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レクイエム 元澤一樹     【JOINTPOEMS】

【JOINT POEMS】収録作品
レクイエム  元澤一樹


爛れた青壁から剥き出しの鉄骨、炎は龍の鉤爪
夏の終わりに見る夢のような夜とその風景
鋭いもので脳に、脳よりも脊髄に
もろに投影される光
冷たい、と感じるよりも先に流れる雫
慕情にも似た喪失感が口を継いで、溢れ
初秋の空に放たれてなくなる
水の中でも息が続くように
僕らは魚になって、この場所を捨てた
今は海で、池で、湖で、河川で
それぞれができることをするために
また会おう

取り止めもない幸福論が
滑らせた口からこぼれ落ちて
──光った!
瞬間、消えた
祈りにも似た少女の瞳は
夏の日にきらめく
花畑の姿で
そこに居る、そこに在る
一筋の光芒
永遠のような眼差し

鰓呼吸を繰り返し
なめらかな尾びれを震わせて
空の果てを目指す
泡を吐き出しながら
一心不乱に

目まぐるしく駆け巡る
金色の虎は一陣の電閃
断ち切る夕べにくれてやる
言葉が既に灰になり
塵と化し風に舞い上がる
最中に、詩は絵になり
絵は写真になって、書になる
書は歌になり、踊り狂っては
ひとつの粗末な椅子になる
椅子は、皆から神と崇められ
畏れられ、奉られながら
長い月日とともに苔むし
やがて、花へと変わるのだ
花はそこにある
お前がそこにいるように
花はそこにある
お前がそうであるように

未だ存在しないものたちの産声は
かつて存在していた者たちへの弔いになる
叫び、祈り
叫び、祈り
鎮魂の声は風に乗り
海の向こう
ずっと先の土地で生きる人々へと
伝えられるような声で、今は
それぞれが声を出し、声になり
紡ぎ続けるレクイエム

【JOINT POEMS】とは

宜野湾市のアートギャラリー・PIN-UPが、火災により全焼しました。
今回の企画詩集【JOINT POEMS】は、沖縄のアート文化の発信地、PIN-UPの再建支援のため、「PIN-UP」をテーマに書いた詩を募集して一冊にまとめ上げた詩集です。
PIN-UPクラウドファンディングのリターンとしての提供のため、詩集【JOINT POEMS】のご購入はキャンプファイヤーでの受付になります。

筆者コメント

いつかPIN-UPの詩を書こうと思って、思ったまま、そのまま忘れては思い出してをくり返しあと回し、その末が今だ。前に、高倉健の死をきっかけに『ぽっぽや』を観たことがある。DVDレコーダーに録画されたまま未視聴だった関じゃむに出ていた津野米咲の笑い声。生まれてから今まで首里城に行ったことがないことを、恥ずかしいと思った。志村けんが死んで初めて、志村けんが好きだったんだと自覚して、2020年はたしかに最悪の年だったかもしれない。今が過去になり「いつか思い出になれば良い」と祈るような叫びが、せめて詩になり、PIN-UPを知らない人たちの目に映れば、と思います。

プロフィール

元澤一樹。1996年、糸満市出身。15歳から詩作をはじめる。学生時代に沖縄県内のいくつかの文芸賞を受賞し、大学時代には、在学中に1,000編の詩を書くという目標を立て、達成する。文芸誌「煉瓦」、朗読団体RE:presentに所属。2020年に第一詩集『マリンスノーの降り積もる部屋で』を出版。自動ドアが開くまで大人しく待てないため、肩を頻繁にぶつける。

SNS一覧

元澤一樹
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Twitter//@PINUP_CF
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