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"アクティブファンドに低い信託報酬を求めるべきか" に対する私の考え

今週、東証マネ部さんに掲載された記事です。

アクティブファンドに低い信託報酬を求めるべきか


この問いに対する私の答えは、

求める必要は全然ない!

アクティブファンドに求めるべきはもっと別にある!

です。

上記の記事は「5年リターン」で分析していますが、私は「3年リターン」で分析してみました。

国内株式型アクティブファンド(3年リターン)を眺めてみた


データはモーニングスターから抽出しました。

スクリーンショット 2020-06-13 9.15.40

このうち、3年のリターンが確認できたファンドは513本です。

この513本をリターンで並べてみます。

202005_国内株式アクティブファンド _3年リターン_分布

513本の3年リターンの平均値は1.893%、中央値1.770%となっています。トップは23.62%、ビリは▲16.28%です。この513本の信託報酬の平均値は1.568%です。上記グラフのファンドの順序を動かさずに、ファンド各々の平均信託報酬との差をグラフ化してみました。

202005_国内株式アクティブファンド _fee_分布

一見すると、ファンドの成績と信託報酬(フィー)との間に関連が無さそう、と思いますよね。相関係数は0.0886となっており、相関が無いと言っても良いと考えます。東証マネ部の記事と同じような結論です。

その東証マネ部にはこんな指摘もありました。

決定係数(R2)は0.0275と説明力の乏しい水準にあり、信託報酬の水準が相対的に高い小型株ファンドのパフォーマンスが全体的に良好だったことによる影響も考えられる。

なるほど、小型株ファンドが相関が無いように引っ張っているのでは無いか。

では、サイズで分けて眺めてみましょう。

話題の小型株からです。

202005_国内株式アクティブファンド_小型 _3年リターン_分布

202005_国内株式アクティブファンド _小型_fee_分布

成績とフィーの相関係数は0.0532でした。サンプルは76本です。

続いて、中型株いってみましょう。

202005_国内株式アクティブファンド_中型 _3年リターン_分布

202005_国内株式アクティブファンド _中型_fee_分布

サンプルは少し増えて112本。成績とフィーの相関係数は0.2227でした。

最後に大型株です。

202005_国内株式アクティブファンド_大型 _3年リターン_分布

202005_国内株式アクティブファンド _大型_fee_分布

サンプル数はドンと増えて325本です。成績とフィーの相関係数は ▲0.0373でした。

如何でしょうか。サイズは大して関係なく、成績とフィーの間に相関は無い、

つまり、フィーが高ければ高いほど成績が悪いとは限らない、

そう感じざるを得ません!

もちろん、このデータは(2017年5月末〜2020年5月末)という一期間のみを取り出したスナップショットに過ぎないので、いつもいつもこのような結果になるとは限らない、とも考えます。

ただ、ですね、こんなことをわざわざ調べなくとも、成績とフィーにはあまり関係が無いだろう、とも思っています。ファンドのリターンの源泉は、保有資産の値動き、その入れ替え、保有資産から得られる配当等です。これは、どんなファンド、インデックスファンドでもアクティブファンドでも共通しています。インデックスファンドの場合、ベンチマークが同じならお手本となるポートフォリオが一つですから、運用の巧拙はあるでしょうけれど、リターンの源泉となる資産に極端な差は生まれません。ですから、フィーが成績に影響してくるのは当然のことです。

しかし、アクティブファンドは、個々それぞれに保有している資産の内容がまるっきり違います。保有資産のもたらすリターンが大きければ、そこそこ高いフィーを吸収してお釣りが来るわけです。

上記のグラフの結果をまとめた表です。

202005_国内株式アクティブファンド _3年リターン_まとめ

サイズ別のリターンの平均値、中央値をご覧ください。

小型株>中型株>大型株

となっています。ここからもお分かり頂けるかもしれませんが、アクティブファンドで重要なことはフィーではなく、どんな資産を保有しているか、どんな会社に投資しているか、だと私は思っています。

こちらの定期購読マガジン「アクティブファンドを眺めてみた」では、既に10本以上のアクティブファンドの記事をつくりましたが、この中でフィーには一切言及していません。チェックすらしていません。


よくよく考えると、至極当然のことですが、私がこの当然のことに気づけたのは、コツコツ投資を始めてから10年以上経ってから、でした。

市場平均を上回る成績を残すアクティブファンドを「事前に」選ぶこと、そんなことは誰にも出来ません。過去のデータだけで判断するのは、非常に危険だと思います。

大事なことは、過去のデータの背景、裏側を探ろうとすることです。

ポートフォリオの内容を取っ替え引っ替えしていて成績が良いファンドは、個人的にあまり信用できません。市場を見ながら株価=価格が騰がりそうな会社を売り買いして生み出した成績だと感じるからです。

一方、ポートフォリオの中身を短期間に大幅に入れ替えたりせずにどっしりとした投資をしていて、成績の良いファンドには、関心を持ちます。投資先の会社がどんな価値を生み出しているか、時間を掛けて調査、分析した上で投資判断していると想像されるからです。

アクティブファンドに求めるべきものは低廉な信託報酬では無いのです。

アクティブファンドに求めるべきものとは

こんな風にツイートしました。

アクティブファンドに求めるべきは「個性」と、私は思います。独自の調査、分析、それから得られる洞察を基にした投資仮説と投資判断、これが何よりも大事でしょう。

その「個性」を磨きながら、それをしっかりと丁寧に「伝える」ことです。これなくして、仲間は集ってきたりしません。また、これをなおざりにして「集めた」お金はすぐに去っていくのです。そして、信頼関係をさらに強くするために、伝え「続ける」ことです。

さらに大事なことは、「伝え」たことが、その意図通りに「伝わる」かどうか。コミュニケーションとは非常に難しいものです。送り手がいくら「伝えた」つもりでも、受け手がまるで逆の受け止め方をしていることも起こります。つまり、「伝えているけれど、伝わっていない」という現象です。ここまで心配りをすることが、私はアクティブファンド には求められる、と思います。

私の大好きな本『ゆっくり、いそげ』の中にこんなキーワードがあります。

「利用し合う」関係から「支援し合う」関係へ。

素晴らしいアクティブファンドとのお付き合いは一生ものの関係だと考えています。であれば、そこには「支援し合う」関係が生まれるようでありたい、と思うのです。それでこそ手を携え「同じ船」に乗っていることを実感できるのだ、と。

ところで、です。

1951年、日本に投資信託が生まれたそうです。来年70周年です。これだけの時間を重ねながら、時代、世代を超えて愛される投資信託って思い当たりますか?

実のところ、アクティブファンドに本当に必要なもの

これだけの時間を重ねながら、時代、世代を超えて愛される商品が無い理由。

それは、業界、投資家、役所、広く言えば、社会に、投資信託への「愛」が無いから、だと思います。

社会でそういう商品を育てていかないとね、という機運がそもそもほとんどない。投資信託は投資家なくして成立しないものです。業界がどんなに頑張っても、役所がいくら旗を振っても、投資家がその気にならなければ何も起こらないのです。一方で、業界は新しいファンドをバカスカ設定し、役所は役所でアクティブファンドには冷酷な仕打ち。上記の通り、フィーと成績には関係が無さそうなのに、それを「つみたてNISA」の商品選定の基準にしているわけですから。投資家も投資家で、、、

私個人の好みということもありますが、より大きな「愛」が注がれるべきは、アクティブファンドだと思っています。アクティブファンドには「これだ!」という会社に投資することで事業活動の後押しをすると同時に、「こりゃダメだ!」という会社にはお金を配分しないという非常に大事な機能、役割があります。だから、個性と丁寧なコミュニケーションが必要だと考えるわけですが、この積み重ねが「愛着」を育てるはず(もちろん、多くの時間を必要とするのは間違いありませんが)と信じています。

業界、投資家、役所、広く社会全体を見渡して、「アクティブファンド、いいね!」という愛を育ってこないと、おそらく、これから何年、何十年経っても、日本に広く愛されるアクティブファンドは現れないと思うのです。

実のところ、アクティブファンドに本当に必要なもの、それは

だと思います。

色々とグチってしまいましたが、投資家の愛だって全く足りてないわけです。

「アクティブファンド?そんなもの、いらんやろ」

という声もあることでしょう。でも、前述の通り、断じて違う、アクティブファンドは未来に向けて必要不可欠、そう私は信じています。

だから、まず私自身がこれまでと同様、いや、それ以上に愛を示さなきゃ!

これからも愛着を感じるファンドへの”コール&レスポンス”に取り組み続けたいと思います。そうやって、自分自身の愛着も深まっていくでしょうし、それに関心を寄せくださる人もゆっくりでも増えていくことでしょうから。

#ステキな投資信託を育てましょう

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