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北の海賊ヴァイキング〜vol.11『武器と侵略』〜

こんにちは、北欧情報メディアNorrの管理運営兼ライターをやっております、松木蓮です。普段はデンマークの大学院に籍を置きつつも、北欧に関する発信をしています。

今回の連載ブログは、「北の海賊ヴァイキング」と称して、書籍に基づいて彼らの歴史を紐解いていこうと思います。参考文献は「Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen」です。2019年の夏、ノルウェーの首都オスロにあるヴァイキング船博物館にて購入した一冊です。

今回は、前回に引き続いて、参考文献の第5章「Political Life」より、ヴァイキングの「武器と侵略」を中心にみていきます。

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↑ヴァイキング船博物館(オスロ)にて

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ヴァイキングと聞いてパッと頭に浮かぶのが不当な侵略攻撃だと思います。現実には交易が中心で時々侵略していたようですが、いずれにせよ戦を通して領土拡大を図っていました。

彼らは軍隊を召集することで、戦争に出かけていました。国ごとに小さな地域で軍隊を組織し武装し、君主に従うことになっていました。彼らは俊敏な移動を強みとして機動力があったと言います。

奴隷であっても戦力として参加することが認められ敵軍を殺した者については自由市民になる権利が法律によって定められていました。


▼どんな武器で戦っていたのか?

まずヴァイキング達の武器についてです。全ての自由市民は武器を持つことになっていて、特にノルウェーではその武器が社会的地位を反映していました。

●貧困層:斧、盾
●富裕層:盾、ヘルメット、甲冑、剣、槍、斧

以下、それぞれの武器についてです。

 ■剣

全ての武器の中で、剣が最も高名なものと見なされていました。中でも、特に稀少な剣については名前が付けられるほどでした。柄については骨や角、象牙、金属などで作られていたわけですが、そこには動物のモチーフが施されることもありました。多くの剣は長さ80〜90cm、持ち手部分は幅10cmほどでした。

剣の製造にはスキルが必要とされているため、熟練鍛冶職人が担っていたようです。それから、剣が作られたのはスカンジナヴィア内なのか外の地域なのかは議論が分かれるところです。(ドイツの)ライン地方で作られていたものはすでに分かっていて、一方で多くの柄部分が独特のスカンジナヴィアンデザインが施されていることから、スカンジナヴィア内で作られたとも考えられています。

 ■槍

ヴァイキング時代のお墓から出土している武器として槍も非常に多く確認されています。大きく2種類あり、一つは重く投擲用の槍、それから軽く至近距離で刺殺するために使われていたものです。刃部分は葉っぱの形をしていて、長いもので50cm。戦闘用にも狩猟用にも使われていました。

 ■斧

次に一般的な武器に斧がありました。斧はお墓から出土されることは少なく、それよりも元々日常的に使われるものであったようです。つまり、武器としてよりも道具として利用されていたようです。後に戦闘用に作られるようにはなりますが。斧の刃は広く薄いものが多く、中には柄部分が美しく装飾されているものもありました。

 ■弓矢

槍と同じく、弓矢も戦闘だけでなく狩猟の場面でも使われていました。戦闘での弓矢は重要な武器であり、それは遠隔で攻撃できたからに他なりません。弓矢自体が出土しているケースは稀で、ヘーゼビュー(Hedeby)で見つかっていて長さ192cmにもなる長い弓でした。

 ■防御武器

最後に防御武器としてが使われていました。これに関して、多く出土しているわけではないのですが、当時のビジュアルで残されたものや文字として記録が残っています。盾は通常丸く平らで直径1mほどの大きさのものがありました。中にはペイントされているものも。

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Source: Vikings

それから、防御武器としてヘルメット・甲冑もあります。が、これは多く見つかっているわけでなく、一部の富裕層によって使われていたようです。ヘルメットは鉄製で丸いキャップ型、それから鼻と目を保護できるようになっています。

ヴァイキングのイメージとして広まっている角のあるヘルメットですが、実はこれは史実として確かなものがありません。個人的には後付けでヴァイキングの威厳をビジュアルで示すために付けられただけだと考えています。というか、不要な角を作っているほど資源に恵まれていなかったはずです。

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イメージとしてはこのイラストです。ちょっとややこしいですが、キャラクター(Norrのオリジナルキャラ「グスタフ」)は丸いヘルメットを被っています。頭から突き出て見えるのは、ムース(ヘラジカ)の角であってヘルメットではありません。

もう一つの甲冑に関しては、どのような形であったか明確な証拠が分かっていません。膝あたりまでの長さで、袖があったと考えられています(下図はあくまでも参考に)。

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Source: Vikings



▼ヴァイキングの侵略

ヴァイキングがいかにして軍事的に大きな影響力を獲得できたのかは彼らの船とその操縦技術に見ることができるというのは見解の一致が取れていることですが、なぜ侵略する必要性があったのかは未だに議論の余地のあることです。ある人はその理由を人口増加で説明しようと試み、またある人は交易の活発化とそれに伴った海賊行為に答えを求めます。

この連載ブログの第0章でも書きましたが、一般的にヴァイキング時代の幕開けは793年だとされています。ブリテン島東側沿岸部のリンデスファーン修道院への襲撃です。この襲撃について司教がかなり驚いたという証言が残っているのですが、当時教会や修道院は安全のため海岸沿いに建てられることが一般的でした。沿岸部の方が安全であるとされていたためですが、これはヴァイキング襲撃によってまんまと打ち壊されることになります。

そういえば、ヴァイキングらはなぜ修道院をターゲットに選んだのかは疑問に思う点だと思います。当時、ヴァイキング達は北欧神話に語られる神々(オーディン、トール、フレイアなど)への厚い信仰がありました。

この流れからすると、彼らからして異教徒であるキリスト教施設を襲うことは合理的に思われますが、どうやらそうではなかったようです。中世期のヨーロッパでは宗教の権威が強く、高価なものは教会や修道院に集められていました。ヴァイキングはこれ目当てでリンデスファーン修道院を意図的に襲ったというわけです。おまけに非武装である修道士らを捕虜として捕まえることも容易でした。

それでは、ここからはヨーロッパの地域ごとに分けてヴァイキングの侵略行為について見ていきます(参考文献には細かく書かれていますが、細かすぎるので大幅に割愛しました)。

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■アイルランド

830年代から集中的にヴァイキングによる掠奪が活発化し、841年にダブリン内部にLongportを建設。以降、リムリック(Limerick)など勢力を広めていく。拠点開拓してからのヴァイキングは交易商人として生活し、中には町にまで発展した拠点もありました。その最たる例がダブリンで、当時西ヨーロッパにおける最重要交易拠点の一つとされていました。

もちろん、アイルランドの人々は抵抗しましたが、当時互いに睨み合っていたということもあり、一つにまとまりませんでした。一時は大きな影響力をもったダブリンも980年の戦いで敗北を喫し、徐々に権威が落ちていく。その後、彼らがアイルランドに同化し、改宗するなどの流れを経て次第にヴァイキングとしての光が弱くなっていきました。

■イングランド:

ヴァイキング(デンマーク)がイングランドに本格的に関心を持ったのは9世紀初期でした。当時イングランドは、ウェセックス(南部)、イースト・アングリア(東部)、ノーサンブリア(北部)、マーシア(西部)に分かれていました。1066年のへースティングスの戦いにて敗北し、名実ともにヴァイキング時代の幕を閉じました。

■大陸ヨーロッパ:

834年に大陸ヨーロッパにおいても攻撃が始まります。最初のターゲットはオランダのドレスタッド(Dorestad)。以来、

835年 ノワールムーティア(フランス中西部)
841年 ルーアン(フランス北部)
842年 カントヴィク(フランス北部)
843年 ナント(フランス中西部)
845年 ハンブルク(ドイツ北部)
と侵攻が進みました。

オランダ、フランス、ドイツだけでは収まらず、地中海世界へも進出しています。
844年 スペイン(セビリャ:南部)
859年 北アフリカ


▼この章のまとめ

今回はヴァイキングの略奪行為に焦点を当ててみていきました。戦闘時の武装として、他のヨーロッパ諸国のそれと大きく違うものはなかったかと思います。資源に乏しかったということもあり、どちらかというと軽装であると思います。

この辺は、Vikingsというドラマをみてみると一目瞭然ですが(Vikingsはあくまでもエンタメとして制作されていますが)、ヴァイキングがイングランドを侵攻したときの武装の格好は大きく異なります。イングランドの方がしっかりとした防御服を着て戦闘に臨んでいたことがわかります。

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Source: Vikings

この章に至るまでに、ヴァイキング達の活動範囲の広さは何度もみてきました。今回も取り上げたように、ブリテン島から西ヨーロッパへ、そして南ヨーロッパ、北アフリカへと徐々に南下して行ったことがわかったと思います。

今回は字数の関係で次回へずらしましたが、次はヴァイキングらの植民地政策について詳しくみていきます。具体的には、アイスランド、グリーンランドなど、今の北欧社会でも関係の深い内容になっています。

それでは、また次回!
Hejdå!!



Wolf, K. (2013). Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen. Sterling Publishing.



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