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VRC小説

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VRChatを舞台にした短編小説群。続き物だったりそうじゃなかったりします。
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2022年12月の記事一覧

if√、あるいは可能性の先

if√、あるいは可能性の先

「いらっしゃ~い」

そのスナックは、数あるVRC内のイベントにおいて、目立つことのないものであった。

ワールドはVRらしい非現実感はなく、入れる人数を極端に絞っており、そもそもパブリック公開をしていない。故に、そこに入るには、女将が非定期に開店するイベントのタイミングのみである。その分、女将がお酌をしてくれたり、話を聞いてくれたりしてくれるため、居心地はそれなりに良い。

そんな女将は普段、和

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華はなくても果実は実る クリスマス編

華はなくても果実は実る クリスマス編

「「ウィーウィッシュアメリクリマスウィーウィッシュアメリクリッスマス」」

赤い服を着た美少女がふたり、向かい合って殴り合う光景を見ながら、オレは隣りにいる友人に問いかけた。

「なぁ、アレは何をしているんだ」

隣りに座るのは、和服に身を包んだウサギ耳の幼女、のガワを被った両声類系男子。
彼女はオレから目を反らしながら、

「クリスマス、かな」

そう言葉を濁した。

すっげぇ苦し紛れで言ってい

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その献身は誰のために

その献身は誰のために

俺がよく行くそのスナックは、数あるVRC内のイベントにおいて、特に目立つものではなかった。

ワールドはVRらしい非現実感はなく、ここだけにしかない珍しいギミックが設置されているわけでもない。

現実のどこかにありそうなチープな店内に、BOOTHで売られているギミックを組み合わせた、よくあるワールドのひとつだ。

他と異なる点を上げるとすれば、極端に受け入れ人数を絞っていることと、イベントの開催が

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時の針は頂点を指し示した

時の針は頂点を指し示した

昔、よく訪れていたワールドが閉鎖することを、Twitterで知った。

そのワールドで何かトラブルが起こったわけではない。ワールド製作者の私生活が忙しくなったことで、立て続けに行われた大型アップデートへの対応が間に合わなくなったらしい。

そのまま放置してもワールドはトラブルもなく残るだろう。だが、製作者は閉じることを選んだらしい。

そのツイートを見て、僕は久しぶりにそこへ向かうことを決めた。

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