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身近な人でも本当の気持ちは分からないから

タイトル:カフネ
著者:阿部暁子
出版社:講談社

ずっと、努力を信条としてきた。
嫌いな食べ物も、足が遅いのも、受験も就職も。
努力すれば何でも手に入ると思ってた。
だけど、努力ではどうにもならない事態に陥った時、私はもがき、苦しみ、混乱し、大切な人をも傷つけ失っていた。

薫子は不妊治療の果てに離婚し、絶望にくれていた頃、年齢の離れた最愛の弟が突然死してしまった。遺言書の中には彼の元恋人である、小野寺せつなの名前も記されており、彼女とカフェで落ち合うところから物語は始まる。

人生のどん底ともいえる中で、せつなが働いているカフネのボランティア要員として、薫子は一緒に働き始めるのだった。

遺言書があるのに、突然死というのもおかしい。いきなり届いた誕生日プレゼントと、せつなへの贈り物、弟春彦とせつなとの接点はなどなど、さまざまな疑問を含みながらストーリーは展開していく。

カフネで薫子が会う家庭の問題点は、今の現代社会で取り上げられることの多いものばかり。
各家族は手を差し伸べられることがほぼないと言える状況で、家族のなかだけで何とかしようと必死に生活しているのが目に浮かぶようだった。
2時間限定のお友達紹介お試しチケットを利用し、訪れた薫子とせつなの二人によってつかの間の休息を得ていた。

この薫子とせつなの二人、冒頭は読者がはらはらとするほどいがみ合っている。お互いにせつなの作る料理やカフネのボランティアを通してお互いの心を開き始めていた。
母親に「真面目で努力家なのはいいんだけど、四角四面で息が詰まる。女ならもう少しかわいいげがあっておおらかな方がいいんだと思うんだけど」
とまで言われてしまう薫子と、ふてぶてしい黒豹のようなせつなは間反対のようでいて、どちらもあまり笑っていないようなイメージができてよく似ていると感じた。
途中からはコントでも見ているのかと思うくらい軽快な二人のやり取りは、重苦しい問題の中でも、ふっと気持ちが緩むような休憩時間を得るよう。

話の流れはどこにでもある話にも見えるんだけど、だからこそ、安心して読めるし、読者を置いてけぼりにしない。
薫子やせつな自身の問題も少しずつ明るみになっていく中で、いろいろな事柄が崩れ、また紡がれていくような感覚にもなる。
カバー写真に見とれ、ジャケ買いしたクチだけど、出会えてよかったと思える一冊だった。一カ月で第二版が刷られるほどの人気作品。

カフネ:ポルトガル語で愛する人の髪にそっと指を通すしぐさ

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