現役学芸員が実体験をもとに「学芸員採用試験」の準備について語ってみた

レンタル学芸員のはくらくです。わたし自身を無料で貸し出すレンタル活動をしています。が、普段はとある博物館で学芸員として働いています。

はくらく的「学芸員」になるための方法


経歴にも書いていますが、わたしは何度か学芸員として採用されています。当然採用試験も同じ数通過してきています。そんなわたしの実体験から「学芸員採用試験」の準備について書いてみたいと思います。

なお、わたし自身はいわゆる地方公務員として学芸員を募集する採用試験しか受けたことがありません。そのため、この内容は地方公務員の一職種としての学芸員採用試験を受けるための準備だと考えていただければと思います。

なお、これはあくまでわたしの経験をもとにしたものです。ほかの方にはほかの方の考えと方法とがあると思います。学芸員を目指す方は、いろいろな方の意見を参考にするのがよろしいかと思います。なお、学芸員によって、博物館や学芸員という職に関する感覚が違う理由については、下記の記事が参考になるかもしれません。

学芸員採用試験の準備

地方公務員の採用試験の一種として行われています。競争試験か選考試験かなど、地方公務員法的なお題目は省略します(気になる方は調べてみてください)。

試験をパスするためにやらなければいけないことは、おおむね次のとおりです。

  1. エントリー

  2. 筆記試験

  3. 情報の収集

とりあえず試験にエントリーしてみよう

採用試験を受けるためには、エントリー(採用試験への申し込み)をする必要があります。「何を当たり前のことを……」と思うかもしれませんが、学芸員になるための第一歩はここからです。

この記事をご覧の方は、おそらく学芸員という仕事に興味を持っている方だと思います。その中の何割かは、学芸員を目指している方なのではないかと思います。

そんな志望者の皆さんは、こんなことを聞いたことはありませんか?

  • 「学芸員は最低でも修士修了」

  • 「実はコネで採用する人は決まっている」

  • 「すでに会計年度任用職員として働いている人が有利」

  • 「経験者の方が有利」

確かに修士修了以上の人が多いかもしれません。コネについてはわかりませんが、いわゆる非正規で働いている人は普通外部の人より、その館の実情について詳しい訳ですから、試験では有利かもしれません。

ただ必ずしもそうとは言えません。学部卒で学芸員をしてらっしゃる方はたくさんいらっしゃいます。わたしは今まで採用されたいずれの自治体にもコネはありませんでした。正規で採用された自治体で、任期付職員をしていた経験もありません。

そのほか、わたしたちの目の前には、様々な「受験しない理由」が転がっています。家から遠い、小さい自治体だ、専門性が生かせそうにない、寒い/暑いところは苦手だ、その他もろもろ。いろいろあると思いますが、とりあえずエントリーしましょう。数打って当たるとは限りませんが、受験しない限り合格することはありません。ちなみにわたしはこれまでに数えきれないほど履歴書を出してきました。おそらく30以上は確実だと思います。

また、学芸員は考古学や歴史学、民俗学、美術史など専門分野ごとに募集を行うことが多いです。まれに専門分野を問わない募集を行う自治体があります。少しでもかすりそうなら受けてみてもいいと思います。ちなみにわたしは日本民俗学が専門ですが、学部の専攻は近代日本文学だったため、文学の枠で試験を受けたことがあります(確か二次面接で落ちました)。

ちなみにこの時点は、最低限の情報(住所や年齢、学歴など)だけフォームなどに入力すればOKなことも多いです。志望理由も長く書かなければいけなかったことは、ほとんどなかったと思います。

筆記試験

筆記試験は、「その自治体共通の試験」と「特定の職種に関する専門試験」があります。前者はいわゆる公務員(行政職)と同じという場合がほとんどです。市町村ですと、一般教養のみの場合が多いのではないかと思います。県の場合、一般教養にあわせて行政職でも専門試験が課されることがあります(一例として山梨県の場合、「政治学、行政学、憲法、行政法、民法、刑法、労働法、経済学(経済原論、経済政策、経済史)、財政学、経営学、社会政策、国際関係」から出題されるそうです)。学芸員の場合は、一般教養のみの場合もありますが、専門試験が課される場合もあります。この場合の専門試験は、学芸員として必要な知識を問われるもの(いわゆる博物館論や文化財学、あるいは関連法令に関する出題)と専門分野の知識が問われるもの(たとえば、民俗学の採用試験であれば、民俗学史や当該地域の民俗文化財の内容に関する出題)とがあります。専門試験は、教養試験と一緒に課される場合と、一次試験(教養試験)を通過した場合に課される場合があります(中には一次試験はエントリーシートのみという場合もありました)。

一般教養については、わたし自身、あまり対策をした記憶がありません。某全国どこにでもある古本屋で100円で買った公務員試験対策本を斜め読みしたくらいだったと思います。ただし、「数的理解」と呼ばれる分野の問題については癖があるので、一通り演習問題を解いたほうがいいかもしれません。特に数学(あるいは算数)苦手意識がある方は、時間をかけることをおすすめします。

専門試験のうち、自分の専門分野については、その地域に固有のものを除き、対策をしたことはなかったです。ただし、博物館・文化財関連法規については、何度か出題された記憶があります。念のため、法令を見直しておいたほうがいいと思います(なお、わたしは毎回「あー!!これ、なんだっけ?」となっています)。ほかに何度か出題された経験があるのが、テーマや資料を提示されて、それで企画展の計画をするという試験です。これらの専門試験や面接での質問に対応するためには情報収集が必要です。

情報の収集

博物館がある地域であれば、最低でも博物館に行ってみる必要があると思います。常設展示や企画展を観るのはもちろんですが、過去の図録や年報、紀要なども眺めておくことをおすすめします。その館がどんな活動を行っているかがわかるからです。博物館に隣接する分野では、文化財や市町村史の類にも目を通しておくのがいいかもしれません。わたしはその地域の文化財をまとめた冊子や市町村市の民俗編や近世編を確認することが多かったです。わたし自身の専門が日本民俗学であることも関係しているのかもしれませんが、地域のなかを歩いてみることもよくしていました。遠方の自治体の試験を受けることも多いので、半分観光気分で歩く。そんな感じです。これらの情報収集は、現地でしか行うことができない、もしくは現地で行う方が効率的だと思います。

現地に赴かなくともできる情報収集もあります。いまはウェブに多くの情報が掲載されています。先に挙げた例でも、企画展や文化財の情報は、おおむねウェブサイトから確認することができると思います。また、行政の計画類には目を通しておいてもよいと思います。

わたしの場合は、総合計画や文化財保存活用地域計画、その他博物館や文化財行政に関連する計画類などを確認していました。

「総合計画」とは、自治体が中長期的に目指す方向性を定めた計画です。以前は地方自治法で作成が義務付けられていましたが、いまは作成しなくてもよいはずです。ただ、それぞれの自治体の条例を根拠として作成している自治体がほとんどなのではないかと思います。こちらについては、学芸員に限らず、公務員を目指す人は眺めておくほうが良いと思います。自治体の現状を知り、これからどうしようとしているのかが、よくまとまっています。ただし、どの自治体も悩みも将来目標も似たり寄ったりであるようにも思います。データ集として使うのがいいかもしれません。

学芸員を目指す方にとっては、「文化財保存活用地域計画」の方が重要かもしれません。これは、平成31年4月に施行された改正文化財保護法によって、市町村が作成することができるようになった計画です。なお、都道府県の場合、「文化財保存活用大綱」を作成しています。これは行政における文化財の保護と活用に関する個別計画です。一言でいえば、これからその地域が文化財をどのように守り、伝え、活用していくのか。その方針や具体的な計画、取り組みについてまとめたものです。

各地域の歴史・文化の概要や文化財について、コンパクトにまとまっているので、情報収集のはじめの一歩としても活用できると思います。これらの計画では、都道府県あるいは市区町村が指定している文化財だけではなく、未指定の文化遺産(この指定されていない文化財等の呼称は地域によって様々です)についても計画に記載されています。たとえば、「就職してからやりたい企画展は?」などの質問への対応にも使えるのではないでしょうか。ただこの「地域計画」は先に書いたとおり、比較的最近スタートしたものです。作成している自治体の方が少数だと思います。

これ以外にも、文化財の個別の計画(これは記念物、特に史跡についてが多いと思います)やエコミュージアムに関する計画、伝統的建造物群保存地区、ジオパーク、歴史的風致維持向上計画などの計画にも、文化財や博物館に関する記載があるはずです。

学芸員採用試験に落ちまくった受験オタクの戯言

ここからは、若干マニアックな話になります。

学芸員の募集は、おおむね欠員補充です。つまり、受験を考えている方の代わりにお辞めになる方がいるのケースがほとんどです。その方は学芸員としてどんな仕事をしていたのでしょうか? 具体的な方法についてはあえて書きませんが、調べてみてもいいかもしれません。

行政は、基本的には単年度で予算を編成し、事業を行っています。当然、博物館や文化財についても同様です。各自治体のおおまかな予算については、インターネット等でも公開されています。また、その自治体の図書館や情報公開に関する部署では、より細かい予算や決算について記された資料を見ることができるはずです。わたしはこれも確認することが多かったです。博物館や文化財に関してどんな事業を行っているのか知ることができるからです。もし学芸員になった場合にも、予算は知らずにいることができないものです。

話は横道に逸れますが、この記事を書いている今の時期は、ちょうど来年度の予算編成のあれこれを行いはじめる、あるいは行っている自治体が多い時期かと思います。学芸員の場合、秋の展示を行う時期であることも多いかもしれません。つまり、いまのわたしもふふふな感じです。

それはさておき、さらにその自治体について知りたい方におすすめの方法があります。これはおおむね、自宅からウェブサイトを通じて簡単に情報を得ることができる方法でもあります。それは、議会の議事録を検索することです。「博物館」や「文化財」などのキーワードで検索をすると、過去にどのようなことがそれぞれの議会で話題になったのかわかります。議員の方々は、住民の代表です。そんな議員の皆さんが質問した内容、そしてそれに対する行政側の答弁(回答)は、非常に重要なものです。簡単に検索できると思いますので、試しに検索してみてはいかがでしょうか。

相変わらずまとまらないまとめ

ここまで読んでいただいてありがとうございます。おそらく、こんな面白みのない内容の文章をここまで読んでいただいた方は、学芸員になりたいという方が多いのではないかと思います。

「こんなにいろいろやらなければいけないのか……」

と思った方もいらっしゃると思います。学芸員を目指している人が、ほかの仕事についていることは珍しくありません。実際、わたし自身も働きながら試験を受け続けていました。時間も体力もお金も気持ちも、とても大変な状況なのではないかと思います。いろいろ書いてみましたが、必ずしもすべてやらなければいけないわけではありません。わたし自身、ここまで書いてきたことが正解かどうかも正直わかりませんし、ここに書いてあることをほとんどやらないで、とりあえず試験を受けに行ったこともたくさんあります。ですから、「こんなやり方もあるんだ」という参考程度にしていただければ幸いです。

学芸員の募集は、自分がなりたいと思ったときに募集が出るものではありません。分野や年齢、地域……さまざまなものが一致した時にだけ、受験できるものです。さまざまな条件が一致した時にだけ、チャレンジすることができます。逆にいえば、タイミングが悪ければ、挑戦することすら許されないわけです。「とりあえず試験にエントリーしてみよう」と書きましたが、エントリーできること自体、非常に運命的なことなのではないかと、この記事を書きながら改めて思いはじめています。

ここに書かれていることをすべてやったからと言って受かるかどうかは誰にもわかりません。どんなに努力してもだめなこともあるかもしれません。先に書いた通り、それなりの数の試験にチャレンジしてきました。そのほとんどに落ちました。毎回、少しずつ挑戦の仕方を変えながらチャレンジし続けました。この記録は、その過程で得たすべてです。

わたしは博物館や文化財にかかわる仕事が好きです。レンタル学芸員という活動も、博物館のミカタがひとりでも増えればよいと思いながらやっています。それがどんな人でも嬉しいです。

ただもしそれが、わたしと同じように学芸員として働く人であったなら、より嬉しいです。

本名も顔もそもそも学芸員なのかも疑わしい人物の文章を、ここまで読んでくださった方のなかには、本当に学芸員になりたくて仕方がない人もいるのでしょう。そんなあなたにとって参考になる記載が、どこか一文でもあれば嬉しく思います。