伊藤レポートから5年以上経った今、インベストメント・チェーンは豊かになったでしょうか??? (アクティブファンドを眺めてみた 号外版 #1)
最初にお詫びします。
定期購読マガジン「アクティブファンドを眺めてみた」の2020年2月の更新回数について、です。
このマガジンは私が関心を持ったアクティブファンド(株式を主たる投資対象)について調べたこと、感じたことを月に3回以上発信します。毎月3本のファンドを比べて読みたいという方は「マガジン購読」がお得です。ぜひご検討ください。
マガジン運営初月ということもあり、今月は昨日の1本で打ち止めになります。
誠に申し訳ございません。
そこで色々考えたのですが、アクティブファンドの調査に特化した記事以外も「号外」的に、このマガジンに加えていくことにしました。
来月は次の記事をマガジンに加える予定です。
+2020年2月末時点に私が保有している投資信託を全てご紹介
+毎月買い付ける投資信託(2020年3月)
お楽しみに。
さて、今回の「号外」で取り上げたいテーマが
インベストメント・チェーン
です。
いつも楽しみにしている、ろくすけさんのブログからです。
ろくすけさんが取り上げられている、 #NVIC さんの資料、大変参考になります。経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」でのプレゼン資料なのですが、この検討会の過去の資料集が非常に充実しているんです。
過去4回、会合が儲けられたようですが、NVICさんは第4回、フィデリティ投信さん、りそなAMさん、レオス・キャピタルワークスさんと一緒に、投資家側からみた投資先との「対話」についてプレゼンされたようです。(フィデリティ投信さんの資料は力の入ったもので、ちょっと(いい意味で)驚きでした)
第2回、第3回、は、株式の発行体である企業側からみた「対話」についてのプレゼンが載せられています。一部の会社の資料が非公開になっているのはちょっぴり残念ですが、オムロン、コニカミノルタ、塩野義製薬、丸井グループ、キリンホールディングスの資料は閲覧可能です。各社のIR、SRへの取り組み内容が紹介されていて、投資家との「対話」に対して、真摯に向き合っているという印象を持ちました。
事務局の資料の中に、こんなスライドがあります。
インベストメントチェーン
私がこの言葉を知ったのは、伊藤レポートです。伊藤レポート、ご存知ですか。
持続的成長への競争力とインセンティブ. ~企業と投資家の望ましい関係構築~
2014年8月に出されたレポートです。このレポート、非常に大事な指摘が沢山なされているのですが、金融業界は横に置くと、世の中的には素通りされてしまったように思われます(私の認識不足かもしれませんが)。
この伊藤レポートで「インベストメントチェーン」は次のように説明されています。
資金の拠出者から、資金を最終的に事業活動に使う企業に至るまでの経路及び各機能のつながり
企業の価値創造のプロセスにおいて、このインベストメントチェーンがしっかりと機能することの重要性が指摘されています。
国富の形成や資本市場の豊かさ、そして企業の持続的な企業価値創造は、インベストメント・チェーンを構成する各プレイヤーが成熟して おり、価値創造に向けて効率的に行動することの集積として実現する。チェーンのどこか に問題が存在すれば、それが「律速」となり、全体の価値を棄損してしまう。
今行われている、「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」もこの伊藤レポートの延長線上にあるわけです。投資家と投資先の「対話」が企業の持続的な価値創造に資する、間違いないのだ、そういう信念が根底にあると考えられます。私もこの信念を支持しています。
レポートは次のように続けています。
長期にわたる日本企業の低収益性は企業価値創造を阻み、その結果、日本の株式市場は 長らく低迷した。そうした市場のもとでの一つの「効率的な」行動は、短期売買によるキ ャピタルゲインの最大化であったことは想像に難くない。またもう一つの典型的な売買行動はインデックス運用にみられるパッシブ運用であった。
こうした行動は幾つかの副産物をもたらした。一つは、いうまでもなく市場の短期志向 化である。いま一つは、銘柄選択の際のリサーチの地位低下である。資産運用者による個 別企業の深い分析に対する需要を減退させ、その結果、アナリストの個別企業に対する深い分析に対するインセンティブを減退させた。
企業価値が創造されづらい環境下で、短期化、インデックス運用が広がってしまった、と。
そして、こんな指摘へ。
21 世紀の中長期資金の提供者として個人投資家の存在に注目したい。世界に例のない 800 兆円を超える個人の預貯金が中長期のエクイティ資金として直接・間接に企業に向かえば、インベストメント・チェーン自体がはるかに豊かになる。機関投資家に運用を委託し た個人が、企業に直接投資した個人が、分析能力とモニタリング意識を高めることによってインベストメント・チェーンのレベルははるかに向上する。その意味で個人投資家は中 長期的な企業価値創造の巨大な「応援団」となりうる潜在力を秘めている。
このレポートからもうすぐ6年。
インベストメント・チェーンは豊かになったでしょうか???
個人投資家の資本市場への入り口として「つみたてNISA」の開始やiDeCoの範囲拡大がありました。しかし、つみたてNISAではコストの低廉なパッシブファンドへ誘導するかのような制度になってしまっています。米国か全世界か、的な議論は喧しいようですが、日本の上場会社は見事にスルーされているかに見えてしまいます。役所は役所で、アクティブファンドの選定基準に「コスト」を設けて、多様なマネジャーへのアクセスを遮断しています。上記の通り、伊藤レポートは「パッシブ運用では深い分析は出来っこ無い」と指摘しているのに、です。つみたてNISAをつくった役所は伊藤レポートの提言に砂をぶっかけているようにさえ私には思えます。
これら潜在的な投資家層が、企業価値という判断基準を持って投資を行う長期的かつ本格的な応援株主として株式市場に移動すれば、日本企業の価値創造を支える豊かな基盤が形成される。そのための個人投資家作りを進めるべきである。 このような応援株主を得ることは企業にとっても大きなインセンティブであり、個人投資 家が応援し、投資したくなるようなインセンティブを高めるためにも、企業が自社の哲学 や「見えない価値」等を説明することが求められる。
つみたてNISAは、果たして「企業価値という判断基準を持って投資を行う長期的かつ本格的な」投資家を育ているでしょうか。「xxxを買っておけば楽チンだよね」で本当に良いのかな、って切に思います。
「お金を働かせましょう」といった比喩がありますね、よく目にします。言わんとすることは理解できますし、これらの表現にツッコミを入れるのもどうか、と思うのですが、この辺から勘違い、誤解が始まるのかもしれない、と最近、感じています。
株価が上昇し、自分の保有している投資信託の評価益が増えた際、あなたはどう思いますか。「お金が増えた!」って感じますか。でも、それって実は錯覚じゃ無いですか。お金は増えていないのです。あなたが投資信託を通じて保有している沢山の株式の、株式市場での評価が上がっているのです。もちろん、そこで解約、換金すれば現金が戻ってきますので、その行動を取ればお金が増えたことになります。しかし、現金に戻さない限りは、あなたの保有しているものはお金では無いのです、株式なんですよ。株価が下がって、保有している投資信託の時価が下がって、評価損状態になっても、それはお金が減ったのではありません。保有している株式の市場での評価が、そのタイミングで下がっているということです。何が言いたいか。大事なのは、何を保有しているか、であり、保有している株式は価値があるか、市場で評価を得られるのか、なのです。
何を持つか、何を持たないか、を判断するのは、何に投資して、何に投資しないか、ということですから、資本配分と呼ぶことが出来ます。それをどのレベルまで自分の意思でやるか、ということです。例えば、TOPIXに連動するファンドを保有するということは、東証一部に上場している会社に投資する、ということまでは資本配分しているのですが、そこからの資本配分は放棄する、ということになります。アクティブファンドを選ぶ場合は、資本配分を行ってくれる人(ファンドマネジャー)を選ぶということになりますし、自ら投資先を選別する投資家は、自ら資本配分を行っているということになります。
こうした資本配分をもう少し主体的にしないと、日本の会社は価値創造が益々拙くなっていく(もともと、下手くその会社が多いのに)のではないか、というのが、伊藤レポートの指摘だったのだと私は理解しています。いや、もう日本の会社はダメだから、米国だ、米国の会社に投資して自分の資産が増えりゃそれでいいじゃんねー、というのが最近、SNSで増えてきている印象があります。しかし、今、好調な米国の会社も、評価が高くなっているだけで本当に価値をつくっているのか、というのはよくよく見定めるべきなんだろう、と感じます。
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