「時間」が作る味、デンマークのライ麦パン
今回は、デンマークのライ麦パン(Rugbrød ルブロ)はどんな風にできるのか、お見せしていきます。
おうち時間が長くなった今、「時間」が作るデンマークのライ麦パンとはどんなものなのか、作り方や日本のパンとの違いからお伝えできればと思います。
「時間」が作る味: 長時間発酵
ルブロを作る上で、一番大切なのは「時間」です。
パンの美味しさは、発酵でできています。パン酵母の働きで発酵する過程で、ガスが出てふんわり膨らんで食感がよくなります。さらに十分に時間をかけて発酵することで、でんぷんやショ糖、グルテンなどが分解されてアミノ酸などになり、より深みのある美味しさが作られます。成分の消化もしやすくなり、健康で美味しいパンができます。
この長時間発酵の醸し出す美味しさ、それがデンマークのルブロの味です。この長時間発酵というプロセスが得意なのが、天然酵母と言われる昔からのパン酵母です(最近は少量のイーストで低温長時間発酵させることで、複雑な味わいを実現しているフランスパンなども増えてきました)。
ライ麦パンを作る源: サワードウ
発酵で美味しいパンを作り出すパン酵母には大きく2つの種類があります。
・イースト:イースト菌を純粋培養(ドライイースト、生イーストなど)
・天然酵母:自然のイースト菌や乳酸菌が発酵したもの
(サワードウ、レーズン酵母などのスターターなど)
デンマークのルブロはサワードウを使います。
サワードウは天然酵母の一種で、粉と水を混ぜて常温に置いておき、自然のイースト菌や乳酸菌を発酵させたものです。
ライ麦はグルテンがほとんどないので、生地が伸びづらく、ふんわりさせるのが難しい。それをサワードウのイースト菌や乳酸菌が発酵させて膨らませて、美味しいパンにしてくれるのです。サワードウにはいろんな菌がいるので、発酵の過程で副産物が生まれて、複雑な美味しさができるのもサワードウのいいところです。
私はライ麦をメインとするサワードウを使っています。ライ麦のサワードウは酸味が強めという特徴がありますが、その発酵の味の複雑さが小麦のサワードウとは異なります。好みだと思いますが(酸味が苦手な方もいるので)、深みのある味わいが出ると思います。
ここからは、どのようにルブロが長時間発酵でできるのか、時間経過とともに見ていきたいと思います。
ステップ① サワードウをリフレッシュ(1日目 8:00)
冷蔵庫で休んでいるサワードウを起こして、パンを作るのに十分アクティブな状態にするため、リフレッシュします。
サワードウの菌たちのごはんになる粉と水を足して常温に戻すと、サワードウの菌が活動を始めます。温度・湿度の違いや、サワードウの元気さによっても違いますが、パン生地の仕込みの12時間前くらいにリフレッシュします。
リフレッシュが大切なのは、もう一つ理由があります。
それは、発酵が進むと酸味が強すぎるから。菌たちは低温でも生きているので、冷蔵庫の中でも発酵は進んでいきます。そうするとかなりの酸味に…!味のコントロールとしてもリフレッシュが必要なんです。
粉と水を混ぜて置いておくと、、、倍以上の大きさに!香りもヨーグルトのような甘酸っぱい香りがします。ぷくぷくと泡のある状態が一息落ち着いた頃が、パンの仕込みどきです。
右側に貼ったシールが混ぜた時のライン。倍以上に膨らんだことが水面の位置で確認できます。泡が落ち着いて、仕込みどきです。
ステップ② 前種を仕込む(1日目 20:00)
サワードウが元気になったら、いよいよパン生地の前種を仕込みます。前種を作って発酵させてから、粉を追加したりシード類や味付けと合わせることが多いです。
サワードウを水に入れるとふんわりと浮かびます。このふんわりとした発酵が、パン生地を作るんです。
ステップ③ パン生地を作り型に仕込む(2日目 8:00)
発酵した生地に粉やシード類を混ぜ、モルトで香りをつけたり、ハチミツやビールで味をつけたりして、最終的なパン生地にします。
ライ麦パンの生地はべったりとしていて手でこねることはできません。木べらで均一になるように混ぜてから、型に入れます。
表面を平らにならして、パンは最後の発酵へ。長いと6時間ほどかかります。
ステップ④ パンを焼く(2日目 12:00頃、70〜100分)
この工程は時間の融通が利きません。パン生地の発酵具合で、10時に焼き始められるのか、14時まで待たないといけないのか、、、気温やその時のサワードウの元気さで変わります。パン生地がふんわりと持ち上がり、いいぞ!というタイミングを見極めるのが大切です。
発酵が十分になったら、オーブンでパンを焼きます。
発酵が終わったところ。4割くらい膨らみ、表面もふんわり丸く持ち上がっています。
ライ麦パンは水分が多いので、焼くのに時間がかかります。このタイプは70分ほど。私の焼いているレシピの中では短い方です。
ステップ⑤ パンを休ませる(〜3日目 14:00)
オーブンからいい香りがして、ついつい食べたくなりますが、、、ルブロの「焼きたて」は、オーブンから出してから、なんと1日後!
最低でも一晩、休ませる必要があります。
ルブロが焼きあがったとき、パンの中はまだ蒸気でいっぱい。中心温度は97〜98度にもなるので、オーブンから出したとき、中では水分が煮えている状態で、3〜4時間はまだまだ熱い状態が続きます。この状態で切ろうとすると、中はべったりとしたお餅のようで、まるで生焼けの失敗に見えるかも。。。
休ませると、水分の多い生地が落ち着いてきます。パンがスライスできるようになるのは翌日。24時間近く置いてからの方が、生地が落ち着いて美味しく食べられます。
時間が作る味、ルブロ
こうしてみると、ほぼ3日がかり。それぞれのステップで複雑な技術は必要ありません(バゲットやクロワッサンの方が難しい)が、時間はたっぷり必要です。手間隙かけて、という言い方がありますが、手間よりは絶対的に時間をかけることでできる美味しさ。
本当に「時間」が作る味だな、と思います。
でもこの「時間」があってこそ、デンマーク人の心の味であるルブロ、”ジューシーなパン”と表現される、しっとりとして香り高い、噛み応えもありながら柔らかい、美味しいパンができるのです。
おうち時間が長くなりました。
時間はただ長いのではない。とっても豊かな味を、豊かな生活を、作り出すことが出来るんだなと思います。
ぜひ「時間」をかける料理を、この機会にチャレンジしてみてください。
この記事が参加している募集
デンマークの幸せの秘訣、ヒュッゲな時間をもっと広めるためにサポートいただけたら嬉しいです! いただいたサポートはオープンサンドの試作など、デンマークの食文化研究に使わせていただきます。