見出し画像

【書評】ブラック・スワン

2007年に出版され、2008年のリーマンショックを予見したとして著者(ナシーム・ニコラス・タレブ)の名を一躍知らしめることになった本。

最近株高が続いているので、マーケットが悲観的だったときのことを思い出せればと思い読み返したところ、とても面白かったのでまとめてみる。


黒い白鳥(ブラック・スワン)という言葉は、事前に予期できない事象の発生が物事の成り立ちを大きく変えることを指す。「全ての白鳥は白い」という命題が一羽の黒い白鳥の発見により覆ったことに由来する。

この本は、黒い白鳥がいる世界の性質を説明したうえで、黒い白鳥の存在を考慮していない経済学や統計や未来予測が如何に役に立たないか、黒い白鳥がいる世界においてどのように振る舞うべきかを論じる(他にも、心理学、歴史学など様々な学問に批判の矛先を向けるが、ここでは黒い白鳥と経済、統計、未来予測の関係のみに焦点を当てる)。

黒い白鳥についての(経済、統計、未来予測に関する)本書の主張をまとめると以下のとおりになる。

①黒い白鳥がいない世界、いる世界を区別する必要がある(実際には黒い白鳥がいない世界は殆どない)

②黒い白鳥がいる世界では正規分布を前提とした統計学は機能しない

③黒い白鳥のいる世界での処世術

以下に内容を書いていく。 

※この本は割と長い本であるため、以下の内容は正確を期して書いたものではなく、読んだ内容と私の知識が混在したものということをご容赦ください。


①黒い白鳥がいない世界、いる世界を区別する必要がある(実際には黒い白鳥がいない世界は殆どない)

黒い白鳥がいない世界の例としては、人の身長、コイン投げによる賭け等が挙げられる。

これらの特徴は、数多くの観測を重ねることで物事の平均値が定まり、新しい観測結果によりその平均値が大きく変動することはないというものである(統計学的には大数の法則が成り立つと表現する)。

黒い白鳥のいる世界の例としては、株式市場、ベストセラー本、貧富の格差等が挙げられる(社会的な物事の多くはこちらの世界に属する)。

これらの特徴は、黒い白鳥のいない世界と違って、数多くの観測を重ねて物事の平均値を推測したとしても、新しい極端な観測結果1つによりその平均値が大きく変動するというものである(大数の法則は成り立たない)。

このことが次の主張に繋がる。


②黒い白鳥がいる世界では正規分布を前提とした統計学は機能しない

統計学の殆どの手法は、データの性質が正規分布に近似できるということを前提としている。

正規分布に近似するとは、物事の統計的性質を平均、標準偏差(平均からのばらつき)の2つの要素で表現することである。観測結果を増やすことで平均値の変動が無視できる程度になり、平均からのばらつきも小さくなっていく。つまり、大数の法則が成り立つのである。

しかし、株式市場等の極端な事象が稀に起こり(例:ブラックマンデー、通貨危機)、結果を大きく左右する世界では大数の法則が成り立たない、故に正規分布を前提とした統計学は使えないのである。

筆者は、黒い白鳥のいる世界に正規分布を前提とした統計学を用いることは有害であり、代わりに用いるべき手段として「べき乗則」を挙げる。

べき乗則の性質についての細かな説明は省くが、要点としては、極端な物事の起きる度合いは無視できるほど小さくなく、かつどのような大きな値も実現しうると想定する。

このような想定を(正規分布の仮定の代わりに)持つことで、黒い白鳥は灰色の白鳥ぐらいにはなるのである(事前に予期はできないものの、備えることはできる)。


③黒い白鳥のいる世界での処世術

いい黒い白鳥と悪い黒い白鳥を区別する

バイオベンチャー、ベンチャーキャピタル等はいい黒い白鳥に賭けており、事前に想定した以上のリターンを生む可能性がある。

一方、銀行、災害保険等は悪い黒い白鳥に身を晒しており、少しずつリターンを上げる代わりに大きな倒産リスクを負う。


細かいことや局所的なことは見ない

黒い白鳥を厳密に予測しようとしないこと。そうすればするほど、予期していなかった種類の黒い白鳥に振り回されやすくなる。予測ではなく、備えのほうに資源を費やすこと。


チャンスには片っ端から手を出す

事前に予期できない大きな幸運(いい黒い白鳥)には多く身を晒すべきである。少しでもチャンスがあれば参加すること。


政府が持ち出す事細かな計画には用心する

政府があることの副作用には気をつけないといけない。銀行の規制当局は専門家の問題にはまっていて、見境のない隠れたリスクの取り方を見逃しがちだ。そのことが爆弾のようなポートフォリオを持った銀行を生む(リーマンショックとその成り立ちを予見したような文章である)。


予想屋(アナリスト、エコノミスト)、社会学者等は無視する

時間の無駄だからやめた方がいい。


感想

この本は悪口がふんだんに散りばめられていたり、話があちこちに移ったりするため主張の全てを頭に入れるのは大変そうだけど、経済や予測の問題のみに的を絞ると、主張することはとてもわかりやすい。

正規分布を信用せず、稀で極端な事象の可能性を受け入れ、予測するのではなく備えること。足元のような良好な市場環境のときこそ思い出したい、大事な警告が得られる良書でした。


この記事が参加している募集

読書感想文

万一ご支援いただけた際には、次の本の購入に充てます!