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【column】 拙著 『週末でつくる紙文具』 がフランスで翻訳出版された話

ドイツから、列車に揺られてフランスへ —— 会社勤めをしていた頃、年に1、2回はヨーロッパへ出張していた。当時のわたしは文具メーカーに勤めていて、文具関連の本を編集しながら、商品企画にも携わっていた。現地では見本市や文具店をひたすら見てまわるのだが、まずドイツを訪れ、それからフランスへ移動するのがお決まりのコースだった。

そんなかつての出張コースと同じ道を、今度はわたしの本が辿ることになった。昨年ドイツ語に翻訳された拙著『週末でつくる紙文具』が、今度はフランス語になったのだ。版元のLe Temps Apprivoise社は、フランス東部、リヨンから北へ100kmほどのスヴレという町にあるという。

スヴレへ行ったことはないけれど、10年ほど前、取材でリヨンを訪れたことがある。運河沿いに立つ蚤の市が楽しくて、古い絵葉書やら古いラベルやら古い本やらを買い込んだのを覚えている。わたしはとにかく「古い紙」に目がない。旅の帰路は、だいたい紙の束の重さにひいひい泣くことになる。

そのときの一連の取材は『フランス、かわいい紙めぐり』(パイ・インターナショナル)という本になった。これは、わたしが独立してから最初の著書で、パリ、リヨン、プロヴァンスをめぐって紙を探し、それを使って紙雑貨をつくるという企画だった。ふと懐かしくなり、ひさしぶりにこの自著をめくった。10年前のわたしは「旅したい、つくりたい、書きたい」という思いにあふれている。これはこれは、負けていられないな。

話が逸れてしまったけれども、つまり、わたしにとってフランスは特別な場所だということだ。フランスの人々が古い紙の美しさを愛し、大切にする姿を、憧れをもって眺めていた。そんなフランスの人々にわたしのつくる紙文具を見てもらえるなんて。毎日ボロボロになるまで蚤の市を駆けずりまわっていた、かつての自分が聞いたら卒倒するだろう。


ところで『週末でつくる紙文具』のフランス語版には『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』というタイトルがついている。わたしはフランス語は挨拶どまりなのだが、直訳すると「日本の文具の実用書」となるだろうか。まさしく、この本はノートやアルバムをはじめとする、紙文具30種のつくり方を収めた一冊だ。奇を衒わない、単刀直入なタイトルがいい。

表紙の写真は日本語版やドイツ語版と同じだが、タイトルまわりのグラフィックデザインはローカライズされている。よく見るとタイトル下に家紋をイメージしたと思しきマークがあり、小紋のような柄もさりげなくあしらわれていて、現地のデザイナーが「JAPONAISE」感を演出するために心を砕いてくれたことがうかがえる。ローカライズとは現地の文化に馴染むようアレンジする場合が多いのだけれど、この本の場合、より「日本らしく」見えるようにローカライズされているのが興味深い。

一方、造本やページ構成はドイツ語版とまったく同じだ。というのも、このフランス語版は、ドイツ語版のスミ版だけを差し替えてつくられている。最初に翻訳された段階で、別のヨーロッパの言語にさらに翻訳されることが見越されており、文字はすべてスミ版になっているのだ。日本語からヨーロッパの言語に翻訳すると、文字量はおおよそ1.5〜2倍に増える。そのためレイアウトを大幅に調整せざるをえないのだが、ヨーロッパの言語同士なら文字量がほぼ変わらない。そこで、こんなやり方が可能になる。


フランスのオンライン書店をのぞくと、この本の販売ページには出版社が用意したであろう宣伝文句が添えられている。翻訳サイトの力を借りて日本語にしてみると、とても素敵なことが書かれていた。

「日本の文具は、アートというよりも、想像力と美意識を追求したライフスタイルなのです。繊細かつ丈夫なことで知られる日本の文具は、いま、実用性と装飾性を兼ね備えた自分だけのものをつくりたいという新しい世代の人たちに支持されています」

普段使いのメモパッドやノート……ともすれば使い捨ての道具にすぎず、ワンコインで手に入れることすらできるこれらの文具を、丁寧に吟味する。あるいは、自分の手でこしらえて愛用する。それは、些細な娯楽といってしまえばそれまでだ。でも、とても身近な、取るに足らないほどありふれた道具だからこそ、きちんと選んで愛着をもって使うことは、わたしたちが生活の視座をどこに置くかということと深く結びついていると思う。


会社員時代のようにたびたびフランスへ行くようなことは、もうないのだろう。それでも、いま、わたしはとてもフランスに近いところにいると感じている。この本を通して、同じように紙を愛で、同じように手を動かし、同じことを大事にしたいと思っている人たちとつながっているのだから。


● 『週末でつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)

● 『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)

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