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【書評】テクノロジーの世界経済史

技術革新が人々の生活にどのような影響を与えてきたかについて、産業革命前から振り返り論じたかなり分厚い本。おおまかに主要な論点をまとめると次のようになる。


【概要】

・技術革新は労働補完技術、労働置換技術の2つに大別される。労働補完技術は労働者の生産性を高める技術、労働置換技術は労働者を機械で置き換える技術。

・イギリスで始まった産業革命時に広まった技術革新(機織り機、蒸気機関等)は熟練工を必要としなくする労働置換技術であったため、労働者が暴徒化し機会を破壊するラッダイト運動が起こった。同時期の労働者の所得は減少傾向にあり、所得が上向くには数世代の時間を要した。

・1900〜1980年頃までの技術革新(工場の機械化による大量生産等)は労働補完技術が主であり、技術進化に適応する必要は生じたものの、労働者の平均所得が増え、所得格差が縮まるという良い状況が生まれた。

・1980年以降のコンピュータによる自動化は労働置換技術としての色合いが強く、ムーアの法則に従い急速にコンピュータが安価になるにつれ、多くの仕事がコンピュータに置き換えられていった。このことが中間層の低所得者層への転落をもたらし、労働者は高所得者層、低所得者層に分断されてしまっている状況にある。AI化によってもこのような流れがもたらされるだろう。

・技術革新が長期的には人々の生活水準向上に資することに疑いはないが、問題は短期的な影響であり、短期というのが産業革命時の賃金減少のように数十年と続く場合があることだ。ケインズも言ったように、長期的には人は皆死ぬのである。

・現在、コンピュータ化、AI化により生じている労働者の中間層から低所得者層への転落は、テクノロジーの問題ではなく政治経済的な問題であり、政策的な介入が必要である。児童教育の強化、給付付税額控除等の効果が実証されている手段やに加え、引越し補助、地域〜都市間の交通整備等による地域格差縮小、再教育補助等の手段を検討するべきである。


まとめ

概要だけでもかなり長くなってしまったのだけど、概要では追いきれない過去の数々のエピソードや膨大な研究の引用が本書の大きな魅力となっている。歴史に通じている筆者ならではの思慮深い考察の仕方や、技術革新により取り残された人々への深い思いやりにもとても学ぶところが大きい。読むのに気合がいるけれど、読む価値がある本。おすすめです。


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