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「相棒は人工知能」、SS級トレーダーrichmanbtcの考える『botter適性の備わった人』とは〜【後編】

「相棒は人工知能」、SS級トレーダーrichmanbtcの考える『botter適性の備わった人』とは〜【インタビュー後編】


✦暗いトンネルの中で

「少し個人的な問いにもなってしまいますが、そもそもrichmanbtcさんは、なぜプログラミングで稼ぐ事を思いついたのでしょうか? そして、実際に取り組み始めたのですか?」

「会社に勤めた時期があり、事情があって辞めました。生活収入を得るために事業を始めたのですがまるでうまく行かず、貯金も殆ど底をつきかけていました。ベタな話ですが、主食はモヤシという時期さえもありました。そこで、プログラミングをして稼ごうとしたのです」

「かなりの苦境にあって、追い詰められた状態で始めたのですね。
前例もあまり無いなかで、0から軌道に乗せるのは大変だと思うのですが。そこにははやはり、自信の様なものもあったのですか?」

「自信も、より正確には見通しもなかったと思います」

「先の見えない努力を続けるのが一番困難な事とも思いますが、ご自身ではなぜ頑張れたと思われますか?」

「“戻りたくなかった”というのが正直なところです」

「戻るというのは、“会社に”ですね」

「はい。業務がキライだったからと言うよりは、体質に合わなかったためです。自分でも明確になったのは今の生活をしてからなのですが、私の生活リズムは25時間周期になっている様です。1日に1時間くらいずつずれて行って、だいたい1ヶ月経って元に戻ります」

「あまり聞いたことのない話です。まるで月の満ち欠けの様な脳サイクルなんですね」

「そのため遅刻をしたり、約束に遅れる事も日常茶飯事でした。約束を破るというのはとても辛い事です。守ろうと思わずに約束をする人はいないですよね? 
相手にも悪いですし、何より自分自身の秩序が壊れている事を痛感します。
定時に出社するのもまた会社との約束ですから、その頃は本当に、いつもキツかったですね」

「そうした極めて個人的な事情であっても、日本における集団秩序の場では、『甘えている』とか『覚悟が足りない』とか厳しく責められる傾向があると思います。richmanbtcさんはその苦しさをバネにして、今の働き方を得られたのですね」

「そうですね。ですがbotterというものを、私の様に苦悩の代償として始める必要は全くないです。今から振り返れば、“こちらの方が向いていた”という事になるのかも知れません。
面白そうだなと思って始めて、淡々と着実に軌道に乗せていくというのが理想ではないでしょうか。
一つ付け加えるとすれば、他人との約束には拘束されない代わりに、自分でペースを決めて継続して行くことは必要になります。botterの場合、今サボっても“すぐに減給”というわけではありません。今の成果とは、それよりも過去に努力したものの結果だからです。しかしその事に安心してしまえば、先になってから必ず成果は半減します。
なので『自分の決め事は守る』というのは、とても大事な適性になって来ると思います。先に述べた“筋トレ的な要素”から言ってもそうですね」

✦botの威力

「こうしたお話を聞いて、“これなら自分もチャレンジしてみようかな”と思う方もいると思います。
いざ始めるには、どの様な準備が必要になるでしょうか?」

「『仮想通貨bot取引』を想定してお話ししましょう。
パソコンが1台、それと口座も1つ必要になります」

「軍資金としては、幾らくらいを考えたら良いですか?」

「1万円あれば可能です。仮想通貨は相場が変わるのでもう少し掛かる場合もあるとは思いますが、数万円あれば全く問題ないでしょう」

「そんな少額で済むのですか?」

「なので、無職で主食がモヤシの生活から這い上がれたのです。1万円を2万円にできたら、100万円を200万円にする事を考えて行けば良いでしょう」

「仮にもう少し資金があったとしても、始めたばかりの所から大きな額を動かすのは不安もあると思います。
最初のうちはやはり、模擬トレードみたいなものを活用するのが良いでしょうか?」

「基礎データが現実のものとは違うので、収益の正確な見通しを立てる手段としてはお勧めしません」

「やはり、“実弾をぶちこんで”という事になりますか?」

「裁断(自分の判断)でする場合には、実際のトレードでキャリアを積むのが最善だと思います」

「その辺は勉強料という事ですね」

「今のは、人間が学ぶ時の話です。ボットの場合、過去にあった“現実のデータ”を基にして、仮説の検証を行います。
精度はデータ化されるので、何度も改善して、勝てる様になってから勝負をすれば良いのです。なので、人間の様に負けながら学ぶ必要はありません」

「なるほど! 人間がプレーヤーとしてスキルアップしようとする時は、どうしてもそこに損得がないと真面目にやれないけれど、AIの場合は痛みや喜びがなくても、それが済んでしまった無意味な事でも、全力でやる。つまりは上達の途上で、木刀なのに真剣勝負ができるという事ですね?」

「そういう事です。『まだ勝てる様になっていない』か『勝つ』という二択のイメージです。もちろん期待値の世界ですから、ここに言う“勝つ”とは“絶対”ではありませんが。
また、すぐに負ける事がないのと表裏で、すぐに稼げるわけではありません。そこには長期的な視野が必要になります。収益が出ないのに基礎トレーニング的な作業を繰り返していくというのは、決して楽な事ではありません。
勝てる見込みの立つ精度になるまで『仮説→データ収集→検証→改善』を継続できるか。そこが、botterになれるかどうかの分かれ目になると言えるでしょう」

「あくまで期待値である以上ノーリスクではないし、楽な稼ぎ方でもないという事ですね」

「そうです」

「勉強料的な初期投資は要らず、『リスクの伴う勝負(投資)は、見通しを立ててから始められる』というのは、とても大きな発見でした」

「ついでに、botterと人間の大きな違いを、あと2つ述べておきましょう。
1つめは『反復回数』です。
人間の場合は、眠ることもあれば食事も摂りますし、時には気分転換も必要です。botに関しては、休憩することはなく、コンスタントに取引を継続することができます」

「実際、速度にも違いはありますか?」

「私の場合、リスクヘッジの意味も含めて、傾向の異なる複数のbotを用いています。それらを同時並行的に稼働させながら、1時間におよそ100回程度の取引をこなしています」

「それは普通の人だと、何回くらいになりますか?」

「3回くらいだと思います。無理して増やせば入力ミスも生じ得ますし、焦りから判断に悪い影響の出るケースもあると思います」

「軌道に乗ってからもまた、大きく違うのですね」

「回数もさる事ながら、より大きな強みはやはり、『精度』だと思います」
「事前に十分に学習したからですね?」

「ここで言いたいのは、“正確な反復”という意味合いです。botに恐れというものはないので、ブレずに期待値通りの売り買いを遂行してくれるのです。
私もそうですが、例えば相場が下がると、人間の心情としては不安になって売りたくなります。相場は揺れ動くものです。“下がったときこそ買い”だとも言えるのですが、現実にはそうは行きません。頭と身体が違う動きをしてしまうのです。これは、実際に自分のお金でトレードをすれば分かります。
しかし、botは期待値に基づく売買を淡々と遂行するので、数字の短期的な乱高下に釣られトレードが乱されることはないのです」

「木刀ではなく真剣での勝負で研鑽を積み、いざ真剣を手にして怯む事はなく、眠らずに斬り合いをずっとしている。斬れと言われたら、お茶を飲む様に自然にその指令を遂行する。
そんな剣客を思い浮かべて見ますと、botの恐ろしさと言いますか、その凄味がよく分かりました」

「恐ろしいのではなく、その頼もしいbotを相棒にして稼ぐのがボッターです」

✦ビッグ・ピクチャー of richmanbtc

「richmanbtcさんは大きな成功を収められました。本の出版もされましたし、今後は発信力なども増して行くと思われます。
その上で、どういう変化を望まれているのか。今後の展望をお聞かせ下さい」

「botterという存在がもっと認知されて、トレードという稼ぎ方がもっと一般的になって欲しいと思っています。
アニメと言えば日本、ゲームと言えば日本、と言われるのと同じ様に『トレーダーと言ったら日本』と世界に称される様になるのが私の理想です」

「なるほど、トレード立国ですか。とてもスケールが大きいですね。
日本人の性質はbotterに向いていると思いますか?」

「一概に日本人がどうとは言い切れない所もありますが。
実例を一つ挙げますと、先ほども触れましたKaggleのコンペティションでは、海外勢に引けを取らず日本人は強いです。Grandmasterの称号を持つ方も複数人います。
なので、botterの領域でも日本人はいけるんじゃないかとは思っています。“機械学習で結果を出す”という意味では、両者はかなり共通しているので」

「そこでは、どの様な性質が有利に働いていると思いますか?」

「『既にあるものに地道な努力を重ねて改善していく』という部分ではないでしょうか。そういうのは、私もそうですが、日本人はわりと得意だと思うので。クリエイティブというよりは、ある種の忍耐力がものを言うところはあります」

「よく言われる“日本人の勤勉さ”という事になりますか?」

「必ずしも勤勉かというと、難しいですね。システムの研究者には“怠ける美徳”というのもありまして。ムダなものを発見して自動化するのが仕事なわけですから。
適性としては、『粘り強さ』の様なものが必要になると思います」

「“機械学習を活用したトレード立国”。
壮大なテーマの様で、現実的な構想である事もよく分かりました。
より身近な範囲での展望も、せっかくなので聞かせて頂けますか?」

「bot取引というものをもっと広げて行きたいですし、その為にもbotterの存在や活動を知って欲しいと思っています。既にお話ししました様に、検索すればすぐに出てきます。
私よりも発信が上手で、精力的にそれを行っている人もいます。風土として“情報は共有する”という感覚があるので、お金を使わなくてもそこから色んな事を勉強できると思います。
これまでにも、例えばテスタ氏などオピニオンリーダー的な存在は現れましたが、あまり研究者たちがトレードという稼ぎ方にシフトして来なかったのはとても残念な事でした。若い人たちの感覚が、少しずつでも変わって行ってくれたらと思うのです」

「トレーダーに対する社会的な認証や一時的なムーブメントに、どこか冷めた部分を感じているのですね。
確かにオンライン診療や会議など“ヴァーチャル上で解決のつくもの”については、日本では、“気持ちがこもらない”とか、ややもすれば“手を抜いた次善策”といったイメージが残っていた様な気がします。
でもそれらは、コロナ渦の不自由な時期を少しでも生産的に、自由に、楽しく過ごすための試みの中で、価値のある手段として見直されて来たと思います。
先日NHKのニュースで、ヴァーチャル映像を用いた交通ルール周知のイベントについて、『子どもたちは、“ゲーム感覚で”交通ルールについて学びました』という言い回しをしているのを見ました。もう、そこにはネガティブな意味合いはないのだな、と思いました。
僕自身もこのインタビューを通して、botterという人たちがシステムで楽をして稼いでいるのではなくて、その収益は『仮説・データ収集・検証→改善』というプロセスを丹念に繰り返して来た成果なのだという事がよく分かりました。
そろそろ時間が来た様です。
最後にもう一度、“こうした方たちに挑戦して欲しい”というまとめをお願いします」

「・組織に頼らず、自力で稼いで生きたいと思う人
・仮説検証という、研究における基礎トレーニングとも言える思考モデルを磨き上げたい人
・若いうちに、実用もできるプログラミングスキルを身に付けたい人
・そうしたスキルを持って、より広く、そしてより良い就職活動をしたい人
には特にメリットが大きいので、私を超えるプレーヤーになって欲しいという願いも込めて、『botterの世界』でお待ちしています」

「そうした人たちの可能性を切り拓く選択肢の一つとして、botterという存在が、これからもっと広く知られていくと良いですね。
今日はとても面白いお話が聞けました。ありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


✦TOPIC  KEYWORDS✦

『ボッターの適性』
1、偏見や垣根なく、新しいものにチャレンジできる
2、スポーツにおける筋トレの様に、『仮説×データ収集×検証→改善』のプロセスを継続できる
3、自分の決め事は守る
4、長期的な視野を持って、勝てる見込みの立つまで基礎トレーニングを諦めずに継続できる
5、粘り強く、既にあるものに地道な改善をして行ける

・現実にリスクの伴う投資は、勝つ見通しを立ててから始める事ができる
・botは恐ろしいものではなく、頼もしい相棒
・日本人の機械学習を活用する能力は、今でも十分に世界で通用している

■ richmanbtc/リッチマンビーティ―シー
月次1億円以上を稼ぐSS級botter(2021年12月現在)。
東京大学卒、東京大学大学院修士課程修了。
大手IT企業勤務を経て独立。WEBサービス企業を経営する傍ら、
2020年3月より機械学習を用いた仮想通貨の自動売買に取り組む。
2020年の税引前純利益は1億9000万円、2021年は10億円に迫る。
2021年からは機械学習による株価予測「Numerai」にも参加、
また仮想通貨bot取引の裾野拡大とbotterの存在を世に知らしめるために本書を上梓した。
Twitterやnoteでも積極的に情報発信している。

©️野咲蓮 2022.01.04


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