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Rolling Stones『Aftermath』(1966)

アルバム情報

アーティスト: Rolling Stones
リリース日: 1966/4/15
レーベル: Decca(UK)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は330位でした。

メンバーの感想

The End End

 やっぱりブルーハーツってかなりコレなんだ!というムードが全体に漂ってはいるのだけど、その中にポスト・パンク的な冷たさも併存しているのがすごく面白かった。"パンク"が確立される前からもうこの雰囲気って備わってたんだ……って。
 そして、こうしてポップスナイズ(そんな言葉があるかよ)されたロックンロールの姿を見せられると、如何にリトル・リチャードやプレスリーのそれがリズムの音楽であったかも改めて意識せざるを得ない。

コーメイ

 激しさあり、ブルース調のゆったりしたものもあるというアルバムであった。このなかでも、以下の点が気になった。
 1、飛ぶようなベースが確認された「Under My Thumb」が、耳に残った。歌詞の内容は、ここでは触れないけれども、"ぶうん、ぶうん"と小刻みに鳴る音が、音楽をダレさせることなく、引き締めるはたらきをしていたように思われる。
 2、Brian Jonesの絶妙なハーモニカが、随所に聴かれた。以前にBob Dylanのハーモニカについて触れたけれども、このアルバムのハーモニカは、彼のよりも気に入った。音は、伸びやかかつ辛さを表現している。この幅広さが、アルバムの主要な部分ではないか。

湘南ギャル

 初めて聴いた曲か時期か、何がそう思わせたのかはわからないが、イケイケどんどんアゲアゲロックなバンドだと思い込んでいた。違った。もっと早く聴いとけば良かったーーー!ちょっともったりしていて、思ったよりメロディアスで、そんでもってクール。これまで扱ってきたバンドの中で、一番気怠げだし、全然爽やかじゃない。私が好きなバンドの特徴そのものだ。ストーンズ、お前だったのか。私の源流を作りし者は……。

しろみけさん

"定まった規範よりも実利と快楽に貫かれた結果を優先する"という態度がワル/ヤンキーの美学だとするならば、ヘタった演奏の危うさをガラの悪さとしてショーの世界まで引っ張り出したストーンズは偉大なる悪心を抱えた発明者だ。ヘタウマもといヘタウマヘタなんだけど、いつ・どのタイミングで"あ、これでいいじゃん"ってなったのか気になる。「Lady Jane」のギターとか明らかにモタってる。「High and Dry」のハイハット、使えてんのか使えてないのかわかんないしやかましすぎて爆笑。しないと思うけど、練習とかやめてください。

談合坂

 中学生のころに友人のお父さんからもらったCDの中にこれがあって、ロックってやつを教えてくれるんだと期待してプレイヤーに入れたけど、当時の私には何がなにやらという感じだった。たぶん、安イヤホンしか知らなかったガキの私にはデカい音で鳴るこの音楽の想像がついていなかった。改めて聞くと、乾いた軽やかさもあるけど、それでもしっかり体が動く音楽だと実感できる。

 このアルバムを聴いて咄嗟に出た言葉が"オルタナだ"、だった。オルタナティブという言葉はあまりにも巷で言及され過ぎていて、使う人によって解釈は異なる。私はルーツや参照にしたい音楽を、少しぎこちない手つきで、自らの力量の限界を察しながらも、溌剌に解釈し出力するバンド音楽に対して"オルタナティヴ"という言葉を託したくなる。だから、ナンバーガールもアートスクールもニルヴァーナも"オルタナ"だし、私の中では黒人音楽を自分たちの力量で再解釈した『Aftermath』もオルタナと呼びたくなる。

みせざき

 恐らく一番聴き馴染みの無いストーンズの作品であり、ちょっと分かりづらかった。R&B、ブルースを踏襲している要素が少ないので、掴みづらかった。グルーブとノリに重きを置いているのでなく、ミック・ジャガーの歌のメロディーに重きを置いているように感じる。またバンドサウンドがクリーンギターやアコギが主なので、ストレートなロックという枠への飛躍を試みているのだと思う。
 前作『Out of Our Heads』の方がフェイバリットだが、咀嚼している内にこっちの方が良くなる瞬間もあるかも知れないので、これからも聴き続けていきたい。

六月

 なんというか、のちに彼らが代名詞として纏う、猥雑さや妖しさみたいなものがこの頃からあるなーと思う。でもそれらを後年のように意識的に扱ってゆくのではなく、ただ抑えきれずに漏れ出して、勢いのままに吐き出してしまっているみたいな感じがする。なんか全体的に妙に忙しなく聞こえる演奏のせいだからだろうか。別にテンポが遅い曲もあるのだけれど、なんかずっと生き急いで、ギラついていて、バタついている。それはこの人達がカヴァー・バンドとして始まっているというところにあるような気もするのだ。往々にしてカヴァーというのは、模倣元には到底及ばないか、それとは別個の方向性で凄みが出てしまっている似て非なるものになっているかのどちらかで、どちらも本物をそっくり真似しようとして失敗している状態であることは確かだ。The Rolling Stonesというバンドも、彼らが喉から手が出るほど欲しながら掴むことのできない黒人たちによるリズムやサウンドに近いようで異なる場所に逸れて行き着いてしまった例だと思う。ただそれが誰もたどり着いたことのなかった場所であっただけで。言い方は悪いかもしれないけれど、レストランやスーパー・マーケットでかかっている、ボサノヴァやチープなシンセのサウンドでカヴァーされる名曲の、あの微妙に違う!と思ってしまう違和感が、このバンドにはずーっと良い効果をもたらしながら降り掛かっている気がする。

和田

 The Beatlesが大きな大河だとしたら、Stonesのこのアルバムはサラサラ流れる小川に感じた。雄大な風景を何時間見ても飽きないようにBeatlesは何回聴いても発見があるし、対してStonesは軽いノリでそばを通り抜けてくれる。小川にも小川の楽しみ方があり、今回Stonesの気持ちよさ、楽しみ方みたいなのはよく分かったかも。
 Stonesの後年のアルバムはそこそこよく聴くので、このあと熟してどんどん大河になっていくのは知っているんだけど、熟し切ってない割に、味濃くなる前の爽やかさ〜があって楽しい。

渡田

 重くて乾いた音のドラムと、弦の震えの隅々まで聴かせてくるギターによる呪術的な緊張感がとても楽しい。この十数年後に現れるスージー&ザ•バンシーズやPILのような、妖しいポストパンクバンドの持つ、何か深刻なことが起きているかのようなメロディを、このアルバムでも楽しむことができた。
 一曲目が「Paint It Black」のせいで他のカントリー風の曲にも、そのエコーのかかった音が懐かしさを感じさせるものというより、一連の魔術の一要素に思えてしまう。

次回予告

次回は、Beach Boys『Pet Sounds』を扱います。

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