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ひとり経営企画室の調査の基本(1)


調査の流れ

私が学んできた調査の基本を書いていくことにします。調査会社が大企業のクライアントから受注して行うような大規模な調査ではなく、社内に蓄えたビッグデータ機械学習を使って解析するという調査でもありません。

リソース(ヒト、モノ、カネ)があまり与えられてない状況で、ネットを最大限に活用して情報を集め、社長やマネージャーに短い時間で理解してもらい、判断をしてもらう、という調査です。大企業でも予算の少ない新規事業や中小企業、ベンチャー企業で有用だと思います。

私はシンクタンクや外資系企業でネット関連の技術調査やデータベースやシステム構築の経験を経た後、大手製造業にて新規事業や商品の調査企画に10年近く携わってきました。経営者へのプレゼンテーションやベンチャー企業への投資も担当してきました。調査企画で作成したパワーポイントのスライドは、ピーク時には5年間で3000枚近くになったこともあります。

そのようなノウハウ、経験をお伝えできれば、と思います。

ひとつめ、「ビジネスで行われる調査の基本的な流れ」です。

調査業務は、情報を収集する、集めた情報を分析・整理する、
そして、整理した内容を報告書にまとめる、という3つの段階に分かれる。

調査は、情報収集、分析・整理、報告書作成、という流れで進みます。最初は情報収集ですが、その前に調査目的を確認するというステップがあります。目的を確認し、その後、社内外の情報を集めたり、インタビューやアンケート、実験などで情報を創ったりします。

次は集めた情報を分析・整理します。文章などの定性情報、数値などの定量情報を、フレームワークなどを使って分析・整理していきます。足りない情報があれば、再度、情報収集を行うこともあります。また課題解決のための調査であれば、解決策の原案を考える(あたりをつける)こともありますね。

最後に整理した情報を報告書にまとめます。最近では会議で報告しやすいように、プレゼンテーションスライドにまとめることが多いのではないでしょうか。そして、そのスライドを使って報告する、というのが調査の流れです。

既存事業における調査

会社で行う調査としては、大きくふたつあります。ひとつは、既存事業の課題解決における調査、もうひとつは新規事業の企画における調査です。

まずは既存事業の課題解決における調査を取り上げます。

課題を発見するフェーズにおいて、調査が中心となる。
その後も解決策案の評価や効果の検証などで、調査が必要となる。

既存事業が何らかの課題を抱えており、期待した成果が得られていないとします。その場合、課題を発見し、それに対する解決策を立案。そして、解決策を関係者に説明し、承認を得た後、実行します。実行後は、効果を検証し、解決策へ反映させる、見直すことが行われますね。

調査は、課題の発見段階で行われることが多いです。この段階では、目に見えてきているいくつもの現象の裏側にある本質的な課題を見つけることがポイントとなります。そのために幅広く、なおかつ、重要な点は掘り下げて調べる必要がありますね。

例えば、事業が伸び悩んでいるとします。その場合は、市場や競合、自社の視点での調査を行い、集めた情報から考えられる本質的な課題を見つけることになります。

また別の例として、ある特定の業務効率が低いとします。その場合は業務をステップごとに分け、それぞれにかかっている時間や人、費用などを整理します。多くの場合、ある特定のステップが大きく効率を下げていることが多いですね。また、多くのステップに関わる課題が裏側に隠れている場合もあります。

このように本質的な課題、対処すべき課題を見つけるのがこの段階の調査の目的になります。

解決策の立案や解決策の説明・実行段階でも調査は行われることがあります。例えば、解決策の案を考える参考にするために、成果をあげている会社の情報を集めることがあります。また、実行段階で効果を把握するための調査がありえますね。

このように既存事業の課題解決において、調査は重要な役割を担っていると言えます。

新規事業における調査

新規事業の企画も3つのフェーズに分けられます。

事業機会の発見フェーズにおいて、調査が中心となる。
その後も商品・サービス案の評価や実行結果の評価などで、調査が必要となる。

まず、事業機会の発見フェーズ。そして、見つけた機会に対して商品・サービスを設計する事業計画の立案フェーズ。最後に、その計画を関係者に説明し、承認を得て、実行するフェーズです。

事業機会の発見フェーズでは、調査が中心となります。いわゆる3C(Customer、Competitor、Company)のフレームワークですね。それぞれの視点で情報を集めていきます。

Customerの視点では、顧客の顕在・潜在ニーズを見つけていきます。そして、見つけたニーズがどの程度の規模になるのか、すなわち市場規模もあたりをつけます。この段階でのカギは、見つけたニーズに対して、自社の強みを生かして応えることができるのか、になります。

新規事業であれば何をやってもいい、ということであれば、ここでの調査は膨大なものになってしまいます。一般的には、自社の強みを軸にして、新たな市場(顧客)を探すのか、あるいは、今の顧客に対して、自社が新たな商品・サービスを提供できるのか、という流れで調査することが多いのではないのでしょうか。

事業計画の立案や、計画の説明・実行フェーズでも調査は行います。商品・サービス案を評価するときや、財務シュミレーションを作成するときに情報が必要となることが多いですね。

また、実行して計画どおりに結果が得られているのか、指標を調べて、計画を見直すことはよく行われていると思います。

調査の目的を知る

上司に「○○について調べておいて」と軽く言われたことはないでしょうか。そういった場合に、どの程度詳しく調べるのか、どれくらい時間をかけられるのか、わからずに困ってしまいますよね。

調査を頼まれた時、目的や背景、調査期間、費用について明らかにすることが最初の作業になります。上司も成果物をイメージできていない場合があるので、ここでイメージを合わせておかないと、後でやり直しになったり、やりすぎたりすることがおきます。

ざっと調べて、あまり確認もせずに提出した資料が、実は役員会で使われる資料であった。逆に、詳しくレポートまで作ったけれども、実は上司が軽い興味で聞いただけだった、といった場合はどちらも困りますよね。

調査に取り掛かる前に、調査する目的と背景を明確にする。
調査や報告に対する諸条件を、依頼者と共有することが重要である。

調査に入る前に、まずは調査の目的を明確にします。忙しい上司からでも最低限でも目的を聞き出せば、他の項目は大体予想がつくのではないでしょうか。

例えば「来月の役員会で報告するから」と言われれば、報告相手や形式、調査期間は想像がつきそうです。

次回の役員会は来月なので、締め切りまでにひと月ほど作業時間を確保できるとします。最初の数日でざっと調べてたたき台を作ること、そして、上司と相談する時間を事前に確保しておくこと、を依頼された場で約束しておくとよいですね。相談の場で、調査の範囲や深さを決められます。

残りの2週間で調査を仕上げ、最後の1週間でプレゼンスライドにまとめ上げる、といったスケジュール感になりそうです。

社外の情報源

調査の目的をおさえたら、実際に調査を始めます。

慣れてくれば、個々のタスクや全体スケジュールを最初の時点で作ることもできます。しかし、慣れていない場合や知らない分野であれば、まずは少し調べて、感覚をつかむほうがよいと思います。

情報源には社内の情報と社外の情報、そして、新しく創る情報の3種類があります。

社内の情報源は、会社によっても異なります。一般的には、社内システムや各種帳票からの情報取得や調査対象に詳しい人物へのインタビューは可能でしょう。

調査会社に依頼する方法もある。
しかし、リソースが少ない状況では ネットの活用が前提となる。
また、自分で創造することも必要になる。

社外の既存の情報源には、書店や図書館、調査会社、ネットがあります。そして、新しく情報を創る手段としては、インタビューやアンケートなどです。ここでは書店や図書館、調査会社の活用についてお伝えします。

昔は調査といえば紙面の調査レポートや書籍、論文を探すことでした。今では大半がネットに置き換わりましたが。それでも書店や図書館で書籍を探すことにはメリットもあります。特に全く知らない分野であれば、初心者向けの本を選んでまず読み、基礎知識をつけることがオススメです。基礎知識がなければ詳しい人にインタビューしても的外れな質問をしたり、たくさんの用語がわからず回答が理解できなかったりしてしまいます。

Amazonで面白そうな書籍を検索し、実物を書店や図書館で探す方法もありますね。Amazonで検索すれば、同じ著者の本も簡単に探し出せますし、関連する本をリコメンドしてくることもあります。Amazonと書店や図書館をうまく使い分けることで効率もあがりますね。

調査会社の利用は、もし予算に余裕があり、急ぎの調査であれば考えてもよいでしょう。内容やお任せ度合によって費用は変わりますが、調査を代行し、レポートを作成してくれます。

例えばグループインタビューを依頼すると、インタビュー相手の選考から、場所やインタビュアーの確保、最終レポートまで全てお任せすることが可能です。

既存の調査レポートであれば、それよりは安く数万~数十万円程度で購入することもできます。

有名コンサルティング会社にコンサルティングを依頼するとその前段階として調査もやってくれる場合があります。通常の3倍くらいの速さで情報を集め、資料としてまとめてくれますね。ただし、費用も驚くような値段です。

ひとり経営企画室では、調査会社の利用は難しいと思います。ネットの活用や自分で情報を創造することがメインになるでしょう。

ネットにある情報源

ひとり経営企画室の調査として、最大限に活用したいのがネット上の情報です。ただし、ネット上にある情報は玉石混交なので、ある程度、信頼できるサイトから情報を得ることが大事になってきますね。

政府の統計調査から製品・サービス、技術、消費者のレビューまで、
多くの情報がネットに公開されている。

まずは政府。政府は様々な調査を行っており、その結果を公開しています。また、検討会や協議会の際に、参加者から資料が提出されることもあり、その資料に参考となる情報が載っていることがあります。Googleで検索するときは、site:go.jp を追加すると政府系のサイトだけが検索対象となります。

なお、地方自治体は、site:go.jpでは検索対象となりません。東京都であれば site:tokyo.lg.jp、渋谷区であれば site:shibuya.tokyo.jpとなっています。site:を指定する際には、一度、地方自治体のホームページを検索し、ドメイン名を確認するのがよいと思います。

二つめは、調査会社や業界団体です。市場規模や市場に参加している企業を調べるときに便利です。調査会社は、有料の調査レポートを販売していますが、無料で読めるプレスリリースでも、ある程度のことがわかります。もちろん、予算に余裕があればレポートの購入も選択肢のひとつです。

また、同じ業界の企業が業界団体を作っており、そこで事業規模等を調査し、公開している場合もありますね。

三つめは、雑誌や新聞記事です。個々の新聞社サイトを調べる方法もありますが、GoogleYahoo!の雑誌・新聞記事検索を使うほうが便利ですね。有料になりますが、日経テレコンというサービスもあり、調査担当者の間では有名です。

技術情報の検索は、大きく3つの方法があります。ひとつめは、大学や学会のサイトを対象として検索することです。大学であれば、site:ac.jp を追加すると検索できます。ふたつめは論文です。Google ScholarJ-STAGE、CiNiiといった論文サイトが便利です。有料の論文もありますが、無料で公開されているものだけでも大変参考になると思います。最後は特許です。特許は基本的に公開されているものなので、特許庁のサイトで検索ができます。

企業ホームページも、とても有用な情報が公開されているケースがあります。上場企業であれば、有価証券報告書や決算説明会資料なども公開されています。製品・サービスの情報、企業概要、沿革といった情報も大抵入手可能です。大手メーカーであれば、技報というレポートで技術情報を読むこともできますね。

最後は消費者視点の情報です。これは個人ブログなどになります。また、Amazon楽天などのレビュー記事も消費者視点の情報になります。ただし、製品・サービスに対する一消費者の感想として受け取るべきですし、中には信憑性に欠けるケースもあるようなので、取り扱いには注意が必要ですね。


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