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ディランくんとの放課後ひみつレッスン、あとジャズは来てない──「或る歴史と或る耳と」RS編10週目を終えてのレビュワー座談会:前編

 ローリング・ストーン誌「史上最も偉大なアルバム500」のランキングを年代順に聴き、数人のレビュワーが感想を残していく企画「或る歴史と或る耳と」。今回はその特別編として、ここまで60枚の名盤を評してきた参加メンバーたちが集合し、雑感やアルバムへの思いを語った座談会の様子をお届けします(参加メンバーのうち、「コーメイ」「桜子」「湘南ギャル」「和田醉象」は日程の都合により不参加)。

 後編では各々のピンとこなかった作品について語っています!妄言と妄言の共演をお楽しみください。

https://note.com/rekishi_mimi/m/mbf35eda3d00c

お願いだから話しかけないで。|コピバンの良さ

The End End:ピンとこなかったやつの話をしよう。

しろみけさん:渡田さんとか、多すぎるでしょ。ディラン以外は大体ピンときてない。

渡田:例えて言うなら、クラス替えを早くしたい気分。ビートルズくんとローリング・ストーンズくんとビーチ・ボーイズくんは好きだけど、みんなの人気者で特別仲良くはできない。バーズくんは一回仲良くしたかな。ディランくんも学校では絶対仲良くしてくれない、帰り道がないと僕との付き合いはないんだよ。そうなると、ほんとにもう仲良くなれない。

The End End:マジで夢小説じゃん。ディランが“今日は一緒にサボちゃおっか……”とか言い始めるでしょ。

しろみけさん:海の見える電車に乗って遠くへ行きそう。

渡田:ディランくんと一緒にサボる日を本当に心待ちにしてるんだよ。はやくクラス替えしたいんだよ、ボウイくんとかイギーくんとかストラマーくんとかライドンくんがいるクラスに入れてほしいんだよ。

The End End:それもうクラスどころか、高校受験してその学校に行かなきゃでしょ。

しろみけさん:渡田さんの今いる学校とか、体育祭めっちゃ派手よ。みんなスプレーで髪の毛染めてる。

渡田:その中でも同じ給食の班になりたくないのはハウリン・ウルフ。

The End End:あぁ、友達は無理だよね。

しろみけさん:ハウリン・ウルフは机に彫刻刀で絵を彫ってるよ、多分。

みせざき:確かに、俺も刺さり方はイマイチだった。あんまりわかんない。

渡田:今パッと思い浮かんだのはそうかな。あぁでも、エルヴィスとも仲良くなれないな。

葱:なんで全部クラスメイトに変換するの?

渡田:ハウリン・ウルフとエルヴィスは絶対両隣に来てほしくない。お願いだから話しかけないで。

みせざき:ハウリン ・ウルフは確かにあんまりだったけど、シナトラは頑張って聴いて……なんかもどかしかったな。

The End End:シナトラは書くことなかったな。クルーナー唱法の話に逃げるしかなかった。

みせざき:好きになるまでまだ時間を要するかな、と。あと『Aftermath』もあんまりピンとこなかった。レビューを見たらみんなピンときてたけど、俺は「Under My Thumb」と「Paint It, Black」以外はなんか全然ピンと来なかった。俺はストーンズが好きだからさ、その前の『Out of Our Heads』とか入ってないんだって思ったし。

しろみけさん:逆に自分はストーンズにこんなハマると思わなかった。自分でも意外というか、好きだったな。

The End End:私も、もっと古くさいと思ってた。“ロックンロールだぜ、イェーイ!”みたいな。

渡田:ちゃんと気持ち悪い感じだったね。

The End End:そう、だからあの中に既にポスト・パンクが入ってるんだよ。いくつかの曲の楽器の音色とかリズムの取り方にはポスト・パンクらしさがあった。

渡田:間の取り方はポスト・パンクじゃなかった気がするな。音自体は気持ち悪いポストパンクなんだけど、ポストパンクって独特の間があるじゃん。不自然にちょっと歌詞が入ったり喋るパートがあったり、そういうのはなかったよね。むしろディランの方がそれには近いかな。

The End End:あと『Aftermath』を聴くと、よりリトル・リチャードのヤバさがわかる。ロックンロールってリズムが本質なんだっていうのが、比較でわかるっていうか。

六月:ストーンズはカバーバンドっていうか、コピバンの良さというか。

葱:ストーンズのぎこちなさみたいなのは美点だけどね。

渡田:個人的にはもっともっと崩れてほしかった。まぁそれはイアン・カーティスとかがやってくれるか。

USO NO ONGAKU|ビートルズはんにはついていけまへん

葱:俺はレイ・チャールズかな。なんか嘘の音楽に聞こえるんだよね。

しろみけさん:キミ、すごいこと言うねぇ!?

葱:映画とかテーマパークの中で鳴ってる音楽みたいだなって。そういうターンが1つあって、2ターン目で知るって感じ。何かを1回隔ててから聴いてる音楽って感じで。

六月:みんながイメージしてる、ドラマの中での漫才みたいなね。

葱:そうそうそうそう。劇中劇っていうか、『バクマン。』の中のオリジナル漫画って感じ。

六月:俺もわかんなかったアルバムの1つだったから調べたんだけど、レイ・チャールズの『Modern Sounds in Country and Western Music』ってカバー集なんだよね。カントリーとかブルースのスタンダードを、オーケストラを従えたバンドでやってるっていう作品なのね。それに公民権運動の中で、黒人のほぼ最初のスターぐらいの人が、ああいうアメリカを包括する音楽を作るってコンセプトがあったらしいのよ。

葱:そういう狙いがあったんだ。

六月:ボブ・ディランが最近ずっとカバーばっかりしてるのも、これやりたいんかなってのがあるかな。

葱:めちゃくちゃ批評的なことをやってるアルバムなんだ。また聞こえ方が変わるかも。

しろみけさん:私が言いましょうか。色々あるけど、すば抜けて退屈だったのはジェームス・ブラウンだな。JBのイメージがそもそも「Get Up(I Feel Like Being a)Sex Machine」とかだったからさ、それとも違うしね。ライブの熱狂を抑えてるという意味で、資料としての価値はわかる。

六月:映像の世紀的な感じね。まぁこの後の方が良いライブ盤出てるし。

しろみけさん:そんな語ることはないけど、ただただピンとこなかった。もう言うこともないし、談合坂くんの(ピンとこなかった作品)を聞こう。

談合坂:『Rubber Soul』です。

一同:おぉ〜

The End End:ぶっこんできたな。

談合坂:レビュワーとしては興味深いなとは思うんですけど、リスナーとしては“普通だな”ってなっちゃった。『Help!』までの、ビートルズがビートルズをしている時期はそのテンションで聴けて。前後で聴いたのがオーティス・レディングとB.Bキングで、ゲーム的な音楽が好きってのとは別にアンダーグラウンド・ヒップホップみたいなエモーショナルなものも好きな自分の側面に響いたんだけど、ビートルズはそこにも響かなかったかな。やってることの面白さはわかるけど、リスナーとしては特に刺さらないというか。

渡田:僕の中での談合坂の印象は、クラスでコルトレーンと2人でイチャイチャしてる、自分とは別グループの陰キャみたいな感じ。

しろみけさん:それで2人で音ゲーしてるんでしょ。スマホを横にして。

談合坂:なんというか、ビートルズのこの短期間のギャップについてけなかったな。ワールド・ミュージックが盛り上がってくるあたりになれば、そこからはまた別の話として歴史を楽しめるかもしれないけどね。

葱:まぁ過渡期のアルバムだからね。

しろみけさん:そういう人もいたんだろうな、当時は。

六月:ミュージシャンは気づいてたけど、ファンの人はこれわかったのかな。

しろみけさん:私(がレビューで憑依させているファン)は置いてかれてますよ。すごすぎるよ〜どうなっちゃうの〜?まさか女にハマって解散とかしないよね……。

The End End:細野晴臣のトロピカル3部作とかも、当時はみんなキョトンとしてたらしいしね。

葱:一旦リスナーを置いていくくらいじゃないと、後から聴かれないもんね。

ギターを嗜むやつらばっかり盛り上がってる|ジャズ、来ず

六月:難しいのが、今回ピンとこなかったのを並べ直して聴いてみても“意外といいな”ってなることが多くて。ピンと来るか来ないかも体調によるような気もしてて、レイ・チャールズとかロバート・ジョンソンもわかんなかった側なんだけど、なんだかんだで聴いて。結局エルヴィス・プレスリーがちょっと、完全に出順が悪いっていうか。リトル・リチャードとか聴いた後だと紛い物感がある。

The End End:レビューの順番的にはエルヴィスの方が先だけど、後からリトル・リチャードとか出てきちゃうと比べるよね。

六月:あとはコルトレーンの『Giant Steps』もわからなかった。

葱:わからないっていうか、聞き流しちゃうんだよね。申し訳ないけど。

The End End:好きじゃないとかじゃないんだけどね。書くことが思いつかないままアルバムが終わっちゃうことが何回もあった。

渡田:それで全然好きじゃないアルバムを何回も聴くからサブスクの履歴に残るんだよね。自分の聴いた回数ランキングだと、ハウリン・ウルフとかめっちゃ上だもん。

六月:あぁ、あとB.B.キングもわからなかった。

The End End:B.B.キングは正直、ギターを嗜むやつらばっかりが盛り上がってるよな。弾く人からしたら、あれがどれくらいヤバいかはわかる。

六月:ギターがすごいのはわかる、わかるけど……っていう。

みせざき:B.B.キングがすごいのはね、スケールを弾いてないのよ。5音くらいしか使ってないんだよね。

The End End:確かに、ギターの手癖とは違う音かもね。頭の中でメロディが先に鳴ってて、それを弾いてる気がする。

みせざき:それが今までのブルースとは違うし、あとバッキングもしてないんだよね。

しろみけさん:後年の映像を見てると、座って歌って、たまにソロを弾くよね。

みせざき:その頃の年寄りのB.B.キングとかにさ、ジョン・メイヤーとかが偉そうに“俺勝ってんだろ?”みたいにやってるとスゲェむかつく。

しろみけさん:ジョンはまだ生まれてないんだから許してあげて。

The End End:最後は私ですね。『The Shape of Jazz to Come』です。

しろみけさん:お、ジャズは来ず?

The End End:ジャズ、来なかった。

渡田:おみくじ?

The End End:“末吉 ジャズ→来ない”。

葱:来ず、か。

The End End:完全に好みの話なんだけど、自分が即興に対して理解のない人間だから、普通に”やりすぎやりすぎ!”って。その点、やっぱりミンガスが最高でした。逆に、あそこまで即興だとしたら、録音してアルバムにする意味ってどこに生まれるんですか、って。それ(即興)を固定する意味がないじゃん。

六月:“こういうやり方もありますよ”ってくらいの、1つの例としてはアリかな。それをライブでやっててもいいし。

しろみけさん:ライブならジャズはやってくるかもしれない、あなたのところに。

六月:逆に日本の1970年代ぐらいのフリージャズとか、あれはもっとノイズっぽいしね。

しろみけさん:それは『Ascension』とか出た後じゃん。コールマンは人がフリーって感じで、聴きようによっては下手だなって思うもん、普通に。

The End End:なるほど、まぁコールマンは苦手でしたね。ジャズが来ると思ったんですけどね。

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今回の座談会はここまで!次回からは再びアルバムレビューに突入します。


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