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【NY生活】40回以上刺され・・またもNYでアジア系女性が犠牲に(写真レポート)

皆さん、こんにちは! 在米25年目、ニューヨークはハーレム在住の指揮者、伊藤玲阿奈(れおな)です。

またも起きてしまいました・・。アジア系女性が犠牲になった犯罪です。

NYの治安悪化については先月にもお伝えしました。ハーレムの近所で19歳の少女が殺された事件、しかも私も利用していたバーガーキングで発生した事件についてです(下のリンク参照)。

今回お伝えするのは、2月13日の未明、NYのチャイナタウンで韓国系アメリカ人クリスティーナ・リーさん(35)が刺殺された事件です。現時点では性犯罪の線が濃厚で、人種問題がからむ憎悪犯罪(ヘイトクライム)とは断定できないらしいですが、非常にむごたらしい事件で、NYではかなり大きく報道されています。私たちの防犯意識を喚起するためにも、以下、複数の報道をもとにレポートさせて下さい

まず事件のあらましは次のようなものです。

2月13日の午前4時半ごろ、NYのチャイナタウンにある自宅アパートに戻ってきたリーさんは、アパート玄関ドアの鍵を開けて中に入ろうとしたところ、そのタイミングで後ろから男が一緒に入ってきました。そこでリーさんが外に無理やりにでも出ていたら助かったかもしれませんが、そのまま彼女は6階にある自分の部屋へと向かってしまいました。

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警察が公表した事件直前の監視カメラの映像。手前がリーさん。背後から忍び寄るのが犯人。アパートの1階と表示されているので、玄関から入ってすぐの状況だと思われる。結果論ではあるのだが、この時点で悲鳴をあげたり、外へ逃げられなかったのかと悔やまれる。後述するが、今のNYの治安状況では、見知らぬ人を玄関から絶対に入れてはならない

そして、おそらく彼女が部屋に入る瞬間を狙って男も無理やりに侵入したのでしょう、すぐにリーさんの「助けて! 911(アメリカで110番にあたる番号)に通報して!」という絶叫が響き渡りました。男に対して相当な抵抗を試みたようです。そして悲鳴を聞いた住人が警察に通報します。

警察はすぐに到着したようです。ところが、内側からカギがかかっていて部屋の中に入ることが出来ませんでした。到着時にはまだリーさんの声が聞こえていたそうですが、まもなく聞こえなくなったそうです。

警察官が呼び出すと、犯人の男は女性の声色をまねて、「警察は必要ありません」といいますが、無論そんなことは通用しません。警察がドアを壊して入ろうとするや、窓から出て外の非常用階段を伝って逃げようとしました。しかし、屋上からも警官が来ていることを知るや、男は部屋にもどり、凶器のナイフを衣装タンスに隠し、みずからはベッドの下に隠れました。

その後、警察が破壊したドアから部屋に入り、被疑者のアサマド・ナッシュ(25)を確保。被害者に激しく抵抗された結果、彼自身も胴体や手に傷を負っていたことから、そのまま病院へと連行されました。

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連行される被疑者。胴体が血に染まっており、負傷しているのが分かる。NBCニュースより。公式YouTubeチャンネルでニュース全編がご覧になれます

リーさんは、バスルームにて上半身が裸の状態の死体となって発見されました。裁判所での報告によると、遺体の状態から、彼女は40回以上もナイフで刺されていたらしいとのことでした。

リーさんは韓国系アメリカ人で、ニュージャージー州の名門・ラトガーズ大学を歴史学専攻で卒業。お亡くなりになるまで、オンラインデジタル音楽のプラットフォーム会社・スプライス(Splice)でシニア・クリエイティブ・プロデューサーの重責を担っておられました。

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スプライス社公式Twitterより。リーさんの写真とともに、死を悼む公式コメントを発表した。以下、コメントを訳す。
「この週末、私たちの愛するクリスティーナ・リーが自宅にて無差別殺人の犠牲となりました。私たちの心は打ちひしがれています。いつも美しく皆を包みこむようなアート作品を創り出すことに貢献してくれていたクリスティーナの代わりになる人などいません。この悲劇の裁判がこれから始まりますが、どうか覚えておいて下さい。魅力的な人だったクリスティーナ・リーは、常に喜びに満ちていた人であったと。悲しみの底にいる彼女のご家族の平安をお祈り申し上げます。」

現場となった彼女のアパートは、チャイナタウンにあります。

NY・チャイナタウンの観光名所になっているレストラン「ジョーズ上海」をご存じでしょうか? 小籠包で有名な大行列のできるお店で、銀座にも支店を出しました。訪ねたことのある方もいらっしゃるかもしれませんが、その店の目と鼻の先といっていい距離に、彼女のアパートはあります。

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事件現場となったチャイナタウンのアパート。グーグルマップより

これがその写真です。真ん中の黄色い建物で、1階にはお店が入っています。6階建てで、リーさんは最上階に住んでいました。

ただ、写真を一見して皆さんどうお感じになられますでしょうか? 場所柄がお世辞にも良いといえないのは、この写真からも分かるのではないでしょうか。

エレベーターもない建物らしいので、おそらくリーさんは家賃の安さで選んだのかもしれません。引っ越してきて1年足らずだったということですから、パンデミック後に家賃が下がったのを狙ったとも考えられます。

アパートの居住エリア内に入るには、建物の真ん中に見えるドアのカギを開けなくてはなりません。これは一般的なNYのシステムで、玄関ドアと部屋のドア、2種類のカギを使って防犯対策をとります。

24時間コンシェルジュがいる所もありますが、それは高級アパートやマンションのみ。安全とはいえ値段が段違いに変わりますから(ワンルームでも20万越えを覚悟しなければなりません)、難しいところです。

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現場アパート玄関の拡大写真。ドアが開けっ放しで、これは良くない。グーグルマップより

さて、上にあげた玄関の拡大写真をみると、金色のドアノブが見えます。その上にカギ穴があるのですが、そこに住人だけが持っているカギを差し込んで中に入るわけです。

しかし注意しないと、このシステムは犯罪者に狙われる隙があるのです。

建付けにもよるものの、ふつうドアが完全にガチャンと閉まるまでに数秒かかります。なので犯罪者は、完全に閉まるのを気にしないで奥に進んでしまう住人がいたら、閉まる直前にそっと中から見えないよう足などでドアを止めておいて、後からアパート内に侵入するのです。

また、犯罪者のみならず、冬季に少しでも暖かい場所で過ごしたいホームレスも(犯罪に走るかは別として)狙います。実際、私の住んできた代々のアパートでも必ずこの問題はありました。私は過去にそのホームレスと仲良くなった経験もありましたが・・・。

いずれにせよ、犯人は、リーさんが玄関のカギを開けて中に入ったときの隙を狙いました。1階防犯カメラの映像ではリーさんはまだ落ち着いているように見えるので、このあと階段で6階に着いて、部屋のカギを開けたところを襲われたのかもしれません。

日本のアパートの場合、現在どのような防犯システムなのか分かりません。高校までを過ごした私の知るかぎり、玄関にはカギがついていないアパートが多かった気がします。

ただ現在ではさすがに変わってきているでしょうから、ぜひ今回のお話を皆さんに防犯の参考としても役立てて頂きたいと願っています。

リーさんの事件は、今のところアジア人に対するヘイトが動機とは断定されていません。しかしながら、NYで無差別攻撃の犠牲になった最新のアジア人女性であることに違いありません。

もう類似事件が続かないことを願いつつ、クリスティーナ・リーさんのご冥福をお祈り申し上げます。ご家族にも何らかの慰めが、一刻もはやく訪れますように。

コロナ禍は人の心も蝕んでいます。目の前に起こる出来事に一喜一憂することなく、自分の考えや態度をブレさせずに進んでいけたらベストですが、なかなかそうはいかず、自分や他人に責任を負わせて心をこじらせがちです。

偉そうなことを言ったり書いたりしているのに、とくに怒りで本来の自分らしさを見失ってしまうことが多く、最近は自己嫌悪ぎみな私。いくら悲しくても腹が立っても、それに呑み込まれてしまわないよう、あらためて自分自身を戒めたい――あらためて、そのように思いました。

ところで、アメリカの刑務所では、日本では考えられない光景が繰り広げられます。

その刑務所の分類にもよりますが、凶悪殺人犯が収監されるようなところは、マフィアごとの派閥・刑務官との癒着(女性刑務官が売春するケースも)・囚人同士の殺し合いも日常茶飯事の世界です。

そんな世界でも不文律というのがあって、性犯罪者は序列が最低ランクになるということです。かなりのイジメに合うようで、判決が下され収監されたら、この犯人を待ち受けるものは塀の外よりも厳しいものになるかもしれません。

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執筆者プロフィール:伊藤玲阿奈 Reona Ito
指揮者・文筆家。ジョージ・ワシントン大学国際関係学部を卒業後、指揮者になることを決意。ジュリアード音楽院・マネス音楽院の夜間課程にて学び、アーロン・コープランド音楽院(オーケストラ指揮科)修士課程卒業。ニューヨークを拠点に、カーネギーホールや国連協会後援による国際平和コンサートなど各地で活動。2014年「アメリカ賞」(プロオーケストラ指揮部門)受賞。武蔵野学院大学大学院客員准教授。2020年11月、光文社新書より初の著作『「宇宙の音楽」を聴く』を上梓。

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