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北の海賊ヴァイキング〜vol.10 『法・罪・罰』〜

こんにちは、北欧情報メディアNorrの管理運営兼ライターをやっております、松木蓮です。普段はデンマークの大学院に籍を置きつつも、北欧に関する発信をしています。

今回の連載ブログは、「北の海賊ヴァイキング」と称して、書籍に基づいて彼らの歴史を紐解いていこうと思います。参考文献は「Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen」です。2019年の夏、ノルウェーの首都オスロにあるヴァイキング船博物館にて購入した一冊です。

今回は、前回に引き続いて、参考文献の第5章「Political Life」より、ヴァイキングの「法・罪・罰」を中心についてみていきます。

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↑ヴァイキング船のレプリカ(ベルゲン海洋博物館)

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今回は、「法・罪・罰」というタイトルでヴァイキングの慣習についてみていきます。最初に法について。ほとんど現存する史料がないことが前提になるのですが、まずは「どんな司法制度があったのか?」ということについてはわかりません。わかる範囲内で、特にアイスランドについてまとめていきます。


▼ヴァイキング時代の民主主義

ヴァイキング時代において法律の重要性は高かったのですが、法整備についてはほとんどわかっていません。現存するわずかな史料からわかることも多少はありますが、どれもヴァイキングらの自国言語で書かれているものは残っていないんですね。現状、初めて文字化された法律は12〜13世紀です(ヴァイキング時代の一般的な定義は793〜1066年)。

一番古い法律はノルウェーのもので、950年とされています。これは12世紀後期版の文書からわかっていることです。スウェーデンとデンマークの最古の法律はそれよりももっと後だとされています。

どのように法制化が進み、人々に受け入れられていたかはアイスランドのみわかっています。ノルウェーから入植する過程で、Ulfljotという男がアイスランドに法律を持ち込んだというのです。なので、それ以前よりヴァイキング時代に法律があったことがわかりますね。彼は、アイスランドからノルウェーに戻り3年間あらゆる法律を各所から掻き集め、それをアイスランドに持ち出しました。ちょうど彼がアイスランドに戻った時(930年)に、アイスランドの全島集会「アルシング(Althing)」が初めて執り行われました。


 ■世界最古の議会:

このアルシングは世界最古の政治議会として知られていて、現在もアイスランドの国会(立法府)は「アルシング」という名前のもと存在しています。

930年夏、シンクヴェトリル(Thingvellir)という南西部の平原の岩肌にて全36のアイスランドの集落の長が一堂に集まり、話し合いました。ここからアイスランドの共和制が幕を開けました。各首長は「godi(神=godに由来)」という称号のもと、代弁者となり宗教的ならびに非宗教的な存在として機能しました。アルシング議長は法官として最高位に就き、唯一の非宗教的権力者でした。彼は国民の中でただ1人法律を覚えている人でもありました(当時は書き起こしていなかった)。

アルシングは「立法」と「司法」の役割を同時に担っていましたが、それを執行する「行政」の役割は持ち合わせていませんでした。

アルシングの前に、春議会(Spring Assembly)と呼ばれる議会も行われるようになり、ここではローカルな話題や小さな問題について議論されました。960年以後、アイスランド国は方位に基づいて4つの地域に分かれ、各地域でも議会が開かれるようになります。

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シンクヴェトリル国立公園(世界文化遺産)
Photo by Tucker Monticelli from unsplash


 ■シングという議会

アルシングの「アル」は英語でいう「All」を意味するので、”全島”集会となるわけですね。各地域でもシングという議会が開かれていました。ヴァイキング時代は比較的民主的な政治体制であり、奴隷や子供には参政権は付与されていなかったにしろ、女性の付き添いは認められていました(発言権は依然なし)。主に、自由市民によってシングは構成されていました。

ここでは、「土地の利権」「森林利用」「橋建設」「隣人間、家族間の諸問題」を取り扱っていたとされています。


 ■法的手続きの流れ

裁判やそれに類するものはなかったとされていて、それでも裁きは儀式的に執り行われていました。告発された当事者について無罪か有罪かは、それを立証する証人を2〜3人の自由市民を立てることが必要でした。

時として、免責の手段として多数の人が無罪を誓うことで告発が取り下げられることもありました。他にも、苦行を課し仮にそれを成し遂げられたということは無罪の証明である、といった方法もありました。

具体的には、熱された鉄を運ぶというもので、運ぶ過程で手が焼けなかったら無罪を宣言されたそうです(これをやって罪を逃れらた人はいたのでしょうか、、)。女性であれば、沸騰したお湯が入った大釜の底にある石を取り除く、という苦行だったそうです(これならまだいけなくなさそう?)。

判決は決闘によっても決まることがありました。端的にいうと、力比べということになります。



▼どのような罰則があった?

先ほどの通り、シング(議会)には罪に対する執行権力を持ち合わせていないので、法律に従って、当事者が執行する必要がありました。ヴァイキング社会は血縁関係が強かったため、家庭内で誰かが罪を犯すと、その主が責任をとることもありました。

例えば、子供が誰かから傷つけられた際、その親が変わって仕返しをすることがありました。そして、その矛先は加害者にもなりえますが、加害者の親族に転嫁されることもありました。女性や子供が罪を犯すと、その主人や保護者が責任を負うようなイメージです。これは奴隷であっても同じで、その主人に責任があればその人が変わって責任をとることもありました。


 ■罰金:

最も一般的な罰として、罰金がありました。罰金は、暴力や肉体的な報復を避ける手段とされ、争い(特に2つの家庭間)を収める上で有効でした。多くの犯罪行為は、被害者の所有物、名声、権利を侵害する行為であるので、罰金を課すことによって被害者が被った経済的な補填と道徳的な充足感を満たすものとされていたのです。


 ■社会的追放:

この償い方は罰金で済まないような事案や、罰金が支払われなかった時に施行されました。社会的追放には2種類ありました。まずは、「完全追放」です。アイスランドでは究極の罰とされていました。当時のヴァイキング社会からすると死刑に相当する刑罰で、というのも無法者は懸賞金をかけられることがあったので、殺されてしまう可能性があったんですね。なので、一度社会から完全に追放されると2度と戻ることは出来ず、所有物も全て失います。死後も墓場に埋葬されることはなく、無法者の子は相続権を失います。

もう一つの追放の在り方は、「限定的追放」です。これは一部地域より追放されるというものです。アイスランドでの史料によると、限定的に追放された者は首長に誓いのリング(life-ring)を渡し、所有物を剥奪され、3年間アイスランドから追放されます。3年間アイスランドを出なかった場合には、完全追放となりました。


 ■死刑制度:

死刑制度はスウェーデンやデンマークでされていたと記録があります。該当する罪としては、強姦犯、強盗犯、中傷者、姦通者などが含まれます。死刑の仕方には複数種類があり、「断頭、絞首、車裂き、火炙り、投石、生き埋め」などがありました。死刑執行は検察に該当する人が執り仕切っていました。また、姦通、強姦、窃盗などの行為で捕まったものについては被害者がすぐに報復することも容認されていました。


 ■体罰:

鞭打ち、切断のような肉体的に苦痛を与える手段も一つの罪の償い方としてありました。主人を殺害した奴隷が逮捕されたのち手足を切断された、という記述が残っているくらいです。後に、こうした体罰は窃盗や大きな借金、性犯罪などの罰として使われることもありました。



▼この章のまとめ

今回は、「法律」と「罰則」を中心に見てきました。法律に関しては、どのような法律があったのかということではなく、どのように立法府が機能していたのかをアイスランドのアルシングを例にまとめました。北欧は現在民主主が成熟していて、国民が率先して政治参加をしてことで知られています。これは統計的に見ても事実であり、北欧諸国の投票率は8割を超えることは珍しくなく、地域によっては9割を超えるところまであります。

これは、もちろん政治の透明性や学校教育などが大きく影響しているかと思いますが、かもすると1000年前よりその土壌が形作られていたのかもしれません。北欧諸国で女性参政権が付与されたのは世界的に見ても早く、法整備された年はそれぞれ、フィンランド(1906年)、ノルウェー(1907年)、 デンマーク&アイスランド(1915年)、スウェーデン(1919年)です。これは、世界で一番早かったニュージーランド(1893年)に次ぐ早さです。

罪の償い方には、当時の野蛮さが垣間見れました。ノルウェーの刑務所は(誇張した表現ですが)”パラダイス”だと言われることが多いです。今となっては、罪人への「報復」ではなく「修復」に更生の在り方を見つめ直した北欧でもかつては残忍な方法を取らざるを得なかったようですね。

それではまた次回お会いしましょう!

Hejdå!!



参考文献:
Wolf, K. (2013). Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen. Sterling Publishing.



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