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『今日だけはどうか』柊良作


咳。
どうやら風邪をひいてしまったようだ。
気だるさもある。
あー何年ぶりか。
昔は彼が、看病をしていてくれたと言うのに。
彼はもう居ない。
何処にもいない。
私自ら彼の手を離してしまったのだ。
よくある話さ。
彼のSOSに気づいていながら手を伸ばさなかった。
それだけの事。翌日彼は死へと飛び立った。
あーなんて私は馬鹿なのだろう。
微睡んでいたいよ。君との日々に。
けれどそれは許されない。
許されてはならないことだ。
咳をした。
気だるさを抱えて起き上がる。
今日は何をしようか。
なぁ神様、今日は彼の命日なんだ。
今日くらい彼との日々に微睡むことを許しておくれ。
彼と過ごしたあの暖かい日々に。
私ももうすぐゆくよと伝えて。

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