永岡 綾(編集者・製本家)

編集者、ときどき製本家。著書に『週末でつくる紙文具』、編書に『本をつくる — 職人が手…

永岡 綾(編集者・製本家)

編集者、ときどき製本家。著書に『週末でつくる紙文具』、編書に『本をつくる — 職人が手でつくる谷川俊太郎詩集』など。製本工程 + 製本思索 + おすすめの一冊を、2000字ほどで。 https://www.instagram.com/weekend.bookbinder/

マガジン

  • 【製本記】小川未明童話集

    『小川未明童話集』(小川未明)丸背上製・布装ができるまで。

  • 【review】 本にまつわる展覧会

    製本好きのための展覧会レビュー。遅れがち、偏りがち、話逸れがち。

  • 【製本記】 飛ぶ教室

    『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー 作/高橋健二 訳)丸背上製・布装ができるまで。

  • 【製本記】 かえるの哲学

    『かえるの哲学』(アーノルド・ローベル 文・絵/三木卓 訳)丸製上製・半革装ができるまで。

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【製本家の本棚】 随時更新中

本づくりをこよなく愛する遅読で遅筆な「編集者、ときどき製本家」の本棚。記事ごとに一冊ずつ取り上げている「おすすめ本」を随時追加します。 本づくりに役立つ本 ● 芹沢銈介・装幀の仕事 小林真理 編著(里文出版) From【review】 芹沢銈介の絵本と挿絵 ● 西洋製本図鑑 ジュゼップ・カンブランス/市川恵里 訳(雄松堂書店) From【review】 世界のブックデザイン 2021–22 ● 手製本を楽しむ 栃折久美子(大月書店) From【製本記】 小川未明童話集

    • 【workshop】 ドイツ装のノートをつくろう | 『週末でつくる紙文具』 ワークショップ at TEGAMISHA BOOKSTORE

      — 製本ワークショップのご案内 — 2024年4月6日、東京・西調布の「TEGAMISHA BOOKSTORE」にて製本ワークショップを開催します。手紙社の運営するこの書店は、訪れるたびに魅力的な本や心躍る紙と出会える、わたしの大好きな場所。店内にずらりと並ぶ手紙社オリジナルペーパーを使って、ドイツ装のノートをつくりましょう。 item 今回つくるのは、「ドイツ装」のノートです。 ドイツ装とは、表紙の背と平(ひら)に異なる素材を使った「継ぎ表紙」のこと。告知文では、こ

      • 【workshop】 文庫本をハードカバーにしよう | 『週末でつくる紙文具』 ワークショップ at TEGAMISHA BOOKSTORE

        — 製本ワークショップのご案内 — 2024年2月25日、東京・西調布の「TEGAMISHA BOOKSTORE」にて製本ワークショップを開催します。長らくお世話になっている、わたしの大好きな書店「TEGAMISHA BOOKSTORE」の移転&再開記念です。手紙社オリジナルペーパーを使って、文庫本をハードカバーに仕立てましょう。 item 今回は、文庫本を「上製」にします。文庫本というのは、やわらかい薄表紙のついた「並製」ですが、これに芯材をくるんだ厚表紙をつけて、

        • 【製本記】 野ばら 02 | 本づくりとコンプレックス

          目引きした『野ばら』を糸でかがる。今回は「フレンチ・ソーイング」という手法でかがることにした。やや簡易的ではあるものの、この本は背が平らな「角背(かくぜ)」にするつもりで、角背ならばわざわざ「本かがり」にすることもないか、と。何かと道具が入り用な本かがりに比べ、針と糸さえあればできるフレンチ・ソーイングは、準備も片づけも格段に早い。 ただ、糸を絡ませながら針を運ぶフレンチ・ソーイングの場合、糸を引くときの力をうまく加減しないと、背が締まりすぎてしまうことがある。もちろん、か

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        【製本家の本棚】 随時更新中

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        • 【製本記】小川未明童話集
          7本
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          【製本記】 野ばら 01 | 枯れた花の残り香を

          岩波文庫版『小川未明童話集』の改装を終え、次は何にしようかとあれこれ探しているときに、この本を見つけた。童心社の『野ばら』は、多々ある小川未明の童話集の中でも特徴的だ。未明のロマンティシズム時代の8編を収録し、茂田井武が挿絵をつけている。正方形に近い判型の上製本で、本文の組み方からして、小学校高学年くらいを読者に想定しているだろうか。 例によって、本を解体するところからはじめる。表紙を剥がし、背の寒冷紗を剥がす。無線綴じの糊を骨へらの先でカリカリとこそげ落としながら、さらに

          【製本記】 野ばら 01 | 枯れた花の残り香を

          【製本記】 小川未明童話集 07 | 丸背上製・布装ができました!

          文庫を改装した『小川未明童話集』が完成した。いつものように製本様式や製本材料について記録しておこう。いまだにもやもやしている失敗についても、ここにはちゃんと残そうと思う。 丸背の布装に仕立てた、糸かがりの上製本。糸かがりにするため、アジロ綴じの文庫本をペラ(一枚ずつの状態)までバラした。岩波文庫の背固めのボンドはなかなかのボリュームで、まとめて剥がそうとするとうまくいかず、地道に1枚ずつ。とはいえ、こうした単純作業はきらいじゃない。ラジオでも聴きながらひたすら手を動かすと、

          【製本記】 小川未明童話集 07 | 丸背上製・布装ができました!

          【review】 本の芸術家・武井武雄展

          数年前、とある取材で長野県岡谷市の「イルフ童画館」を訪ねた。このちょっと変わった名前の美術館は、童画家として活躍した武井武雄の絵画や刊本を所蔵している。武井作の小さな本たちは、まるで工芸品のようで、いつかもう一度見たいと思っていた。そんな武井の刊本作品が神奈川近代美術館にやってくると知り、いざ「本の芸術家・武井武雄展」へ。 明治生まれの武井武雄は、大正から昭和にかけて活躍した人物だ。いまの職業に当てはめるならば「イラストレーター」ということになるのだろうが、この一語では到底

          【review】 本の芸術家・武井武雄展

          【製本記】 飛ぶ教室 09 | 丸背上製・布装ができました!

          題字の箔押しから戻り、ようやく『飛ぶ教室』が完成した。数々の反省点とともに、製本様式や製本材料の詳細をまとめておこうと思う。 丸背の布装に仕立てた、糸かがりの上製本。「ケストナー少年文学全集」の一冊で、もともとはカラフルな装画の背継ぎ表紙だった。全集というからには糸かがりかと思いきや、いざ解体してみると無線綴じで、200ページ余りをコツコツと和紙でつなぐハメになった。見えがかりだけのことであればそこまでする必要はなく、本文は無線綴じのままで表紙のみを変えればいいようなものだ

          【製本記】 飛ぶ教室 09 | 丸背上製・布装ができました!

          【製本記】 かえるの哲学 09 | 丸背上製・半革装ができました!

          題字の箔押しから戻り、とうとう『かえるの哲学』が完成した。数々の反省点とともに、製本様式や製本材料の詳細をまとめておこうと思う。 丸背の半革装に仕立てた、糸かがりの上製本。「丸背」は背に丸みをもたせたもの、「半革装」は背を革で継いだものを指す。通常なら市販の並製本を解体して改装するところを、製本前の刷りだしが手に入ったのでそれを折丁にし、フレンチ・ソーイングと呼ばれる手法でかがり、厚表紙をつけた。 表紙の平(ひら)は、ファンシーペーパー「ポルカレイド」を染めたものでくるん

          【製本記】 かえるの哲学 09 | 丸背上製・半革装ができました!

          【review】 芹沢銈介の絵本と挿絵

          子どもの頃から出不精なわたしは、休日には(できれば平日も)一歩たりとも家からでたくない。しかし、芹沢銈介美術館は別だ。この美術館で新しい企画展がはじまると、片道2時間の道のりをいそいそとでかけてしまう。 芹沢銈介は明治生まれの染色家で、大正から昭和にかけて活躍した。匠を極めた人間国宝であり、柳宗悦率いる民藝運動の中心的人物でもあった。「染色家」と聞くと、来る日も来る日も布を染めているように思ってしまうが、芹沢の仕事は暖簾や着物地に留まらず、本の装丁やポスター、店舗の看板や包

          【review】 芹沢銈介の絵本と挿絵

          【製本記】 小川未明童話集 06 | つなぎめの物語

          型染めしたブッククロスが乾いたら、ついに最終工程、表紙貼りだ。板紙をくるみ、溝を入れ、見返しを貼る。見返しには、ハニカム構造のような模様がプリントされたロクタ紙(ネパール産の手漉き紙)を選んだ。和紙のように表情に富み、和紙よりも素朴だ。 表紙の型染めの「石」には、そこそこ満足している。しかし、日を置いてあらためて眺めると、石ではなく「水たまり」にも見えてくる。黒々とした口をぽっかり開けた水たまりの向こうには、何があるのだろう。 未明童話には訓話的なものや風刺的なものもある

          【製本記】 小川未明童話集 06 | つなぎめの物語

          【製本記】 小川未明童話集 05 | 石と鱗粉

          本文が仕上がったところで、表紙に取りかかる。『小川未明童話集』の表紙は、布貼りにしようと決めていた。とはいえ、どのような布にしたものか。無地では未明の物語には味気ないし、さりとて市販のテキスタイルでこれと思う色柄も見つからない。あぁ、染めができたらなぁ……。 昨年末、編集者として『柚木沙弥郎 — おじいちゃんと私』という本に携わった。2022年に100歳を迎えた現役染色家、柚木沙弥郎さんの人生を辿る記録の書だ。書き手は柚木さんの孫であり、柚木さんの活動をサポートしている丸山

          【製本記】 小川未明童話集 05 | 石と鱗粉

          【製本記】 小川未明童話集 04 | 未明の調べ

          糸かがりした『小川未明童話集』の背に薄く糊を塗り、ヘラで均して仮固めする。糊が乾いたら平らなところに寝かせ、背と平(ひら)の境目あたりをハンマーで叩く。「コツ」と呼ばれる木製の道具で押してもいい。すると、糸で膨らんだ背が次第に丸みを帯びていく。表裏をひっくり返しながら、ときには前小口側から引っぱったりしながらこの作業を繰り返し、少しずつ丸みの曲線を整えていく。 丸みが整ったら背を数ミリだして板に挟み、ハンマーで叩く。手首を捻りながら軽く擦るように叩くと、背が扇状に広がって、

          【製本記】 小川未明童話集 04 | 未明の調べ

          【review】 世界のブックデザイン 2021–22

          本は、いつ生まれたのか —— この問いに唯一の正解を求めるのはむずかしい。なぜなら、何をもって本とするかの線引きが困難だから。しかし、粘土板でもなく巻物でもない、わたしたちがよく知る「冊子」の形態の誕生については、紀元1世紀頃に古代ローマで発明されたとする説が有力だ。 つまり、本の基本形はおよそ2000年前にできていたのだ。コップや皿ならまだわかる。ワインを飲むため、あるいはパンをのせるための器について、その機能が最もよく果たされる形態が2000年前に発見されていたというの

          【review】 世界のブックデザイン 2021–22

          【製本記】 小川未明童話集 03 | 無口な道具が語るとき

          和紙でつないだ『小川未明童話集』を糸でかがる。一口に「糸かがり」といってもさまざまあるが、今回は「本かがり」にしよう。麻ひもを支持体にした方法で、ルリユール(工芸製本)でもこのやり方をする。 まず、かがり台に支持体の麻ひもを垂直にぴんと張る。上部の横木に織りひもで固定し、さらにソーイング・キーという金具を使って下部の凹みに固定する。その麻ひもに背をあてるようにして、目引きした本文を置く。 かがりに使うのは、蝋引きした麻糸だ。この本は台数(折丁の数)が多いので、普段よりも細

          【製本記】 小川未明童話集 03 | 無口な道具が語るとき

          【製本記】 小川未明童話集 02 | 自分という穴ぼこ

          解体した『小川未明童話集』を、再び組み立てる。ページとページを和紙で貼りつなぎ、二つ折りにして重ね、16ページの折丁にするのだ。折丁の内側は雁皮紙を使って厚みを抑え、折丁の外側はやや厚みのある半紙を使って強度を補う。計360ページ、全22折半。地道な工程だ。 桜の花びらみたいに薄く儚い雁皮紙は、少々扱いにくい。手が慣れてきた頃がいちばん危うくて、うっかりすると、たちまちくしゃっとなる。力んではうまくいかず、とはいえ気を抜いては失敗する。頭は冴え、心は凪ぎ、手はとめどなく動く

          【製本記】 小川未明童話集 02 | 自分という穴ぼこ