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「合う」という豊かさ

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「自分の状態と部屋が合っていることは、豊かなことだと思います」。

飲食店勤務の吉野レミさん、IT企業に務める夫の尊さん夫婦が暮らすのは、中目黒に位置する築49年のリノベ済みヴィンテージマンション。リビング、キッチン、寝室、浴室…いたるところに窓があり、部屋中が自然光で満ちている。家具類がよく馴染み、いきすぎた気合いのようなものを一切感じさせない気持ちのいい部屋だ。冒頭のセリフは「豊かな暮らしとは」なんて、ちょっと構えてしまう質問に対するレミさんの話の一節。自分の状態と部屋が合っているって、一体どんなことだろう。

●ほころびにぐっとくる

尊さん:いろんな賃貸のお部屋がありますけど、いわゆる…って感じのきれいな間取りがめっちゃ嫌いなんです。ユニークさがないというか…「お前はここに住んでおけ」って言われているようで、「なんで生きてるんだろう」みたいな気持ちになります。大げさですけど(笑)。リノベ物件って、いい意味でどこかしらに「ほころび」があるというか、合理的なのかはわからない何かがあるじゃないですか。よくわからないところに縁があったりすると、グッときます。

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リビングの大きな窓は見晴らしも抜群。「この部屋、網戸がないんです。『いや、あれよ』とも思うんですけど、そのぶん景色が綺麗に見えるんですよね」(尊さん)

レミさん:一個前に住んでいたワンルームは、ピッカピカの築浅マンションで、すごいきめ細やかだったんです。棚も棚板もたくさんあったし、生ゴミを処理してくれるディスポーザーもあって。ゴミ置き場もフロアごとでした。それはそれで最高なんですけど、その家の“どうにもならないところ”って、なんかどうにもならなかったんです。マグネットもつかないし、画鋲も刺さらないし、きれいすぎて汚しちゃいけない感じがする。「古い家なら何してもいい」ってわけじゃないですけど、ピカピカなところに手を加えるとなんかバランスが崩れちゃう。気軽にくだらないものを貼ったりできない感じがあって、「やっぱり(家は)古い方がいいよ」って思ったんです。

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レミさんにとって豊かな暮らしとは「安心&清潔&気持ちいい」。「安心というのは、セキュリティじゃなくて居心地の良さ。身の丈に合っているというか。今の自分の状態と部屋が合っていることは、豊かなことだと思います」(レミさん)

●キーワードは“コックピット感”

レミさん:多分「コックピット感」みたいなのがキーワードですね。必要なものが必要なところに見えるように置く。言葉にすると当たり前なんですけど、そうしないと、どんどん散らかっていっちゃう。しまいこむとないことになっちゃうっていうか、忘れちゃうんですよ。

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調理器具や調味料を“しまいこまない”キッチン。「最初は『これ、ここに置くんだ〜』とか思うんですけど、改めて使ってみると『便利〜』って気づくんです。レミちゃんの収納は自分が何も考えずに物を置いていることに気づいて、カルチャーショックでした(笑)」(尊さん)

料理家のアシスタントで学んだことが多分すごく多いです。調味料はコンロの近くに出しておいていいんだとか、キッチンで学んだこと、他のスペースにも派生して、しまいこまないようになりました。オープンなラックが好きなのもそういうのがあるのかな。

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キッチンの棚に、無印良品のファイルボックスがぴったり。半透明で何が入っているのか一目瞭然だ。

●バッチリ決めるのはもっと歳をとってから

レミさん:どこに引っ越しても使えるような家具が好きです。リビングの机も天板と脚がくっついてないんですけど、気分がすぐに変わるから、いつかどうにでもできるのがいいというか…。この棚も昔からあるんですけど、本棚だった時もあれば、キッチンの狭い家に住んでいた時は作業台としてフライパンとか置いてて、そういう感じが好きなんです。

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さまざまな用途で吉野さん夫婦の暮らしに寄り添ってきたスチールラック。「家具だけじゃなくて、ヨーグルトメーカーみたいなそれしかできない家電もあんまり好きじゃない(笑)」(レミさん)

よくその場所にぴったりにしつらえる家具とかあるじゃないですか、上から下までぴったりの棚とか憧れはあるんですけど、一生ここに住むわけじゃないから。 「バッチリ決めるのは、もうちょっと歳をとって好みが固まってからでいいかな」みたいな気持ちです。

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「なんか好き」「なんか嫌い」…自分たちの感性に基づいた健やかな暮らし。小さな違和感やときめきに正直であることの豊かさに気づかされました。レミさん、尊さん、ありがとうございました。