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"若人の懊悩"と『未来ノート』~今の清宮海斗について、私が感じている事~

はじめに

2021.5.30

この日は夕方からプロレスリング・ノアの大田区総合体育館大会を観戦予定だった。
しかし、新型コロナウイルスの影響もあり、大会は翌日の後楽園ホールでスライド開催されることに…。


急遽、日曜夕方の予定が空いてしまった私だが、偶然にも同日に、自宅近所の中野サンプラザでMay'nのワンマンライブが行われることを知った。


勢いでチケットを買った私は、2018年の日比谷野外音楽堂以来となるライブ参戦。


この日がコロナ禍以降初の有観客ライブだったというMay'nが、アンコールに選んだ曲が、新曲の『未来ノート』だった。


ビジョンに映し出される歌詞を見て、私は思わず胸が熱くなった。

何故なら、清宮海斗に対するエールを歌っているような気がしたから。


迷いの淵に立っていた若人

2020.1.4、プロレスリング・ノア後楽園ホール大会。

2020.1.4 後楽園ホール『清宮海斗vs潮崎豪』


この日のメインで、1年以上にわたり守り続けてきたGHCヘビー級王座から陥落した清宮海斗。


以降、清宮はシングル戦線には台頭するも、中々結果の出ない時期が続いた。


シングル王座陥落後に初出場した『N-1 VICTORY 2020』では、決勝まで駒を進めるものの、中嶋勝彦の圧倒的な攻撃の前に屈し、準優勝。

2020.10.11 エディオンアリーナ大阪第1競技場『清宮海斗vs中嶋勝彦』


翌2021年5月、横浜ラジアントホール大会で組まれたNOSAWA論外とのシングルマッチでは、大流血の末に敗戦。


論外戦後、もがき苦しみ、「プロレスがわからない」と懊悩する清宮。


2021年6月の『サイバーファイトフェスティバル2021』では、DDTプロレスリングとの対抗戦でまさかの敗戦。


2021年7月には久しぶりにタイトル獲得を果たしたものの(GHCタッグ王座)、防衛回数0回で王座陥落。


決勝トーナメントに進んだ『N-1 VICTORY 2021』も、準決勝で拳王に敗戦…。


2022年は、元日の日本武道館大会で拳王の保持するGHCナショナル王座に挑戦するも、側頭部ハイキック一閃でKO負け。


2022年1月、新日本プロレスとプロレスリング・ノアの対抗戦でメインの舞台に立つも、2020年より清宮が対戦を熱望していたオカダ・カズチカのレインメーカーに屈し、3カウント。


同年4月、空位となったGHCヘビー級王座の王者決定戦に名乗りを上げるも、潮崎豪に敗れベルト獲得はならず。


上述のように、清宮海斗は迷いの淵に立っていた。


私が前述の『未来ノート』を聴いた2021年以降も、清宮はそのトンネルから抜け出せずにいた。

あまりに結果が出ない日々を見て、「プロレスの神は、清宮海斗に試練を課しすぎてはいないか…」と思ったこともある。

迷いのトンネルは、長く険しい。


迷いながらも掴んだ支持

上述のように、2020年1月のGHCヘビー級王座陥落以降、あと一歩という所で結果を逃す事も少なくなかった清宮。

しかし、この間、間違いなく清宮が得たものはある。
それは、観客の支持率である。

2021.7.22 NOAH後楽園ホール大会・GHCタッグ王座決定戦


苦しい時期は続いたものの、個人的には、2021年頃の「わからないよ」期が大きかった気がしている。
これによって、懊悩する清宮の一挙手一投足が、NOAHファン以外にも注目されるようになっていったから。

2021.8.5 NOAH後楽園ホール大会


まるで、もがき苦しむ清宮の現状と反比例するかのように、注目の視線と期待は増していったように見えた。

2021.9.26 NOAH後楽園ホール大会


長いトンネルに光が射したのは、2022年の初夏だった。

同年7月、武藤敬司とのシングルマッチに4度目で悲願の初勝利。


試合後には、代名詞であるシャイニングウィザード、ドラゴンスクリュー、足4の字固めを譲る旨を伝えられるなど、武藤の後継者としての面も担うようになっていた。


2022年8月に開幕した『N-1 VICTORY 2022』からは、コスチュームを一新。


開幕から連敗スタートと崖っぷちに立たされるも、公式戦3戦目で2連覇中の中嶋勝彦から勝利すると、以降は勝ち星を積み重ねていき、Bブロック1位通過で優勝決定戦へと進出。


シングル戦線で、清宮の眼前にチャンスが訪れたのであった。


遂に掴んだ栄光~『N-1 VICTORY 2022』~

2022.9.3、エディオンアリーナ大阪第1競技場大会。

グレート・ムタの大阪ラストマッチも行われ、観衆約3,000人を動員したこの日のメインは、『N-1 VICTORY 2022』優勝決定戦・『鈴木秀樹vs清宮海斗』


正真正銘の初対決には、清宮が苦難の日々の中で築き上げた集大成が詰まっていたように私は感じた。


序盤のグラウンドでは、鈴木の二の腕を膝で押しつけながらマウンティングするという、落ち着いた攻めを披露。


鈴木の強い打撃を浴びても、グラウンドで捕縛されても、動じない芯。
1~2年前だったら、確実にやられていたような場面であっても、この日の清宮からは負ける匂いなど感じられなかった。


終盤、鈴木が雪崩式ダブルアームスープレックスと、正調のダブルアームスープレックスを放つも、清宮はカウント2で回避。

後者の正調が決まった瞬間、(本当はいけないのだけれど)会場から「返せ!」という悲鳴にも似た叫びが聞こえた程。
返した直後の場内に響いたどよめきは、周囲も試合が終わったと確信した事の裏返しでもあった。


鈴木が2発目の正調ダブルアームスープレックスでトドメを狙うも、清宮が切り返してフランケンシュタイナー。

返されると、そこからタイガースープレックスホールドを発射。


タイガースープレックスも返されると、すかさずシャイニングウィザード連発!

過去のGHCヘビー級王者時代を彷彿とさせる【終盤の猛ラッシュ】が決まると、鈴木から遂に3カウントを奪取。


清宮海斗、『N-1 VICTORY 2022』優勝。
それは、約2年半以上に及ぶ艱難辛苦の日々が、1つ報われた瞬間でもあった。


まとめ

清宮海斗の初優勝で幕を閉じた、『N-1 VICTORY 2022』。


GHCヘビー級王座戴冠以来となる、シングルでの実績。
実に、ここまで約2年8ヶ月もの歳月を要した。

史上最年少のGHCヘビー戴冠から、次のシングルでの実績を重ねるまで、こんなにも時間がかかるなんて、私は予想も出来なかった。


でも、この"遠回り"を経て、清宮の器や支持は確実に大きなものになっていった。
カッコ悪くても不器用でも、この泥臭さが、清宮海斗という選手の華をより色濃く映し出したのだから。


そんな清宮が、N-1優勝を経て挑むGHCヘビー級王座戦の相手は拳王。

彼もまた、今夏に自身の悲願であった日本武道館メインを叶え、GHCヘビー級王座を久方ぶりに掴んだ選手である。


苦労しながらも栄光を掴んだ両者。
どちらか一方の夢が破れる事になるのは大変辛いのだが、このタイミングでNOAHの今を争うカードが見られるのは、非常に幸せな事かも知れない。



清宮が苦難の日々を超え、一つ結果を出したことが、私はたまらなくグッと来ているし嬉しい。
こういう苦難を乗り越えて結実させる瞬間が見られるのも、プロレスの素晴らしい所だと私は実感しました。


私は今の清宮を見て、間違いなく言える事がある。

「清宮はこんなにも、強くなったよ」と。


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