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『道化師の舞台上』

巡って巡って巡って周り巡って。
戻ってくる。
私は何者でもない
何者にも慣れない。
何者でもない。私は誰だ。 
私は名も無き道化師。

ピエロはここに。
さぁさぁ、今宵も踊り狂いましょう。
この素晴らしい世界という舞台の上で、
私と踊りましょう?
ほら、アンドゥートラワ。
何も怖くはないさ。思うがままに踊ればいい。
気の赴くままに。踊ればいい。

ただ気をつけて、踊り狂ってるうちに、見えなくなるものがある、それに、気づいてあげて。

この素敵な踊りに、身を心を全てを注げて。
狂いましょう。

忘れないで。あなたの大切なものを。
なんだって言い、守りたいもの、思い、約束、人、救いたい人、思い、約束、あなたの心にある譲れない何かを。それだけは手放さないで。
この舞踏会で踊りきるにはそれが大切。
忘れてしまえば手放してしまえば、あなたはただの踊り狂う人形になってしまう。

演劇のように喋って、食べて、寝て、起きて、舞台は進んでゆく。踊って、踊り狂うピエロと一緒に。
さぁ道化師はここに。ここにいる全ての人へ祝福を。

ここで、ある少年の話をしよう。
ある少年は、耳が聞こえなかった。だから周りが何を言おうと、笑っていた。たとえそれが悪口だろうと。ただ、笑っていた。
だって1人ではなかったから。毎回自分の代わりに怒って泣いて笑ってくれる。全てを教えてくれて寄り添ってくれる。大切なお友達がいたから。だから少年は寂しくはなかったのだ。孤独などではなかったのだ。
めでたしめでたし

これは喜劇さ。

悲劇はこう。

ある少年はヒーローに憧れていた。
だけど、ヒーローにはなれなかった。
なぜなら、最愛の彼女を目の前で死なせてしまったからだ。
彼女は飛び降り自殺をした。彼の目の前で。
必死に手を伸ばす彼。だが、その手が届くことはなかった。
後、数ミリ。それだけの距離なのに、その手は空を切る。伸ばしたその手は届かなかった、救えなかった。彼女が飛び下りるのをただ見ているしかできなかった。もっと早く気づいていれば、なんて後悔は沢山ある。
ヒーローに憧れていた。本当は守りたいものがあった。
あの日、あの時、あの屋上で。
彼女を守りきれなかった。
そこから、ヒーローになるのを辞めた。
なれないと、資格はないと、自分を自分で封じ込めた。
その事件があるまでは、手の届く距離の範囲は救いたいと、救えると思っていた。
彼は、何も、救えてなどいなかった。
人は、時に酷く無力だと思い知った。
彼女の幸せを、願っていたのに。何よりも。自分のことよりも。
なのに、彼女の苦しみに気づけなかった。手が、届かなかった。
救いたかった、誰よりも。なぜなら、彼も同じように、飛び降りをしようとしたからだ。その時に彼女に救われたからだ。
それからだ。ヒーローになりたいと思い出したのは。
あの事件の後、彼は、ヒーローになりたいと思う気持ちを捨てた。彼女を守れなかった。ただそれだけが、彼に残されていた。彼が何も持たなくなったのも、何も求めなくなったのも、世界の崩壊すら望むようになったのも、あの事件がきっかけだ。

何も無い日常。代わり映えの無い日常に退屈している。暇だ。何か起きないかな。と、毎日思いながら過ごしている。当たり前の日々に嫌気がさしている。

人の本質は悪で。人の黒い部分こそ本性だ。

『俺は、守れなかったんだ。誰よりも、救いたいと、幸せになって欲しいと願った華弥を、救えなかった。無力なんだよ。人間は。』

少年もまた、希望の光になどなれなかったのである。

この話もまた、悲劇と呼べるだろう。
これはある青年の話さ。

頼れるお兄さんで、社会人として働いていた。
独身だったが、好きな人はいた、。
でも、その彼女は事故で亡くなった。それ以来彼女は作ってない。事故は十字路による相手の車の信号無視。一緒に乗っていた自分も同じように事故にあったが運良く軽傷ですんだ。
何も思ってないようで、感じてないようで、本当は1番悔しいと、悲しいと感じている。
毎晩夢に幸せな生活を育んでいる自分と彼女の姿を見る。
犯人を誰よりも憎んでいる。殺したいほど。
だけど、それをしたって、京楓は帰ってこない、喜ばない。
それを誰よりも知っているから、何も出来ない。

どうして、自分だけがこんな思いをしなきゃいけないのか、なぜあの時自分も死ねなかったのか。そんな思いを抱えながら、今も尚生きている。

彼女は死ぬ寸前、彼にはなったからだ。『生きて。』その言葉に沿うように生きている。
ただ、失った哀しみを背負って、こころの穴を埋められないまま、死んだように。生きている。
嘘がうまい。隠すのもうまい。負の感情をおくびにも出さない。だってその方が楽なのだから。いっその事感情を捨てて失えればよかったと言うのに。

理性の糸が切れたら、彼にすら自分がどうなるか分からない。そんな、ギリギリで生きている。

「お兄さんに任せなさい。」
『ダメだよ?大抵の大人は信じちゃダメ。』
「大丈夫。大丈夫。大抵の事は笑っときゃ何とかなる。」
『あかんなぁ。言うたやろ?信じたらあかんて。』
『笑っときゃ、何とか、なるんだ。なんとか、しなきゃいけないんだ。それが、大人、だろ?』

そんな、青年のお話。青年は奇跡を望んでいたのだ。

これは悲劇だ!だが、喜劇でもある。

人生など所詮。悲劇であり、喜劇である。

これにて!
自作自演の劇は終了にございます。
どうでしたか?悲劇と喜劇の物語は。素晴らしいものでしたでしょう?楽しんでいただけたのなら幸いでございます。

ではではまたの御来光をお待ちしております。
それでは、また。お会いしましょう。

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