挑戦しているあなたへ

あれは母校に受験の結果報告をしにいった日のこと。

中高一貫校だった私にとって6年間お世話になった母校には、いい意味でも悪い意味でもたくさんの思い出がある。たくさんのお世話になった先生方もいる。

懐かしみながら校舎を歩く。階段を登る。高校の教員室に入る。

お世話になりました。第一志望はダメでしたが、どうにかこの大学には入れました。やりたいことも一応はできそうです。本来とは少し違うけど。

淡々と報告する。泣きも笑いもせずに。

落ちた時も受かった時も涙ひとつ出ずに、表情一つ変えずに、ただ現実を受け止めた。それだけ。一生懸命やってきた受験勉強が終わった。ただそれだけ。

高校の先生はとりあえずねぎらってくれたとは思う...ホッとしてそうではあった気がする。私自身、大泣きもしてないし。一応、決まったし。正直、あまり覚えていないけど(笑)ごめんなさい。でも、それくらい大した思入れなんてなかった。

高校の教員室を出て、かつての自分の教室に入る。もうすでに懐かしかった。1ヶ月もすれば、違う人たちの場所になる。でも今日はまだ私の教室。

階段を降りる。せっかくだし、中学の教員室にも寄るか。そんな思いつきで、中学の校舎にも向かった。

生憎、中学の教員室はスカスカで、なんでも、退職される先生方のお別れ会?みたいなのがあって、もうすでに多くの先生方が帰られたとかなんとか。知り合いは中学生の頃の音楽の先生がいただけだった。私に気付いてすぐに席を立ち、私のもとへきてくれた。

「どうしたの?」

高校を卒業して間もない頃。そんなすぐに母校に来るのも確かに不自然だ。

「受験の結果報告をしにきたんです。お世話になった先生方も多いですし、最後に感謝の言葉もお伝えしたくて。でも全然先生方がいなくて驚きました。もっと早くに来れば良かったですね」

先生はじっと目を見て話を聞いてくださった。

「そうなのね。で、どうだったの?」

少し緊張感のある声で聞かれた。

「第一志望はダメだったんです。でもこの大学に決まりました」

そう言うと、先生の表情が一気に明るくなった。

「すごいじゃない!!!!!あんなけ頑張ってたもんねぇ。知ってるよ。毎日遅くまで残ってたでしょ?中学生の頃から頑張ってたもんねぇ。もうこんな日に限って先生、全然いないんだから!もっとあの先生とか、この先生とか、報告したかったのにね!」

思っていたのとは違う反応だった

私は特別期待されていたわけでもなかった。高校の先生にも、家族にも厳しいって言われた。それでも見返したくて、頑張って勉強した。自分くらいは自分を信じたくて、それでも最後は不安で、信じられなくなってきて、でもあれだけ頑張った日々を無駄にしたくなくて、最後の最後まで頑張った。それでも結果は優しくなくて、最後の最後に受かった大学に行くことになって...

視界がぼやける。声が震える。

「私、ダメなんです。実力不足だった。頑張ったけど、ダメだった。いろんな先生にもお世話になって、いろんなことを教えてもらって。両親にもお金を出してもらって。それなのにずっと行きたかった大学じゃなくて、成績と自分の優先順位で決めた大学になった。こんなの...こんなの...」

何かがプツリと切れた。大粒の涙がこぼれた。嗚咽を出して大泣きした。初めてだった。

受験期、不安になって泣くことはたくさんあっても、恐怖に押しつぶされそうになって、ストレスで身体の一部が動かなくなったときも、人前で泣くことはなかったし、泣いたとしてもこんなにも大声をあげることはなかった。

我慢して歯を食いしばって頑張ればきっとうまくいくはず。そう言い聞かして頑張った日々。たとえ誰にも期待されなくても、自分だけは自分を信じてあげたくて、ただひたすらに走り抜けた。

全部が思い出される

ああ、終わったんだ。本当に。全部終わったんだ。

「ごめんなさい。泣くつもりは全くなくて。だってさっきまでずっと無だったし」

先生は最初は驚いていたものの、黙って私の背中をさすりながらティッシュの箱ごと私に差し出して、ずっと聞いてくれていた。

「初めて。初めてだったんです。私、ちゃんと頑張れたんだって。私、ちゃんと報われたんだって。そう思えたのが今、この瞬間、初めてでした。今まで、残念だったね、でもおめでとうとか、よかったねとか、いろいろと言われたけど、でもちゃんとそれが自分に届いてなくて。どこか私は期待されていないって思ってて。でも初めて、初めて先生の言葉が温かくて、すっと入ってきて、ああ、私、頑張ったんだなって思えたんです。初めてちゃんと頑張ってよかったんだって思えて...」

声を絞り出す。整理できていない言葉の数々。でもどれも本心の私の言葉だった。

先生が優しく話しかける

「頑張ったんだよ、十分。すごいよ。立派よ。あんだけ頑張ったんだもん。でないとこの大学に行けないよ。自信持ちな!十分だから。よく頑張った。よく最後まで戦ったね」

泣き崩れる。言葉通り泣き崩れる。

散々泣いて、ティッシュの箱を半分使ったくらいで、やっと涙がおさまった。いや、出し切ったという言い方が適切かもしれない。

「ありがとうございました。本当にお世話になりました。私、今日ここにきて良かったです。この中高を卒業できて、幸せでした」

その時には笑顔に変わっていた。

中学の音楽の先生なんて、それほど言葉を交わした覚えがない。それでも質問のために教員室をのぞいたとき、いつもそこに座っていた。そして私のことを見守ってくれていた。だからこそ、何気ない言葉の数々に、温かさを感じて、純粋にそれが嬉しかったのだと思う。


挑戦しているあなたへ

どんなに周りがあなたを信じてくれなくても、自分だけは自分を信じてあげてほしい。私は最後、それができていなかったと思うから。それが唯一の後悔です。

ですが、あなたの周りには絶対に誰かがあなたの頑張りをどこかで見守ってくれています。その人は近くにいるのかもしれないし、遠くにいるのかもしれない。でも絶対にいます。忘れないでほしい。


今の私は負けずといろんなことに挑戦しています。うまくいかないことの方が多いです。それでも私は自分を信じています。

眠れない夜に過去の思い出を添えて



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