取引所のプライム、スタンダードに上場されている銘柄のおよそ半数を占めているのが、日本株の現状とも言える。BPS(1株あたり純資産)が1,000円の銘柄なのに、市場では800円で取引されている(PBR0.8倍)銘柄が半分近く存在しているのだ。

 BPS(1株あたり純資産)は解散価値とも呼ばれている。1株あたり1,000円の価値がある株式が800円で買えるなら、株主としては事業を継続するよりも、今すぐ事業を畳んで、資産を売却し、負債を返済して、残った正味資産である1,000円を受け取ってしまった方が近視眼的には儲かる。

 だから、株式市場で帳簿上の正味価値以下の価格でしか売買されていないような銘柄は、事業として存在している価値がないと捉えるのが、アメリカンな考えである。

国民のため、日本企業の投資妙味を高める。

 実際、サムネイルで使用しているJR東海もPBR1倍割れ銘柄に入っている。帳簿上、1株あたり18,000円程度の価値がある筈なのに、コロナ禍でドル箱の新幹線事業が不振であることが嫌気され、16,000円程度の価格しか付いていないものと思われる。(2023年時点)

 リモートワークやWeb会議システムの普及で、出張需要などがコロナ前の水準に戻る見込みがないのだから、新幹線も在来線事業も畳んで株主に18,000円配った方が、株主としては1株につき2,000円得する訳で、いつ業績不振で減らされるかも分からない年間130円の配当を貰うよりも遥かに魅力的なオプションに思えるだろう。

 JR東海の沿線民や、新幹線利用者は非常に困るだろうが、日本企業の株主の半分が外国人であることを鑑みると、株主総会で物言う株主が赤字路線の廃止を提言する可能性は否めない。

 かつて西武鉄道が大株主である米サーベラスから、埼玉県郊外を走る一部路線の廃止を提案したことが波紋を呼んだが、PBR1倍割れを放置していると、同じ事態になりかねない。

 日本は島国であるため物理的には、よそ者を受け入れない風土が形成される条件が整っているが、金融市場はインターネットを介して世界に開かれているため、海外の人が自分たちのロジックで日本企業にメスを入れられる土壌が整ってしまっている。

 海外投資家の思惑で、我々の生活が滅茶苦茶になったところで、儲かればそれで良いのが資本主義経済の残酷な部分でもあり、このまま日本経済が没落して割安のまま放置され続けると、上場企業が金儲けのためのおもちゃとして利用される可能性すらある。

 翌年からの新NISAで、個人の預金を投資に呼び込む枠組みを整備しているものの、肝心の投資商品が魅力的でなければ、結局海外株式に資金が流出してしまう。

 東証がPBR1倍割れ銘柄に対して改善要請を出しているのは、日本企業に投資妙味が増すことが、周り回って我々の日常生活を豊かなものとして、それが国益に、周り回って我々の生活に結びつくと考えているからではないかと、私は解釈している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?